第25話 救いの光
白銀戦線の拠点内部。
崩落した通路の奥で、二人の女性が対峙していた。
《王虎の牙》リンファ。
そして。
《深淵の剣》四天王リリア。
「ふふ。」
リリアは双剣を構える。
リンファは静かに構えたまま答える。
「あなたもずいぶん余裕があるのね。」
リリアは口元をわずかに緩めた。
「だって強い相手を壊すのは楽しいもの。」
次の瞬間。
リリアの姿が消える。
「《影渡》」
一瞬で死角へ回り込む。
「《双牙》」
左右から双剣が閃く。
しかしリンファは動じない。
「《流転》」
身体を滑らせるように動き、双剣の軌道を受け流す。
金属音が響く。
リリアの斬撃は空を切った。
そのままリンファは一歩踏み込む。
「《掌打》」
掌底がリリアの肩を捉える。
「っ!」
リリアは後方へ飛び退いた。
着地すると、楽しげに笑う。
「いい反応ね。」
「でも。」
双剣を回転させる。
「《裂華》」
舞うような連続斬撃。
右。
左。
さらに追撃。
無数の斬撃がリンファへ襲いかかる。
リンファは手甲で防御する。
ガキン。
ガキン。
金属音が響く。
「……。」
リリアは笑みを深めた。
「避けるだけ?」
リンファは静かに息を吐く。
「いいえ。」
一歩。
踏み込む。
「《崩歩》」
たった一歩。
その踏み込みだけでリリアの重心がわずかに浮く。
「!」
その隙を。
リンファは逃さない。
肩から全身をぶつける。
「《鉄山靠》!」
ドンッ!!
鈍い衝撃。
リリアは双剣を交差させて防御する。
しかし勢いまでは殺しきれない。
「くっ!」
数メートル吹き飛ばされる。
床を滑り壁際でようやく止まった。
リリアはゆっくりと立ち上がる。
そして楽しそうに笑った。
「ふふ。」
「面白いわ。体術だけでここまでやるなんて。」
リンファは構えを崩さない。
「あなたも十分強いわ。」
その時、通路の奥から足音が響く。
「いたぞ!」
深淵の剣のプレイヤーたちが駆け寄ってくる。
十数人。
一斉にリンファを囲んだ。
「リリア様!」
「援護します!」
リンファは小さく息を吐く。
「いい子達。」
リリアは一歩後ろへ下がる。
「邪魔が入ってしまったわね。」
「でも…。」
「あなたの隙を作るには十分かしら。」
リリアは双剣を構える。
狙っているのは明白だった。
リンファが複数を相手にした、その一瞬の隙を。
深淵の剣のプレイヤーたちが一斉に襲いかかる。
剣。
槍。
魔法。
リンファは冷静に迎え撃つ。
「《掌打》」
一人を吹き飛ばす。
「《脚刈》」
足元を払う。
「《肘砕》」
武器を弾き飛ばす。
しかし。
数が多い。
「……。」
リンファは静かに右手を上げた。
「仕方ないわね。」
リリアが目を細める。
「アークスキル」
空気が変わる。
「《鋼糸操術》」
瞬間。
無数の鋼糸が広がった。
細く。
鋭く。
視認できないほどの速度で。
深淵の剣プレイヤーたちの腕。
足。
武器。
そのすべてへ絡みつく。
「なっ!?」
「動けない!」
一瞬だった。
全員の動きが止まる。
リンファは静かに歩み寄る。
「動いたら…。」
鋼糸がわずかに張る。
「切れるわよ。」
誰一人。
動けなかった。
リリアの表情が変わる。
「……。」
「なるほど。」
「それがあなたの本当の力。」
リンファはリリアを見据える。
「邪魔はなくなったわ。」
「続きをしましょう。」
リリアはゆっくりと双剣を構え直す。
「いいわ。」
「もっと楽しませて頂戴!」
二人の間に再び殺気がぶつかり合った。
◇
白銀戦線の拠点内部。
そこでガウとヨミの戦闘は続いていた。
「……。」
ヨミは一言も発さない。
虚ろな瞳のまま、巨大な大鎌を振るう。
「っ!」
ガウは《朧》でそれを受け流す。
真正面からは受けない。
力を逃がし、身体を捻って、そのまま距離を取る。
「……。」
ヨミは追撃に移る。
迷いのない動き。
まるで機械のようだった。
次の瞬間、ヨミが深く腰を落とす。
「……!」
俺の目が細まる。
ヨミは地面を蹴った。
一直線に、大鎌を振り上げたまま、獣のような速度で飛びかかってくる。
俺は《朧》を構え、迎え撃とうとした。
その時だった。
淡い光が差す。
柔らかな魔力が二人を包み込んだ。
「……?」
ヨミの動きが止まる。
大鎌を握る手がわずかに震えた。
「……。」
虚ろだった瞳がかすかに揺れる。
「ぁ……。」
ヨミの身体から黒い呪印が少しずつ薄れていく。
セリアの呪印解除魔法。
王虎の牙の外部班が放った魔法が、ようやくヨミに届いたのだった。
「……。」
ヨミの身体から力が抜ける。
そのまま、ガウの目の前へ倒れ込んだ。
「……っ。」
俺はとっさにヨミを支える。
ヨミは意識を失っていた。
静かな寝息だけが聞こえる。
俺はそっとヨミを横にする。
「少し待ってて。」
小さく呟く。
「すぐに終わらせるから。」
俺は再び《朧》を握る。
まだ戦いは終わっていない。
ゼノス。
そして、《深淵の剣》。
すべてを終わらせるために、俺は再び前を向いた。
第25話「救いの光」を読んでいただき、ありがとうございます!
今回は、二つの戦いが大きく動きました。
リンファは体術だけでリリアと渡り合い、最後には《鋼糸操術》を解放。
そして、ガウとヨミ。
ゼノスの呪印に縛られていたヨミに、セリアの呪印解除魔法が届きました。
一方で、戦いはまだ終わっていません。
ゼノスとの決着。
二章もいよいよクライマックスへ向かいます。
最後まで見届けていただけると嬉しいです!
それでは、また次回!




