表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不人気と言われようともデバッファーを極める ~攻撃スキルが無くても戦えます~  作者: 功刀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/123

黄金蝶探し⑤

「はぁっ!」


 俺の合図と同時に、サクラが弾かれたように地面を蹴った。

 巨大なベノム・タランチュラがサクラの気配に反応し、毒液のしたたる牙を向けるよりも早く懐へと潜り込んでいた。


「てやっ!」


 蜘蛛の硬い剛毛に覆われた脚の一本を深々と切り裂く。

 硬質な手応えと共に、タランチュラが苦悶の声を上げて体勢を崩した。


「ナイスだ、サクラ!」


 俺は後方から声を飛ばしつつ、杖を構える。まずはデバフで相手の機動力を削ぐのが定石だ。

 だがその時、前線でサクラと並んでタランチュラの攻撃を受け止めていたガルフォードの姿に、サクラがふと疑問の声を上げた。


「あれ……? ガルフォードさん、剣は?」


 サクラの声に、俺も改めてガルフォードの装備に目を凝らす。

 ガルフォードは全身を重厚なフルプレートアーマーで固めている、絵に描いたような重戦士だ。

 タランチュラの鋭い爪のような脚による刺突を、左手に持った巨大なタワーシールドでガキンッ! と受け止めている。

 そこまではいい。タンク役として理想的な動きだ。

 だが問題は右手だった。


「ちょ、ちょっと! おっさん! 右手にも何持ってんのよ!?」


 少し遅れて前線に追いついたテレサが、素っ頓狂な声を上げて指差す。

 そう、ガルフォードの右手には、剣も斧も握られていなかった。

 代わりに握られていたのは――もう一つの、四角いカイトシールドだったのだ。


「えっ……盾?」


 サクラが目を丸くする。

 左手にタワーシールド、右手にカイトシールド。

 武器を持たず、両手に盾。そんな奇妙奇天烈なスタイルでボスクラスのモンスターと渡り合っていたのか……?


「あら、驚かせてしまったかしら?」


 後方から援護の攻撃スキルを放っていたマリアが、くすりと笑いながら俺の隣に並んだ。


「見ての通りよ。あの人は武器を持たないの。盾を二つ持って戦うのが、彼のスタイルなのよ」

「武器を持たずに……盾二つだって?」


 盾役が守りを固めるために盾を持つのは分かる。だが攻撃手段を完全に捨てて盾を二枚持つなんて発想、聞いたことがない。

 それじゃあヘイトを稼ぐことも、ダメージを与えることもできないじゃないか。ただの硬い置物になってしまう。


「見ていなさい。彼はただ守るだけの盾じゃないわ」


 だがマリアは涼しい顔で、戦場を見据えて言った。


「ヌォォォォン!」


 ガルフォードが野太い咆哮を上げ、タランチュラに向かって一歩踏み込む。

 タランチュラが鬱陶しげに二本の脚を振り上げ、ガルフォード目掛けて振り下ろした。

 重戦士を一撃でひしゃげさせるほどの重い一撃。

 ガルフォードはそれを、左手のタワーシールドを斜めに構えて受け流すと同時に、体を大きく捻った。


「ぬんっ!」


 そして、遠心力を乗せた右手のカイトシールドを、砲弾のような勢いでタランチュラの顔面に叩きつけたのだ。


 ゴォンッ!!


 鈍く、そして重い衝撃音が広場に響き渡る。

 巨大なタランチュラの頭が、その一撃で大きくのけ反った。


「なっ……!?」


 俺は自分の目を疑った。

 ただ防ぐだけじゃない。盾そのものを打撃武器のように扱い、強烈な一撃を叩き込んだのだ。


「ハッハッハ! どうだ吾輩のシールド・バッシュの味は! 骨身に染みたか!」


 ガルフォードは豪快に笑いながら、怯んだタランチュラに追撃をかける。

 右の盾で殴り、左の盾で突き飛ばし、相手の攻撃は両方の盾を巧みに組み合わせて防ぐ。

 その動きは、重装備とは思えないほど滑らかで、そして力強かった。


「す、すごい……! あの盾、武器にしてるの!?」


 テレサが口をあんぐりと開けている。


「ええ。防御力こそが最大の攻撃力、というのが彼の持論でね。防具の硬さを攻撃力に転換する特殊なスキル構成にしているのよ。だから彼の盾撃は、生半可なハンマーよりも重いわよ?」


 マリアが得意げに解説する。

 防御力を攻撃力に変える、か。

 俺がエレノアに作ってもらった『守護樹の賢者ローブ』のアビリティ【攻性転化の理】とは真逆の発想だ。俺は攻撃力を防御力に変えているが、この男は防御力を攻撃の手段にしている。

 なんというか……極端な奴だ。


「面白い……! まさか、こんな場所で俺たちみたいな変則的なスタイルの奴に出会うとはな」


 武器を捨て、盾のみで戦う重戦士。

 俺たちのパーティも大概だが、このガルフォードという男も相当な変わり者だ。だが、その実力は本物だ。


「さあ、若人たちよ! 呆けておる暇はないぞ! 敵はまだ健在だ! 畳みかけるぞ!」


 ガルフォードが、盾を打ち鳴らして俺たちを鼓舞する。

 タランチュラは頭を振って気絶から立ち直り、怒り狂って毒液をまき散らし始めた。


「ああ、分かってる! 感心してる場合じゃなかったな!」


 俺は思考を戦闘モードに切り替え、杖をタランチュラに向けた。

 前衛には、鉄壁の守りと重打撃を持つガルフォードがいる。そして、高機動・高火力のサクラがいる。

 後衛には支援のマリアと、一撃必殺のスキルを持つテレサ。

 そしてデバッファーの俺。


 この急造パーティ。

 案外、相性がいいかもしれない。


「サクラ! ガルフォードさんに合わせて側面に回り込め! 奴の脚を狙え!」

「了解っ!」

「テレサはマリアさんと一緒に後方から援護だ! 俺がデバフで奴の動きをさらに封じる!」

「オッケー! 任せなさい!」


 俺の指示に、全員が即座に反応する。

 さあ、反撃開始だ。


「まずはその速すぎる脚を止めさせてもらう! 《アースバインド》!」


 俺がスキルを放つと、地面から太い蔦が飛び出し、タランチュラの軸足を絡め取る。


『ギシャッ!?』


 動きを封じられたタランチュラが体制を崩す。

 そこに、ガルフォードが突進した。


「今だ! 《ダブル・シールド・チャージ》!!」


 両手の盾を前に構え、戦車のような勢いでタランチュラの胴体に激突した。

 巨体が大きく揺らぎ、悲鳴を上げる。


「そこっ!」


 その隙を逃さずサクラが死角から飛び込み、鋭い一撃を関節の隙間に突き刺す。


 完璧な連携。

 俺たちはまるで長年パーティを組んでいたかのように、互いの長所を生かし、敵を圧倒し始めていた。


「よし、このまま押し切るぞ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ