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不人気と言われようともデバッファーを極める ~攻撃スキルが無くても戦えます~  作者: 功刀


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黄金蝶探し⑭

「マリア、後ろに下がれ!」


 ガルフォードが両手の盾を交差させ、鉄壁の構えでマリアの前に立ち塞がった。それに合わせるように、サクラとテレサも遊撃の位置から戻り、マリアを庇う陣形を即座に構築する。

 毒と殺意を振り撒く巨大な5つの首。


「おかしい……」


 俺はヒュドラの巨体を隅々まで観察する。

 マリアの『クリムゾンフレア』は、間違いなくヒュドラの太い胴体の中央に直撃した。あれだけの大爆発だ。周囲の岩壁すら黒焦げになったというのに、着弾点であるはずの胴体の鱗は煤けているだけで、傷一つ付いていなかった。


 だがその爆発の『余波』を浴びただけの5つの首はどうだ。

 よく見れば、どの首にも生々しい火傷の跡が刻まれ、明確にダメージが通っているのが分かる。


 直撃した胴体は無傷で、余波を受けた首は傷ついている。

 なぜそんな矛盾が起きるのか。

 答えは一つしかない。


「みんな、聞いてくれ! たぶんあいつのギミックは、5つの首を全て落とさない限り、胴体には一切のダメージが通らない仕様だと思う!」

「なっ……なんだと!?」

「首ごとに個別でステータス判定があったのも、そういうことだ。首を全滅させるまで、あの胴体は絶対無敵のオブジェクトと同じってわけだ!」


 RPGのボス戦では珍しくない。パーツを全て破壊しないと本体に攻撃が届かない厄介なギミック。


「そういうことなら話は早いわね! まとめてブッ叩くのは諦めて、一つずつ確実に潰していくわよ!」


 テレサがハンマーを担ぎ直し、口元をニヤリと歪める。

 ガルフォードも両盾をガチンと打ち鳴らした。


「的が絞れたならば、やることはただ一つ! この盾で首どもの牙を受け止めようぞ!」

「それじゃあ、一番左の首から順番に集中攻撃を仕掛けていくわ。サクラちゃん、私の魔法に合わせて飛び込んで!」

「はいっ!」


 マリアの冷静な提案にサクラが頷き柄を固く握り直す。

 アタッカー陣の狙いは定まった。

 ならばデバッファーである俺が今、やるべきことは何か。


 無敵状態の胴体にダメージは通らない。

 けれど先ほど《スロウ》を放った際、俺のデバフのターゲットとして胴体を選ぶことはできた。無敵とはいえ、対象として認識されないわけではない。

 通常なら強力な耐性に弾かれるだろう。だが、俺の手札にはどんな強者の『理』をもこじ開ける切り札がある。

 俺の視線は、暴れ狂う5つの首の根元――太く巨大な胴体へと注がれていた。


「首と胴体で判定が別なら……胴体を俺の操り人形にできれば、どうなる?」


 ひねくれた悪魔のような閃きが、脳内を駆け巡る。

 試してみる価値は、十二分にあった。


「お前たちは左の首を狙え! 俺は、あいつの根元を絶つ!」


 俺は一歩前へ踏み出し、杖の切っ先をヒュドラの分厚い胴体へと突きつけた。


「そのふざけた無敵の理屈、俺の力でひっくり返してやる。《理の崩壊》!」


 禍々しい緑色の光が俺の杖から放たれ、ヒュドラの胴体へと吸い込まれていく。

 甲高いガラスが割れるような幻聴が耳の奥で響いた。

 強制的に耐性を剥ぎ取られた合図だ。間髪入れず、俺は次のスキルを叩き込む。


「喰らえ。《コンフューズ》!」


 ヒュドラの巨体がビクリと大きく痙攣した。

 無敵を誇っていた胴体部分が、明確に俺のデバフの支配下へ落ちる。

 すかさず《外道の戦術》を発動させ、思考を介入させた。

 頭が5つあろうと、その足を動かしているのはたった一つの胴体だ。


「おい、ヒュドラの胴体! 自分の首どもの動きを、全力で妨害しろ!」


 俺が命令を下した瞬間だった。

 シューシューと威嚇しながら左の首へ向かおうとしていた前足が、突如としてピタリと止まった。

 それだけではない。巨大な四肢が自らの意志で歩みを放棄し、重力をそのまま受け入れるように前足の関節を折ったのだ。


 ズズンッ!!


「えっ!?」


 サクラが間の抜けた声を上げる。

 何が起きたのか理解する間もなく、巨大な胴体が前のめりに激しく転倒した。


 ドッゴォォォン!


 洞窟全体を揺るがす轟音と共に、猛烈な砂埃が巻き上がる。

 胴体が倒れ込んだ勢いに引っ張られ、高く鎌首をもたげていた5つの首は、空中で円を描くように落下した。


 バキィッ!


 生々しい音を立てて、首たちは岩盤に顔面から激突し、そのまま自らの胴体の重圧に引かれて地面にめり込んでいく。


『ギ……ヂィ……ッ!』

『ガ、シャァァァ……!』


 首たちはもがき苦しみ、狂ったように暴れて抜け出そうとする。

 しかし、大元である胴体が地面にべったりと張り付き、自らの首を地面に縫い付けるように完全に脱力しているのだ。いくら首が暴れようが、繋がっている根元が重しとなってしまっては身動き一つ取れるはずがない。


 あまりにも異様で、滑稽な光景。

 さっきまで死闘を繰り広げていたはずのボスが、文字通り自滅して地面で芋虫のように這いずっている。

 突撃しようとしていたサクラもテレサも、両盾を構えたガルフォードも、ぽかんと口を開けたまま完全に硬直していた。


「呆けてる暇はないぞ! 首の後ろに回り込め!」


 前衛の三人がビクッと肩を震わせて我に返る。


「顔が地面に埋まってるんだ、毒も牙も飛んでこない! 根元から叩き斬れ!」

「あ、あんたって……本当に、とんでもないこと思いつくわね!」


 テレサが呆れたように叫びながらも、動けない首の背後へと回り込む。


「よしっ! 動かない的になら負けないよ!」


 サクラが首の死角へ潜り込み、容赦なく急所へと突き立てた。

 反撃のない完全なサンドバッグ状態だ。

 マリアが後方から炎の矢を絶え間なく撃ち込み、ガルフォードがシールドバッシュで鱗を粉砕する。テレサのハンマーが重い音を立てて首の骨をへし折っていく。


『ギャ……ァァ……!』


 無防備な背後からの集中砲火に耐えきれず、一番左の首が消滅し、光の粒子となって霧散した。

 一つ、また一つと、もがくことしかできない首たちが為す術なく切り落とされていく。


 そして最後の5本目の首がサクラの剣閃によって消え去ると、地面にへばりついていた胴体を覆っていた目に見えないバリアのような輝きがパリンと音を立てて砕け散った。

 ギミックが解除され、無敵が剥がれた証だ。


「とどめよ!!」


 テレサが渾身の力で振り下ろしたハンマーが胴体にめり込むと、ヒュドラの巨体はゆっくりと輪郭を崩し、莫大な光の粒子となって洞窟の天井から差し込む光の中へと溶けていった。


 後に残されたのは、ドロップアイテムの輝きと、静寂だけ。

 緊迫した空気が嘘のように霧散していく。


「終わった……」


 サクラが剣を下ろし、小さく息を吐く。

 誰も傷を負っていない。ポーションすら使っていない。ボス戦とは到底思えないほどの、一方的すぎる幕切れ。


「ふっ……」


 不意に、後方から小さな吹き出し笑いが聞こえた。

 振り返ると、杖を握ったマリアが口元を手で覆い、肩を震わせていた。


「ふふっ……あはははははっ!」


 堪えきれない様子で声を上げて笑い出すマリア。


「ご、ごめんなさい。でも……あんな巨大で恐ろしい化け物が、自分の体に邪魔されてずっこけるなんて……。滑稽すぎて、お腹が痛いわ……」


 マリアの笑い声につられるように、テレサも腹を抱えて笑い出し、ガルフォードも豪快な笑い声を上げる。


「いやはや、見事な采配であった! まさか敵の胴体を味方につけるとは、吾輩の騎士道にはない発想だ!」

「ガイっちの悪知恵には本当に恐れ入るわ! 最高よ!」


 洞窟の中に、張り詰めた死闘の余韻を吹き飛ばすような明るい笑い声が響き渡った。

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