第3話 後編
私は屋敷内の兵士を片っ端から影で拘束し、殺害していく。
もはや視界に入れる必要もない。
探知時に伸ばした触手状の影を操るだけで事足りた。
あちこちで響き渡る断末魔に怯えるノルは、なぜか小声で私に尋ねる。
「旦那、どうしてそんなに強いんです? 俺も多少は腕っ節に自信があるけど、旦那と比べりゃ赤ん坊みたいなもんさ。やっぱ影の魔術の性能が……」
「違う。強さの根源は鍛錬だ。地道に積み上げてきた力をそのまま発揮するだけだ。何十年と前線を退こうと、身に着いた感覚は衰えん」
「さ、さすがだぜ、旦那……俺も今じゃ情報屋なんかやっちゃいるが、昔は戦士になりたかったんだ。剣一本で歴史を変えるような英雄になってよ、それで……」
ノルの語りを聞き流しつつ、私は再度の探知を行う。
そして、クォーク家が隠れる場所を突き止めた。
「ここだ」
付与された結界ごと扉を切断して、室内を覗き込む。
灯りのない室内にいたのは、クォーク家の当主イジーン・クォークだった。
彼の背後には、妻らしき女や息子と娘もいる。
イジーンは恐怖と怒りのない混ぜになった表情で私達を睨む。
「き、貴様ら……!」
「私の家族を殺したな」
影の刃を向けて問う。
イジーンは顔面蒼白で固まっていた。
私は一歩進みながら告げる。
「嘘をつけば、絶大な苦しみを与えることになる」
「ま、待て! 確かに暗殺に関する準備を進めたのは私だが、計画自体は七大貴族の協議で決まったことだ! 断じて私の意志ではないッ!」
イジーンの主張を聞いた私は驚きを覚える。
随分と懐かしい言葉だった。
「七大貴族……」
「そ、そうだ。支配階級の人間は影の暗殺者カイド・モータルの血統を恐れている! 貴様が暗躍しすぎたのだ! 結果、力を削がれた七大貴族は、百年分の停滞を強いられたのだ!」
立ち上がったイジーンが懸命に訴えかけてくる。
彼は己を鼓舞するように声を張り上げていた。
「だから同じ悲劇を起こさないため、貴族同士で結束を強める方針となった! 利権のために争い合うのではなく、利益を共有して誰も損しない構造を目指した! つまり暗殺者の時代は終わったのだよ!」
「身勝手な理由だな。私を都合よく利用した立場でありながら、よくも綺麗事を口にできたものだ。誰も損しない構造というのも、どうせ民は勘定に入れてないのだろう」
「当然だろう! 我々貴族は貴族のために生きている! 民などどうでもいい!」
「――そういう思考に浸っているから、罪なき私の家族を殺せたのだろうな」
私は無意識に殺気を発した。
そのまま衝動的に影の刃を振るおうとした瞬間、イジーンの背後に注目する。
子供達が目に涙を浮かべて震えていた。
「……ッ」
そこで私は我に返る。
何度か深呼吸をした後、戸惑うイジーンの指を一本だけ切断した。
イジーンは手を押さえて絶叫する。
「ぐおおおおあああああああああっ!?」
私は切り落とした指から指輪を拾った。
それをポケットに入れて忠告する。
「七大貴族の証は私が貰う。死にたくなければ、遠く離れた地で暮らせ。そして二度と私の前に現れるな」
私は何か言いたげなノルを連れて屋敷を出て行った。




