エルザは魔王(お兄様)と鬼ごっこを始めた!
(なんでバレてるのぉぉぉぉー!!)
怖くて後ろを振り向けないエルザはその声を聞いた途端に走り出した。相手は普段は優しいのに魔法のことになると鬼畜になる魔王のナデルだ。逃げるのは当たり前だった。
「ひ、人違いです!!」
咄嗟に出た言葉を残しエルザは全力疾走で喫茶店から離れた。追っ手がないかと後ろを見たが、誰もいない。ある程度の距離ができた所でエルザは足を止めた。
「なんとか、まいたかな」
逃げきれたと思っていたエルザは安堵で一人うんうん頷いていた。が、足元にはエルザの足とは違うぴかぴかの黒の革靴があることに気が付いた。
「それは良かったね」
(ア、アウトー!!)
まいたと思っていたナデルはエルザの目の前で愉快に笑っていた。楽しそうなナデルにエルザは思わず顔をひきつらせた。相変わらずの端麗な美貌が
憎たらしい。後ずさったエルザにナデルはじりじり近付いてくる。その顔は
獲物を狙う捕食者の目をしていた。
「お出掛けしたいなら、お兄ちゃんに言いなさいって前に言ったよね?」
「ナデルお兄様と出掛けたら、私は女の恨みと嫉妬で殺されます!!」
「なんで?お兄ちゃんのこと嫌いなの?!」
「自覚ないんですか、貴方は!?」
訳がわからないと言う顔をした義兄をひっぱたいてやりたい衝動にエルザは襲われた。一度だけ、下町ではないが王都へナデルと共に宝石を買いに訪れたことがあった。王都へ訪れたエルザが目にしたものは群がる女性の大群だ。ナデルに群がる女達にもみくちゃにされ、嫉妬のこもった視線を一斉に送られる。それのどこが安心して買い物ができるというのだろう。二度とあんな思いはしたくない。
今も徐々に女たちが集まってきている状態だ。このままだと、あの時の二の舞を踏むと気付いたエルザはやっぱりナデルの側から逃げ出した。
「理由は後でちゃんと言うからー!」
「なんだ。やんちゃな妹だな、わかったぞー!」
逃げ出したエルザは叫びながらナデルに言い訳をした。エルザの言葉にナデルは理解したと言わんばかりにうなずく。そして、ほっとしたエルザに向かって爆弾を落とした。
「そんなにお兄ちゃんと鬼ごっこがしたかったんだな!」
「いや!なんでだよ!!」
「よーし!十秒数えてから行くからなー」
「ひ、人の話をきけよぉぉぉ~!!」
「じゅーう、きゅう、はち」
「いやぁぁぁァァァーーー!!!」
(た、助けてぇぇぇ!!ここに鬼がいるよー!!)
妹の悲痛の叫びは義兄には一ミリも伝わっていなかった。
「さーん、にーい、いち!よし!」
いつもより愉快に笑う鬼畜なナデルは逃げ出した獲物を狙い、颯爽と追いかけていった。その足取りは楽しそうである。
「き、鬼畜、そして、言葉が通じ、ないっ」
息切れを起こしていたエルザは現在、知り合いである武器屋のおじさんの元で匿ってもらっていた。エルザの育て親と仲がいい恰幅なイケオジのハイツは昔からエルザを可愛がってくれていた。
なにがなんだかわからないと言う顔のハイツに泣き付きて、倉庫に入れてもらいそこで縮こまっている。
「一体何があったんだ?今までどこにいたんだよ」
「何にも聞かないで、今は、頼むから」
ガタガタ震えるエルザにハイツは首をかしげた。「ともかくここにおいといてやろう」と言ったハイツはやはり神だった。ここならば簡単にはバレまいとたかをくくったエルザは調子を取り戻し呑気に鼻歌を歌い出した。
その数分後、武器屋に一人の客が来た。いつもの常連客か、と思ったエルザはその声に耳をすませた。
「いらっしゃい、どんなご用だい?」
「妹を探しているんだ」
「妹さんをかい?」
「そうだ」
(・・・・、な、なんでだよ)
常連のお客さんだと思っていた人物はエルザのお客さんだった。人通りがあまりない道を選んでハイツの店に逃げ込んだのに、あっさりバレた。だが、まだ完全にバレたわけではない。
一縷の光にかけエルザはいなくなってくれとひたすら願った。
「妹さんはどんな感じだ?」
「これだ」
「ほうほう、ってエルザ?」
(なんで名前出したの!?)
写真を見せたらしいナデルにハイツは驚きの声を上げた、エルザの名前と共に。
「知っているのか!?」
「たが、そもそも君は誰だ?」
「私はエルザの生き別れの兄なんだ。幼い頃にエルザは事故にあい、川に流されたんだ。」
「・・・・・それは」
ハイツはエルザが川で拾われたことを知っている。ナデルの言葉はハイツには深く響いてしまった。そこにつけ込んだナデルはさらに捲し立てる。
「だが、1ヶ月前に再会したんだ!
神託があってエルザが生きてることがわかったんだ」
「・・・・、」
「ここに久しぶりに来たんだが、はぐれてしまったんだ。今頃、一人で泣いてるかもしれない、どこにいるか教えてくれるかい」
「くっ、おじさん、なけちまうぜ」
(お、おじさぁぁぁぁーーん!!)
なんも知らない優しいおじさんはナデルの言葉に泣きそうになりながら、倉庫を指差した。




