24 熱いぜ熱いぜ熱くて死ぬぜ!
「いや、死ぬ、死ぬわよこれ!」
途中出てくるモンスターから逃げ回りつつ先に進むのだが、いくら魔力強化神経で敏捷度が倍になっているとはいえ、全部はかわし切れないって。
「ぐっ……」
痛恨の一撃、クリティカル・ヒットが入ったら、一発で瀕死だしね。
まぁ、即死にならないだけマシだし、だからこそリスクを受容してここにチャレンジしてるんだけど。
という訳で、俺たちが向かったのは古代文明が遺したバブ・イルの塔の中でも力の修練場と呼ばれている場所だった。
その名の通り筋力、体力増進等の肉体強化系アイテムの宝庫だが、警備の【肉体の悪魔】が今なお魔界から召喚され、侵入者にわらわらと群がってくるという難所でもある。
「もう筋肉はいいって……」
それが正直な感想だった。
【肉体の悪魔】はその名の通り筋肉の塊のような悪魔たちで、魔術こそ使わないが、その肉体から繰り出される物理攻撃力、打撃力には目を見張るものがある。
ゆえに、まともには戦わず、遭遇したら逃走を繰り返しているんだが、それもまたストレスだった。
唯一良かったのは肉体強化系のドーピングアイテムが多数手に入ることだった。
イリィが拾ってきてくれたそれらを、アナに集中投与する。
「筋力をアップさせるペロリーマイト、力の行糧に、耐久力を増加させるプロテイン、素早さを上げるインドメタシン」
「そんなにいっぺんに食べられませんって!」
うん、確かに辛いかも。
行糧って森妖精が作った高機能携帯保存食なんだけど、ほんの一かけらで一日分の栄養が取れるって品だから。
一粒三百メートルどころじゃないんだよな。
そこに更にプロテインはまずくて飲めないだろうしなぁ。
しかし、
「じゃあ、とりあえずインドメタシンを塗ってあげるわ。筋肉の炎症を抑え素早さを上げる薬よ」
とにかく能力を底上げして少しでも対抗できるようにしないと厳しいからな。
「何か、手つきがいやらしいのですが」
「ん~!? 何のことかな、フフフ……」
「熱いぜ熱いぜ熱くて死ぬぜ!」
携帯用のフライパン、スキレットの上で、ソーセージを炒める。
こんがり焼けたら、ケチャップソースにカレー粉をまぶしたものを付けて食べる。
カリーヴルストってやつだ。
「甘めのケチャップにカレー粉がいいスパイスになってるわね」
「凄く、嫌いじゃない」
イリィにも好評だ。
後は、岩塩の粒を表面にまぶした紐パン、ブレッツェル。
「見た目より柔らかくて美味しいわ」
ブレッツェルは様々な種類があるけど、ビアツェルトで買ったものは、手で簡単に千切れるほど柔らかかった。
「しょっぱい……」
イリィはそう言って涙目になる。
「ああ、表面についてる岩塩の粒は掃ってから食べるのよ」
そういうパンなのだ。
旅の料理は簡素な物が多いが、時には出先でこんな風に簡単な調理を行うのも良いものだ。
「私は食べられませんけどね」
「ごめん」
力の行糧とプロテインでお腹がいっぱいなアナには申し訳ないんだけどね。
後はこの力の修練場に蓄えられた金品を入手する訳だが、
「ああ、そこの部屋の警備システムはまだ生きているから触らない方が身のためよ」
「警備システム?」
「肉体の悪魔三体がコンテナに触れる度に召喚されるわ」
「ええっ!」
物凄く嫌な顔をするアナ。
イリィは言われる前から分かっていた様子で、手を触れようとはしなかったが。
「とはいえ、一つだけもらって行きましょうか」
コンテナの中の一つに手を出すことにする。
「イリィと私は集中防御でしのぐから、アナは破邪の魔術で悪魔を送り返して」
「了解しました」
破邪は聖なる光で不死怪物や悪魔を退散させる魔術で、成功すれば一発でモンスターは祓われてしまう。
もっとも、成長に必要な経験がまったく積めないため、多用するものでは無かったが。
「受けよ聖光!」
破邪の聖光を受け、二体の肉体の悪魔が魔界へと祓われる。
残り一体だが、
「いったぁ……」
集中防御を選んでいても、ずしりと体の芯まで響く重さのある打撃が俺に叩き込まれる。
普通に戦闘に臨んでいたら大怪我を負っているところだ。
「もう一度、退け!」
二回目のアナの魔術を受け、最後に残った肉体の悪魔も無事退散したのだった。
「抗魔の妖精服ね」
コンテナから出て来たのは、魔術に抵抗力を持つ妖精の服だった。
鉄の胴鎧ぐらいの物理防御力を持ち、攻撃魔術のダメージを三割減らすことができる。
「これはもちろん、イリィへ」
さっそくイリィに着てもらう。
「うん、可愛い」
夜型の生活ゆえに赤く充血し濁りきった瞳と、不健康な青白い肌が台無しにしている気もするけどな!
本当に残念系のヒロインだよなぁ。
「あとは、警備システムが壊れている場所もあるから今回はそれが狙い目ね」
まずは力の行糧、プロテイン、インドメタシンといったドーピング用アイテム。
「またですか……」
「頑張って食べてね」
まずは、インドメタシンを塗ってかな。
「塗ってあげようか?」
「……やっぱり手つきがいやらしいのですが」
そんなことは無きにしも非ず。
「これは、絹織物でしょうか?」
そう言ってアナが手にしたのは衣装用の生地。
絹糸を特殊な四層織りにしたもので、防弾チョッキにも使えるほど強靭なものだった。
地球でも一番初期の防弾チョッキはそのような生地で作られていたからな。
帰ったらこれで服を仕立ててやればいいだろう。
次に入手したのは力の杖。
これは術者系の職業の者が使える武器の中では破格の威力を備えたもので、前衛職が使う上質の剣を軽く上回る性能を持つ。
とりあえず、イリィに持たせておく。
それからアクセサリー類と古代の金貨。
これらは高く売れるはずだった。
最後に、呪紋に使う魔法の染料。
「それじゃあ、ジャンプ」
リターン・クリスタルを使って、登録済みのビアツェルトの街のゲートへと転移する。
「仕立て屋に向かうわよ」
仕立て屋に行ったら持ち込んだ絹の生地で俺用の服を作ってくれるよう依頼する。
それから武具屋に向かって、アナの甲羅の盾に紋章装甲を入れてもらうことにした。
希少な魔法金属で護符を象嵌してもらい、防御力を上げるのだ。
「五芒星、六芒星、魔法円、魔法陣……」
「護符といっても色々あるのですね」
うん、迷ったけど、
「やっぱりウジャトの目がいいわ」
エジプト神話のホルス神の左目に起源をもつ護符だ。
月と太陽の象徴であり、物を見抜く力があるとされ、再生・修復、守護、魔除けの護符として使われる。
アメリカ合衆国の1ドル札にも描かれているフリーメーソンのシンボル・マーク、万物を見通す【プロビデンスの目】の元になったものと言われていた。
魔導士の象徴である第三の目、いわゆる第二視力、つまりは霊視眼を意味するともいう紋章だった。
……亀の甲羅の盾に入れるって言ったらやっぱり目玉マークだよね。
「私のタルのフタの盾(中)も革張りに強化して」
ビアツェルトの街は豚革が安いからな。
それから、牛の角を使った工芸品の出物があったので購入する。
「ホーン・サークレットを買いましょうか」
頭の両サイドに、こめかみまでを守るように牛の角飾りが付いた頭防具としても機能するアクセサリーだ。
「あなたがそれを着けると、まるで悪役、魔族みたいですね」
アナが言うとおり、きつめの顔立ちをしているブリュンヒルデがホーン・サークレットを着けると、金の縦ロールから覗く角がまるで女悪魔のように見える。
「アナが付けると、上品に見えるのに……」
金牛宮にちなんだ神属性のアクセサリーにも見える。
彼女は胸がホルスタイン級だしな!
ブリュンヒルデとのこの差は一体…… 解せぬ。
「イリィは?」
ふるふると首を振られる。
まぁ、彼女は赤帽子があるからなぁ。
あれが本体という説もあるし。




