ジョン・コール
作者の私はイギリスに行ったことがない。現実のイギリスとは違っているかもしれない。
イギリスのケンブリッジにあるレストラン・フォレストフィッシュ。日の出前の早朝から昼過ぎまで母親と一緒にジョン・コールは働いている。警察官だった父親は退職して慈善活動として町の人達と一緒に見回りをして防犯に努めている。週に五日稼働しているフォレストフィッシュは大盛況だ。母親は接客を担当し、ジョンは料理を作っている。通学・出勤前の朝食の場として地元の人達は重宝している。味は隣のインド料理屋や中華料理屋が美味いが、フォレストフィッシュは安価で量が豊富だ。イギリス料理は不味いと嘲笑されるが、実際は素朴で味わいのある料理が多い。タラやジャガイモのフィッシュアンドチップスの他にスコーンやハーブを使った料理がある。独特な香りと味に慣れれば親しみが持てる。留学生や外国人労働者も文句を言わない。
フォレストフィッシュは祖父の代から続いている。母親が引き継いでジョンが手伝っている。ジョンは修士課程を卒業して情報技術業界の企業に就職したが、仕事に限界を感じて実家に戻っている。今年で三十五歳になる。毎日早く起きなければならないが、昼食時が終わると閉店するので夕方は暇で休んでいる。漫画を読んだり映画を観たりしている。
父親は結婚しないどころか独立しないジョンに時折小言を言うが、母親は全く急かさなかった。昨今、生涯独身でも仕方がないし、全くの無職でもない。母親は達観している。しかし料理も掃除もできるがジョンは接客が苦手なので跡を継ぐ覚悟があるのかが気掛かりだ。
フォレストフィッシュに来る客は人種・民族・国籍・宗教が様々だ。常連客のアレルギーや禁忌の食べ物を母親もジョンも熟知している。豚の成分を極端に嫌うイスラム教徒やユダヤ人、徹底した菜食主義のヴィーガン、乳製品が苦手なアジア系。フォレストフィッシュでは野菜の多いポテトサラダが人気だ。近郊の畑で獲れた作物の野菜炒め、ミントと一緒に焼いたや羊肉もある。
町では時々、デモ行進やストライキ運動が起きるが、治安は良い。町の人達や客同士での口論は有っても、暴力沙汰は滅多に起きない。皮肉や冷笑は日常茶飯事で、強者の失言を逆手に取る弱者は多い。過激な不買運動も暴動もない。強者も弱者も互い様だと程良く距離をとっている。
ジョンは無口で大人しかった。少し太っているが決して筋肉質ではない。両親共に白人だがジョンは母親似で黒髪の黒い瞳だ。父親似で容姿は凡庸だ。女から男として注目されたことがない。ゲイからも脚光を浴びたためしがない。喧嘩は苦手でむしろ強気な女を避け、粗暴な男から逃げている。身長は百九十センチと大柄だが見るからに気弱そうな雰囲気が滲み出ている。客も町の人達もジョンを地味な料理人とみなしており、排除はしないが深入りもしない。
ジョンは老後が不安になるが、半ば人生を諦めている。友人達が結婚して家庭を築いても最近は嫉妬しない。




