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32 全属性

 半身強化ダブル・ダブルの呪紋によって加速されたイリィの左手が跳ね上がり、その人差し指が魔術のトリガーを引く。


氷結弾アイス・ブリット!」


 その狙いは違わず、最後に生き残っていた【超肉体の悪魔】を貫き倒した。


「うん、半身強化ダブル・ダブルの呪紋がちゃんと機能しているようね」


 イリィの左半身に刻まれた赤い血の色をした呪紋。

 透明な魔法の染料を使っている俺やアナと違って、イリィには呪われた染料を使って呪紋を入れていたのでこうして目で見ることができるのだ。

 魔力強化神経ブーステッド・リフレックスで加速している俺、そしてドーピングアイテムで能力値を底上げしているアナと比べ、イリィのスピードが遅いのが目立っていたのだが、これが呪紋を入れたことによりある程度解消されていた。


「狙った所に印が浮かび上がる」


 そう、イリィが言うが、


「それが、左目の周りに刻まれた呪紋の効果、スマート・サイトよ」


 俺は説明する。


「呪紋が狙った場所に対してマーカーを視界に浮かび上がらせるわけ。これのおかげで素早く確実な照準ができるの」


 攻撃魔術などの命中率が底上げされる訳だ。


「なるほど、素早さを倍加させる魔力強化神経ブーステッド・リフレックスや身体能力を引き上げ痛覚を遮断する狂戦士化アドレナリン・ブースターのような派手さはありませんが、確実に戦闘力を底上げしてくれる呪紋なのですね」


 アナは感心したように言った。

 うん、その辺を考えて選んだ呪紋だからな。




 そうして力の修練場、未踏破区域を突破したどり着いたのは、


「鏡の間ね」


 まぁ、ここから先は後で体勢を整えてから入ることにして、


「【妖精のなめし革】が手に入ったわね」


 これは古代上位種ハイ・エンシェントと呼ばれる光妖精ハイ・エルフがなめしたという竜の革だ。

 これを使った武器、妖精シリーズは今使っているものよりワンランク上の性能を持つし、防具は、炎の吐息などのブレス攻撃に抵抗力を持つようになるという。


「ホーリー・サイトで加工してもらいましょう」


 アナの空間跳躍ジャンプの呪文でホーリー・サイトに向かい、まず武器を造ってもらう。

 アナには妖精のなめし革を編み込んで作った妖精のムチを。

 俺には妖精のなめし革を貼って造った妖精のハリセンを。

 後は、俺が使っていたタルのフタの盾(中)とイリィのタルのフタの盾(小)の表面に張っていた革を、妖精のなめし革に張り替えてもらう。


「済みません、それをするとこの盾に込められていた魔術への耐性が無くなってしまいますが」


 と、職人さんが言うが、


「構わないわ。魔術に耐性を持った防具は他にも持ってるから」


 今後はブレス攻撃をしてくる敵も多く出て来ることから、総合的な防御力を上げた方がいいのだ。


 こうして、妖精の盾(中)と妖精の盾(小)ができあがった。


「芯はタルのフタなんですけどねぇ」


 アナは複雑な表情だ。

 まぁ、いい。


「それじゃあ、これはアナとイリィが使って」


 俺は二つの盾を二人に差し出す。


「ここまで立派な品になると、レンジャーとしての訓練を受けている私じゃ扱いきれなくなっているから」


 軽戦士タイプであるレンジャーに大げさな盾は向かないのだ。


「それでは、あなたはどうするのですか?」


 そう言うアナにはこう答える。


「アナがこれまで使ってきた抗魔の甲羅の盾+2を使わせてもらうわ。これはこれでいい品だから」


 こうして防備を整え、再度、力の修練場、鏡の間に向かった。


「これ、持ってて」


 俺はイリィにラッパ銃を渡して一人、鏡の間に向かう。


「ブリュンヒルデ、何を……」

「ごめんなさいね、ここでの修練は一人ずつなの」


 鏡の間には大きな魔法の鏡がある。

 そこに映っているのは自分自身。

 だが、その口元がニヤリと邪に歪み……


「「いい加減にしなさい!」」


 ハリセン同士のクロスカウンター!


「「ぶっ」」


 互いに受けた衝撃にノックバックし、間合いが広がる。


「ブリュンヒルデ!?」


 アナが慌てたように声を上げた。


「大丈夫よ、手を出さないで!」


 俺は半分涙声だったが、彼女を制止する。


「そう、見てのとおり、この鏡の間では自分自身のエイリアスと戦うことによる習練ができるわけ」

「なっ!?」

「そして挑戦者の姿を写し取ったエイリアスの持つ力量は、まったくの互角」


 だからこそギリギリの修練ができるわけだ。


「そんなものにどうやって勝つと言うのです!」

「簡単よ」


 俺は範囲攻撃スキル、


「何でやねん!」


 【ハリセン乱舞】を放つ。


「攻撃フィールドを張って押し切るつもりですか? いや、しかし……」


 アナが危惧したとおり、


「何でやねん!」


 エイリアスもまた【ハリセン乱舞】で攻撃フィールドを放ち相殺する。


「「何でやねん! もうええわ! いい加減にしなさい!」」


 ひたすらハリセンを打ち合わせていく。

 一分? 二分? どれだけの間打ち合っていたのか、そして……


「何でやねん!」


 俺のハリセンの一撃がついに競り勝った!


「何故!?」


 驚くアナたち。

 そして力量が拮抗していたからこそ、その均衡が崩れた場合は挽回は難しい。

 そうして俺は最後まで押し切り、この勝負に勝利したのだった。


「どうやって同じ力を持つエイリアスに勝ったのですか?」

「簡単よ。私の勝利は常にそれまでの自分に勝つことなんだから」

「まさか……」

「そう、ここで現れるエイリアスは鏡に映った瞬間の自分の投影だけど、それ以降の成長まで映し取るものではないの」

「戦いの中で自身を成長させれば、己の過去を写し取った影にも勝てる……」


 そういうこと。


「自分が相手だから、自分の持つクセも修正できるしね」


 結構急速に成長させてきた俺たちだったから、ここで直せる歪みは矯正しておいた方がいいだろう。




 こうして俺たちは順にエイリアス相手の経験稼ぎを行った。

 アナは手堅く【乱れ打ち】のスキルを磨いて押し勝っていた。


「レベル22で位階が権天使プリンシパリティに上がりました」


 ハイレベルアップにより上位の天使に進化を遂げる。


 一方イリィは魔力矢エナジー・ダート過負荷詠唱オーバー・ドライブで撃ち合っていた。

 しかも非殺傷設定をせずに。

 マシンガンのように魔力矢エナジー・ダートが飛び交い相殺される展開に、冷や汗ものだったぞ、本当に。

 そして、


「うん、いい頃合いだから魔術も身に着け始めようかしら」

「は?」


 俺は魔術も使うミスティック・レンジャーへの転職を決めた。


「魔術適正、持っていたんですか? 持っていたなら何故今まで使わなかったのです」


 アナの疑問はもっともだったが、


「いや、習得できる魔術の適正が微妙で……」

「はい? どの属性なのです?」

「全属性」

「は?」


 いや、そこで固まらないで。


「全属性、潜在能力、邪鬼眼……」


 いや、イリィ、そこでくすくす笑わないで。

 っていうか、どこでそんな言葉覚えたんだ……

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