Episode 9‐1
「また、やってるのか」
部屋から出てきたヴィオレッタに向けて、アズールが言う。
「これも人類の未来のためよ」
それにヴィオレッタが答える。
「しかし、随分と上手いこと手懐けたものだな」
ヴィオレッタが出てきた部屋の中にいたのはシファである。扉には「立ち入り禁止」の意味を示すどこかの国の文字が書かれた紙が貼られている。シファの様子を知る者は唯一その扉の鍵を持つ彼女のみ。
「当然でしょ。私には未来が視える。そしてその数ある未来の中で、現在どんな行動をとれば自分の望むルートを辿れるかという、時間の流れ、蝶の羽ばたきによる風の色も含めてね」
「だが、偽名で部屋を借りてこそこそと匿ってやったアイギスの少年は、手懐けられなかったようだが?」
「あの子とは何もしてないわ」
「ほう、女相手じゃないと盛り上がらないか。ウチは女のメンバーはお前だけだからな。どうりで誰ともくっつかないわけだ」
「私だって好きでやってるんじゃない!そういう趣味だと勘違いしないで……」
ヴィオレッタは声を荒げた。未来を掌握し、常に冷静さを欠かずに行動する彼女にしては、珍しい反応だったので、アズールは少々驚いていた。
「すまなかった」
「いいのよ。ただね、シファには決定的に足りてないものがある。あの子も言ってたけど、あそこの子供たちはみんな親の愛情を受けずに育っている。だから言うことを聞いてもらうには、こうするのが一番だってだけ」
「なんだ。俺達と似たようなもんか。しかし、確かに初めて彼女が来た時の姿に比べれば、身なりも整ったもんだ。ボサボサの長髪はいつの間にかサラサラになってるし、セーラー服にパーカーとかいうドラマの家出少女みたいな服装も、今じゃフリフリのゴシックドレスなんか着てたよな。お前は将来いいママになるんじゃないか?」
「へ、変なこと言わないでよ。あのドレスはただ私の趣味なだけよ。本人もすごい気に入ってくれてるけどね」
ヴィオレッタは少し照れくさそうに答えた。
「シファがあの服を気に入る未来も見えていたってことか」
「まあね」
「で、俺の未来はどうなるんだ?俺もいいパパにでもなれそうか?」
「兄さんの未来は……内緒よ」




