第8話 前編
私は影の魔術で球体の結界を構築し、自分自身とノル、サリーアを包み込む。
目を凝らすと、結界の外の様子がうっすらと見えた。
聖騎士達が寄ってたかって攻撃を繰り返している。
彼らの光の魔術が結界を削っているが、今のところ破壊される兆しはない。
属性的には最悪だが、魔術の範囲を狭めることで結界の強度を引き上げているのだ。
(聖騎士は精鋭揃いだが、サリーアほどの実力者はほとんどいないな。さすがに稀有な才能だったらしい)
考察をしつつ、私はサリーアに尋ねる。
「君は味方から命を狙われる立場になったがどうする。彼らに投降するか」
「……私はカイド・モータルが邪悪な暗殺者だと説明を受けた。だが真実はまるで違った。私は騙されたんだ! 絶対に許せない!」
目に涙を浮かべてサリーアは叫ぶ。
彼女はまっすぐな瞳で私とノエルに言った。
「私は正義を貫く。だから、力を貸してほしい」
「わかった」
「任せとけよ、嬢ちゃん」
サリーアは善良な騎士だ。
その心意気を利用されて敵対したものの、私達は協力関係となった。
私はさっそくサリーアに指示を出す。
「今から結界を解除する。君は光の魔術を全開にして、聖騎士の攻撃を妨害してくれ。追撃はノルの担当だ」
「おう! 何をすりゃいいんだ?」
「これを使う」
私がポケットから取り出したのは、クォーク家の指輪だった。
指輪をノルに渡しながら説明する。
「七大貴族の指輪には、それぞれ特殊な魔術が込められている。クォーク家の場合は雷の魔術だ。魔力さえあれば誰でも自由に扱える。指輪の力で聖騎士を倒すんだ」
「へっへっへ、楽しそうな役目じゃねえか。こうなったら派手に暴れてやるよォ!」
ノルは盗賊じみた顔で下品な笑い声を上げる。
私の無茶な命令にも順応してきたらしい。
むしろ開き直って楽しもうとしている節さえあった。
「サリーア、覚悟はできたか?」
「――問題ない。私は、敵を倒す!」
頷くサリーアを一瞥した後、私は影の結界を解除した。
結界が表面から蒸発するように消えた瞬間、周囲の聖騎士が攻撃を仕掛けようとしてくる。
しかし、予め準備していたサリーアによる光の魔術が炸裂した。
圧倒的な魔力量に物を言わせた閃光の嵐が聖騎士達の視界を奪う。
閃光を直視した聖騎士達は倒れて悶え苦しむ。
咄嗟に魔力で保護した者もいるだろうが、大半は失明したに違いない。
そこに拳を掲げたノルが襲いかかる。
「クソどもが、食らいやがれェッ!」
拳に乗せた雷の魔術が聖騎士達を薙ぎ払う。
さらに余波が部屋の壁や天井に大きな穴を開けた。
(指輪の力を使いこなしている……想定以上に相性が良かったらしい)
これなら二人に任せても問題ないだろう。
私は前方に意識を向ける。
ロンは既に部屋から逃げていた。
形勢の不利を察したらしい。
先ほどまでの態度から一転して焦っているようだ。
私は追跡しようとするも、背後からの冷たい殺気に足を止める。
振り向きざまに影の刃を振るうと、そこにはミレイスがいた。
ミレイスは私の斬撃を防ぎながら体当たりを試みてくる。
私はひらりと躱して床に着地した。
「さあ、どちらが皆殺しになるか勝負しましょうか」
涼しい笑みのミレイスが斬りかかってきた。




