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『ただの収納スキルですが、神様から「解釈」の変更してもらって現代に戻ったら、人生楽勝でした――』  作者: だい


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第53話:ストップ安のクズ男と、五人目の戦士と、U〇Jのニンジャ

夜のU〇J。きらびやかなイルミネーションの下で、小林淳志は人生最大級の四面楚歌に陥っていた。


「あ、淳志サン……っ! ひどい、ひどいですぅぅぅっ!!」


 大号泣するミクと、その後ろで腕を組み、淳志を『燃えるゴミ』を見るような冷ややかな目で見下ろすゼミ仲間の女子大生たち。


「ちょっとミク、泣かないで。……で? そちらの最低な浮気男さんは、何か言い訳があるのかしら?」


 ゼミ仲間のリーダー格らしい勝気な女子が、淳志をジロリと睨みつける。

 普通ならここで土下座(得意技)をキメて平謝りするところだが、淳志は長年の商社マン生活と、数々の修羅場(主に女性関係)をくぐり抜けてきた男である。

 彼はスッと立ち上がると、極めて爽やかで、誠実さにあふれた『タラシの笑み』を浮かべた。


「ごめんね。ミクの大切なお友達に、みっともない所を見せちゃったかな」


 甘く、落ち着いた低音ボイス。

 淳志は、ゼミ仲間たち一人ひとりの顔をゆっくりと見つめながら、言葉を紡ぎ始めた。


「でも、君たちを見て少し安心したよ。ミクからいつも聞いてた通り、素敵な友達に囲まれてるんだなって。……君、その髪型、夜のパークの照明に映えてすごく綺麗だね。そっちの君も、そのバッグのチョイス、すごくセンスがいい。さっき食べてたチュロスも、一番美味しいフレーバーだよね。ミクを支えてくれて、本当にありがとう」


 完璧なトーン、完璧な所作、息をするように飛び出す全肯定の褒め言葉。

 先ほどまでゴミを見る目をしていた女子大生たちの頬が、みるみるうちにポッと赤く染まっていく。


「あ、いや……そんな、私たち別に……」

「……ねえミク。彼氏さん、実はすっごく良い人なんじゃない? 何かの誤解じゃないの? ちゃんと話してみたら?」


 (――計画通り)


 淳志は心の中で、某デスノートの主人公ばりにニヤリと嗤った。

 これぞ最強のタラシの業。あとは上手く丸め込んで、この場を穏便に収めれば――。


「いや、コイツ全然いい人じゃないわよ?」


 横から、極めて楽しそうな声が爆弾を投下した。

 腕を組んで笑いを堪えていた佳奈である。彼女は、ゼミ仲間たちに向かってあっけらかんと言い放った。


「コイツ、高校の時、勝手に大学決めてアタシを置いて地元から消えた正真正銘のクズ男だから。ちなみに今は彼女じゃないけど普通にHするし、なんならアタシ以外にも、あと三人くらい女いるわよ」


 ピタッ、と。

 淳志の周囲の空気が完全に凍りついた。


「「「…………は?」」」


 女子大生たちの顔からサァッと血の気が引き、再び絶対零度の『汚物を見る目』へと戻る。

 淳志の評価が、見事なまでのストップリミットダウンを記録した瞬間だった。


「ちょっ、佳奈!? お前、なんてことを……!!」

「あははははっ! だってホントのことじゃない! あんたのその計算高い顔見てたら、ついぶっ込みたくなっちゃって! ひー、お腹痛いっ!」


 佳奈はお腹を押さえて、ベンチにうずくまって爆笑している。

 完全に詰んだ。淳志が絶望に天を仰いだその時、ずっと泣いていたミクが、涙を拭ってガバッと顔を上げた。


「……淳志サン」


 その真剣な表情に、ゼミ仲間たちが「ついにミクも目を覚ますのね!」と応援の眼差しを向ける。

 しかし、純情女子大生の口から飛び出したのは、常人の理解をはるかに超えた言葉だった。


「他に四人もいるなら……なんで、アタシも入れてくれないんですか!! 戦隊ものだって、基本は五人じゃないですかぁっ!!」

「「「そっち!?」」」


 ゼミ仲間たちが盛大に突っ込んだ。淳志も目を丸くする。


「ちょっとミク! あんたバカなの!? 目を覚ましなさいよ、そんなクズ男!」

「クズじゃありません! だって淳志サンは、正座がものすっごく綺麗で、土下座の姿勢もめちゃくちゃ上手なんですよ!? あんなに美しい正座ができる人が、悪い人のはずありませんっ!!」

「推しポイントが狂ってる!!」


 もはやツッコミが追いつかない。

 淳志はいたたまれなさで消滅しそうになり、佳奈はついに笑いすぎて呼吸困難になりかけていた。


 その時だった。

 遠くから、悲痛な叫び声が上がった。


「きゃあああっ! 誰か、助けて!!」


 声の方を見ると、大型のジェットコースターが、地上数十メートルの高い場所で緊急停止していた。

 そこから、安全バーをすり抜けてしまったらしい小さな子供が、今にも真っ逆さまに落ちそうになって宙吊りになっている。

 周囲の観客たちは悲鳴を上げながらも、ただスマートフォンを掲げて動画を撮影するばかりで、誰も助けに行こうとしない。


「……っ!」


 淳志の目の色が、スッと変わった。

 彼は迷うことなく、ミクの頭に乗っていたキャラクターの帽子を奪い取り、ゼミ仲間の一人が胸にかけていたサングラスと、佳奈の首元のバンダナをひったくった。


「えっ、ちょっと淳志サン!?」


 淳志は帽子とサングラス、バンダナで顔を完全に覆い隠すと、弾かれたように駆け出した。

 そして、アトラクションの巨大な鉄骨の支柱に飛びつくと、人間離れした身体能力で、まるで猿のように――いや、忍者のように、スルスルと垂直の鉄骨を登り始めたのだ。


『Oh! ニンジャ!?』

『クレイジー! リアル・ニンジャだ!!』


 海外の観光客たちが興奮してカメラを向ける中、淳志は地上数十メートルの高さまであっという間に到達した。

 だが、あと数メートルというところで、ついに子供の小さな手が滑り、宙に放り出されてしまった。


「ああっ!!」

 下で見守る数千人の観客が、絶望の悲鳴を上げた。


 だが、次の瞬間。

 淳志の姿が、コマ送りの映像のように『ブレた』。

 落下する子供に手を伸ばしたかと思うと、一瞬で空間を飛び越える『転移』の能力を数センチ単位で連続使用し、強引に子供の体を引っ張り上げて、安全な足場へと着地したのだ。

 常人の目には、凄まじい反射神経で空中の子供をキャッチしたようにしか見えない。


「――ふう。危なかったな」


 子供が無事なことを確認すると、淳志は救助スタッフが来る前に、再び鉄骨を滑り降りて地上へと舞い戻り、観客の波に紛れて全力疾走で逃走した。



「……お待たせ」


 数分後。

 変装を解き、少しだけ息を切らした淳志が、ミクたちの元へと戻ってきた。

 帽子やサングラスを返しながら、淳志は首を傾げた。


「どうしたの? みんな、なんか静かだけど」


 先ほどまで淳志をゴミクズ扱いしていたミクのゼミ仲間たちは、もじもじと身をよじり、顔を真っ赤にして視線を泳がせていた。


「あ、いや……その……お疲れ様、です……」

「……お怪我、ないですか……?」


 さっきの命がけのヒーロー離れ業を目の当たりにして、完全に『メス』の顔になってしまっている。


「あーあ」

 すっかり笑い疲れた佳奈が、涙を拭いながら呆れたようにため息をついた。


「また新しい『犠牲者』が増えちゃったわね……。まあ、さっきのは悔しいけど、ちょっとカッコよかったもんね」


 一人納得する佳奈の横で、ようやくパニックから立ち直ったミクが、淳志の服の裾をギュッと掴んだ。


「うー、うー……! 淳志サン、今のすっごくカッコよかったですけど……誤魔化されませんからね!!」


 涙目で睨みつけてくるミクの頭を、淳志は苦笑しながら優しく撫でた。


「絶対に、絶対に! 次はアタシと、ディ〇ニーランドに行ってもらいますからねっ!!」


 五人目の戦隊ヒーロー(追加戦士)からの強烈な予約に、淳志は「……はい、喜んで」と、綺麗なお辞儀で答えることしかできないのだった。

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