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公爵令嬢エルザ(仮)は逃走しました

公爵家に迎えられたエルザはまず、

礼儀作法を叩き込まれた。王宮でかつて王子たちを育ててきたリミラという

鬼教師によってエルザは地獄を見た。

幸せなことは食事をするときだけだ。



礼儀作法、ダンスはなんなくこなすことができたがエルザは裁縫が壊滅的だった。運動神経を売りに生きてきたエルザに女性らしい、いかにも深窓のご令嬢のようなことができる訳がなかった。

ひまわりを縫ったつもりがいびつなカエルに大変身。



「そんな所までナディア様に似たなんて」


それを見たリミラは嘆かわしいと泣いていた。エルザは力作だと思っていたのになんか酷い。







そんなエルザが唯一得意なものは魔法だ。母、ナディアの魔法の才をちゃっかり受け継いだらしく、魔法だけ抜きん出て素晴らしいと誉められた。

エルザに魔法を教えているのはハイルド公爵家嫡男であり、宮廷魔法騎士団団長でもある義兄、ナデルだ。さらさらの銀髪に透き通る水色の双眸、甘いマスクな兄は顔に似合わず苛烈だった。エルザの魔力を枯渇させ魔力底上げをはかり、そこからさらに体力づけをさせられる。汗水まみれ体はボロボロに毎日させられるエルザは思った。兄ナデルは鬼畜な魔王だと。








「お風呂ぉぉ~ー!!」

魔王ナデルの鬼の授業を終えたエルザはハイルド公爵家の自室に走り込み、すぐさま風呂場へ直行した。

貴族は一人では入らないと言われたときは必殺技土下座を炸裂させ「勘弁してください!」と頼み込んだ。誰が好き好んで他人に裸を見せるんだ。好きなやつはただの変態である。



どうにかお一人様極楽風呂を見事にゲットしたエルザはそのお風呂場で撃沈していた。エルザの体には無数のあざや切り傷が出来ている。



「今日も増えたな。生きた勲章」



生きた勲章とはエルザの努力の証である。アデルが教える魔法、体術を習うのは命が幾つあっても足りない。エルザの魔力枯渇中に魔法をぶっ飛ばし、死ぬ気で作った防御魔法もただの剣であっさり破壊。これを鬼畜と言わずなんというのだ。おかげで夜は夢を見ることなく爆睡している。





さっぱり汗水を流したエルザを迎えたのはここで仲良くなった待女ヨーコだ。うっすらソバカスが浮かぶ頬、愛嬌のある黄緑の猫目。ヨーコはエルザが前世で飼っていた猫に似ている。

おっとりした口調のヨーコはエルザの母ナディアの古き友人の娘だ。身分が低い子爵家出身だが、仕事は完璧にこなす。

エルザが机に向かって勉学をしているときに、ふと喉が渇いたなと思ってヨーコを探すとすでに紅茶を手にヨーコはスタンバっていた。いつからそこにいたのか全く気付かなかった。瞬間移動でもしてるんじゃないかとエルザはいつも思う。

公爵家で心の思いを包み隠さず話せるのはヨーコだけだった。



「ヨーコ、私ちょっとだけ下町に行きたいんだけど」



「やめておいたほうが良いかと。ナデル様はすぐ気付かれますよ」



「クソッ、魔王め」



淡々と語る待女にエルザは悪態をついた。学園に行くまでには上級魔法すべて習得、体術は剣士レベル到達させると言い放ったナデルにエルザはぶっ倒れた。それは本来、学園で学ぶべきことであり、三年で行うことを一年でさせるなど魔王の所業である。

毎日のナデルとリミラの地獄の特訓によってエルザはかなり疲労していた。



頼みをあっさり否定されふてくされたエルザの髪に貴族専用ヘアオイルをつけていたヨーコは微かに笑っていた。ここ数日でエルザは見間違えるほど美しくなった。体の状態はどうかとして髪は本来の輝くプラチナブロンドになり、肌はもっちりすべすべ、その仕草はリミラの功績により深窓の令嬢に見える。それに気づいたヨーコは嬉しそうに笑っている。



「エルザお嬢様はさらに美しくなられましたね」



「お世辞はいらん。どうせなら下町に行かせてくれ」



「それならば学園に行っても心配はありませんわ」



「ねぇ!スルーしないでよ、頼むから!」



にっこり微笑むヨーコはエルザを華麗にスルーした。
















「さあ、今日も楽しい授業の時間だ」



「・・・はぁ」



「どうした?元気ないな」



(あんたのスパルタのせいだよ!!)



魔法の杖を手のひらに叩くナデルは今日も愉快に笑っている。一方エルザはと言うと死んだ魚の目でどこか遠くを見ていた。いつになく元気のないエルザにナデルは首をかしげた。



「楽しく授業を受けないとつまらないだろ?」



「へいへい」



「はいは、一回」



「はい・・・」



ふんと顔をそむけたエルザにナデルは特に気にしていないようだ。



「さ、始めようか」



ナデルは魔法の杖を颯爽と構えエルザに地獄の始まりを告げた。







「炎よ!」



次々に襲ってくる無数の氷の矢にエルザは炎の盾で身を守った。炎の盾を発動させながら、風を呼び起こし空中に浮かぶナデルに向けて地上から竜巻を起こした。ごうごうと巻き上がった竜巻は一瞬でかきけされ、ナデルに吸収された風は氷の矢と共に刃となって

エルザに降り注いだ。



「またかよ!」



(チート過ぎるだろ!)


エルザが攻撃をしてもナデルはそれをいとも簡単に吸収し、自身の力に置き換えて反撃してくるのだ。そこからはエルザが攻撃をし、ナデルがそれを吸収し反撃という魔のループをたどりエルザはあっという間に魔力を枯渇させてしまった。魔法を使えなくなったエルザに今度は剣を片手にナデルは突進してきた。



「遅いぞエルザ」



「うるさい!わかってるわよ!」


剣を振り下ろそうとしたナデルは笑っていた。 咄嗟に受け止めた容赦ないナデルの剣は重い。エルザと同じ丈夫な木でできた剣の筈なのに、鉛のように重たく感じる。



「クソッ、が!」



「おクソがといいなさい」



「言えるか!そんなん!」



( そんな言葉はないわ!!)



暴言は吐いたエルザは勢いのままナデルの剣を弾き返し、すぐさま反撃の体制に入った。片手を地面につけ重力を見方に足を上げて、そのまま回し蹴りをナデルにお見舞いしようとした。が、ナデルはそれを回避し、蹴ろうとしたエルザの足を掴み持ち上げた。そして、地面にその体ごと叩きつけた。

痛覚無効と物理攻撃無効を発動させていなかったら、間違いなく骨が折れ絶叫していただろう。ナデルは敵に容赦がないと有名だが、妹にも容赦しない。

本人はそれを惚れ惚れするような笑顔で愛の鞭だと語っている。




今日もエルザは死ぬ気で魔王の愛のスパルタ教育を受けた。















いつも通りの日課を終えたその日の夜、エルザはとうとう爆発した。



「もうやってやれるか!!神様は私をいじめたいのか!そうなんだな!」



普段は疲れで寝静まっている筈のエルザはストレスによりお腹を壊していた。壊している、というよりただの甘味不足である。定期的に甘いものを平民時代とは違い、ここのお菓子が口に合わずそういうものを一切食べれていなかった。甘いものを愛するエルザにとって食べないことは死ぬと同じだった。








次の日の朝、 極度のストレスによりエルザは公爵家を逃走した。いつもそばにいるヨーコの目を掻い潜りバレルことなくエルザは公爵家を出ることができた。

下町へ行く方法は簡単だ。地上を走るとすく追手に追い付かれる可能性があるため、風を操り空を飛んでいくのだ。



「気持ちいい~!!」


前世でみたパンの妖精はこんないい思いをしていたなんて羨ましい。思っていたほど風はそこまで強くなく気持ちよく飛べている。無事に公爵家の領地を抜けて懐かしの下町に着いたエルザは得意気に笑った。



「なんだ、あっさり行けたじゃない。昼までに戻れば問題ないよね」




今日は午前のリミラによる講習がなく、昼のナデルによる授業までに戻れば問題ないだろう。懐かしい下町を歩くエルザは魔法で髪色と目の色を一時的に変えていた。白金の髪は一般的な赤茶に、双眸は水色へと変える。これだけで意外と誰もエルザだと気づかない。すっかり安心しきったエルザは行きつけだった喫茶店にうきうきしながら入っていった。





「美味しーい!さすがみたらし団子!」



異世界なのに何故か前世で食べたことのあるお菓子が多く存在している。エルザのお気に入りは優しい素朴な味のみたらしがかかった団子だ。幸せそうに団子を両手に持ちながら食べていたエルザはふと店の入り口に人だかり(主に女性)が出来ていることに気付いた。



「ま、いっか」



きっと下町の色男でもいるのだろうとこの時のエルザはたいして気にしてはいなかった。













「おいしかったぁ!生き返ったわ」



心とお腹を満たしたエルザはさっそく次にいくお菓子屋さんを考えていた。喫茶店の入り口にたまる人だかりをよけながら喫茶店を出ようとしたエルザは途中で足を止めた。

見開かれたエルザの視線の先にはどこかでみたことがある透き通るような青の双眸を持つ色男がいた。魔法で染めたとわかる金色の髪を持つ整った顔立ちの色男はここにいる筈のない、義兄ナデルだった。どうりで女たちが黄色い声をあげているわけである。



(バレたら、こ、殺されるぅぅぅぅ~!!)



見間違えることのない甘い顔立ちにゾッとしたエルザはバレル前にその場を離れようと背を向けた。

だが、この場を離れようとしたエルザの耳に聞き覚えのある低いテノールの魔王の声が響いた。



「せっかく兄さんが迎えに来たのに、どこにいくんだい?妹よ」


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