第53話 まだ昼過ぎ
目が覚める。
ぼんやりと天井を見る。
カーテンの隙間から朝の光が入っていた。
「…………眠い」
まだ寝ていたい。
そう思いながら枕元に置いていたスマホを手に取る。
画面を見る。
午前八時前。
「…………」
今日は土曜日。
仕事は休み。
そして。
午前九時から《ファンタズマ・ゲイト》。
昨日、全員で第二階層へ行くと約束した。
「まだ大丈夫か」
一時間近くある。
俺はベッドから起き上がる。
そのまま少しだけぼーっとして。
「…………腹減った」
昨日の夜は少し遅かった。
冷蔵庫を見る。
何かあったかな。
「…………」
あんまりない。
パンはある。
これでいいか。
パンを焼いて、珈琲を淹れる。
テレビをつける。
『続いて、今日の天気です』
「…………」
焼けたパンを皿に乗せて椅子に座る。
テレビでは天気予報が流れていた。
『福岡県では午前中から晴れるところが多く――』
晴れか。
まあ。
今日はほとんどゲームするから関係ないけど。
パンを食べる。
珈琲を飲む。
「…………」
眠い。
テレビでは天気予報が終わり、別のニュースに切り替わった。
特に気にせずパンを食べ続ける。
『続いては、現在国内外で人気を集めているフルダイブVRMMORPG、《ファンタズマ・ゲイト》の話題です』
「…………」
手が止まる。
顔を上げた。
テレビを見る。
画面に映っているのは見慣れた文字。
《ファンタズマ・ゲイト》。
『国内で好調な売り上げを記録している《ファンタズマ・ゲイト》ですが、先日サービスを開始した海外でも売り上げを伸ばしています』
「へえ」
海外でも売れてるんだ。
画面が切り替わる。
海外向けの広告。
ゲームを紹介する映像。
第一階層の草原。
街。
魔物。
戦っているプレイヤー。
『サービス開始後も販売本数を伸ばしており、フルダイブVRMMORPGとして世界的な人気を集めつつあります』
すごいな。
俺が始めた頃は発売して一週間くらいだったのに。
気付けば海外でも売ってる。
『本日は開発、運営を行う《ネクサス・クリエイト》の神代彰人社長にお話を伺っています』
「…………」
画面に男が映る。
この人が社長なんだ。
初めて見た。
『海外でも好調なスタートとなっていますが、現在のお気持ちはいかがでしょうか?』
『そうですね。まずは多くの方に遊んでいただけていることを本当に嬉しく思っています』
神代社長が笑う。
『私たちとしても日本だけでなく、より多くの方に《ファンタズマ・ゲイト》の世界を楽しんでいただきたいと考えていました』
『今後も海外展開には力を入れていくのでしょうか?』
『もちろんです。ただ、まずは現在サービスを行っている地域で、プレイヤーの皆様に安心して楽しんでいただける環境を作ることが大切だと考えています』
「…………」
『《ファンタズマ・ゲイト》では、先日の第三回大型アップデートも話題になりました』
『ありがとうございます』
『新階層だけでなく、生活系コンテンツやギルド向けコンテンツなども大幅に追加されましたね』
『はい。戦闘や攻略だけではなく、色々な楽しみ方が出来る世界にしたいと考えています』
色々な楽しみ方。
「…………」
俺たちは攻略してなさすぎる気もする。
第三階層まで解放されてるのに、第二階層すらまだ行ってない。
『今後も新しい展開は予定されているのでしょうか?』
『もちろんです』
神代社長が頷く。
『まだ詳しいことはお話し出来ませんが、これからも《ファンタズマ・ゲイト》の世界は広がっていきます』
少し間を置いて。
『ぜひ、楽しみにしていただければと思います』
「…………」
珈琲を飲む。
少し冷めていた。
テレビでは《ファンタズマ・ゲイト》の映像が流れ続けている。
俺はパンの残りを食べる。
「やっと第二階層か」
昨日準備もした。
今度こそ行く。
そう思いながら何となく時計を見る。
午前八時五十五分。
「…………」
もう一度見る。
午前八時五十五分。
集合は午前九時。
「…………やば!」
椅子から立ち上がる。
残っていたパンを口に入れる。
珈琲を一気に飲み干す。
皿とカップを持って流しに置く。
テレビを消して、歯を磨く。
トイレして戻る。
時計を見ると八時五十八分。
「…………」
急いでベッドに横になる。
機器を装着して、目を閉じる。
「間に合え」
《ファンタズマ・ゲイト》。
ログイン。
◇◇◇
視界が切り替わる。
木造の天井。
村の家。
「…………」
メニューを開く。
午前八時五十九分。
なんとか間に合った。
急いで外へ出て、集会場に向かう。
扉を開けると――
「遅ええええええ!!」
うるさい。
「間に合ってるでしょ」
ハヤテが俺を指差している。
「一分前だぞ!!」
「一分前だから間に合ってる」
「もっと余裕持って来いよ!」
「ハヤテに言われたくない」
「なんでだよ!」
「昨日徹夜しようとしてたじゃん」
「ちゃんと寝た!!」
「偉いね」
ハヤテの頭をよしよしする。
「子供扱いすんな!」
「ごめんごめん」
集会場には全員揃っていた。
たると。
ハヤテ。
リンファ。
セリア。
シズク。
マルコ。
ゴウマ。
そして俺。
「ガウも来ましたし」
たるとが立ち上がる。
「これで全員ですね!」
「おう!」
ハヤテも立ち上がる。
昨日準備した荷物はそれぞれ持っている。
俺も確認する。
《朧》。
クナイ。
まきびし。
火薬玉。
回復薬。
状態異常用の薬。
リンファにもらったクナイ入れも腰に付けてある。
問題ない。
「忘れ物はありませんか?」
たると。
「ない!」
ハヤテ。
「本当ですか?」
「なんで俺だけ疑うんだよ!」
「昨日あれだけ荷物を減らしたので……」
「ちゃんと必要な物だけにした!」
「回復薬は?」
「…………」
「増やしてませんよね?」
「増やしてない!」
少し間があった。
怪しい。
「確認します」
シズクが近付く。
「待て!」
「確認するだけです」
「信用しろよ!」
「昨日こっそり戻していた人を信用しろと言われましても」
「ぐっ……!」
負けた。
結局。
ハヤテの荷物を確認して回復薬が二つ増えているのがバレていた。
たるとに一つ戻されて。
「一個はいいのか!?」
「一個くらいなら……」
「よっしゃ!」
嬉しそう。
「では!」
たるとが扉の方を向く。
「今度こそ!」
少し笑って。
「第二階層へ出発です!」
「おおおおおお!!」
ハヤテの声が集会場に響いた。
◇
村を出る。
目的地は第一階層中央。
そこにある階層転移陣。
何度か行こうとしたが結局一度も使っていない。
でも今日は違う。
本当に向かっている。
「第二階層!!」
ハヤテが先頭を歩いている。
「やっとだな!!」
「まだ着いてないよ」
俺が言う。
「今向かってんだろ!」
「そうだけど」
「もう行ったようなもんだ!」
「全然違うと思う」
「細かいな!」
たるとはシズクと昨日調べた情報を確認している。
リンファとセリアは第二階層の素材について話している。
マルコは周囲を見ながら歩き。
ゴウマはその横。
「…………」
こうして八人で長い距離を移動するのは珍しいかもしれない。
しばらく歩いているとハヤテがゴウマを見ていた。
「そういやゴウマ」
「なんだ」
「武器使わねえの?」
「使うぞ」
「使うの!?」
ハヤテが驚く。
俺もゴウマを見る。
「俺も使わないと思ってた」
「素手の方が慣れているだけだ」
「武器持ってるの?」
「ああ」
ゴウマがメニューを操作する。
装備を取り出した。
金属音。
両手の拳に装着されたのは分厚い金属製の武器だった。
メリケンサック。
表面は無骨で岩みたいな凹凸がある。
見るからに重そう。
「おお!」
ハヤテが食いつく。
「何だそれ!」
「《岩砕》だ」
「がんさい?」
「ああ」
「レア装備だ」
「レア!?」
ハヤテの声が大きくなる。
「どこで手に入れたんだよ!」
「一人で動いていた頃だ」
ゴウマが《岩砕》を見る。
「たまたまダンジョンを見つけた」
「ダンジョンですか?」
たるとも話に入ってくる。
「ああ。中に入って奥まで進んだら魔物がいた」
「倒したの?」
俺が聞く。
「ああ」
「それで落ちたのがこれだ」
ゴウマが拳を軽く握る。
殴られたら痛そう。
「それ隠しダンジョンじゃねえの!?」
ハヤテ。
「知らん」
「場所覚えてるか!?」
「覚えている」
「今から行こうぜ!!」
「ハヤテさん」
シズク。
「今日は第二階層です」
「分かってるよ!!」
危ない。
また寄り道するところだった。
「でも」
ハヤテが《岩砕》を見る。
「そんなの持ってるなら、なんで今まで使ってなかったんだ?」
「必要なかったからだ」
「レア装備だぞ!?」
「ああ」
「使えよ!!」
「必要なら使う」
「もったいねえ!!」
なんでハヤテが悔しそうなんだろう。
「マルコは知ってた?」
俺が聞く。
「いや」
マルコも《岩砕》を見る。
「初めて見た」
「そうなの?」
「ああ」
ゴウマを見る。
「そんなもの持ってたのか」
「言ってなかったか?」
「聞いてない」
「そうか」
終わった。
「いや、もっと話せよ!」
ハヤテ。
「何をだ」
「色々あるだろ!」
「ない」
「あるだろ!!」
ゴウマは《岩砕》をしまう。
「え!?」
ハヤテ。
「しまうのか!?」
「今は必要ない」
「使えよ!!」
「魔物もいないだろ」
「そうだけど!」
ゴウマらしい。
俺たちはそのまま歩き続ける。
時々魔物と遭遇するが俺たちは八人もいる。
討伐までそれほど時間はかからなかった。
倒して。
素材を拾って。
また歩く。
「第二階層着いたら最初に街に行きましょう!」
たると。
「その前に魔物!」
ハヤテ。
「街です」
シズク。
「昨日もそれ言っただろ!」
「昨日決めたからです」
「一匹くらいいいだろ!」
「道中で遭遇したら戦えばいいでしょう」
「探しに行こうぜ!」
「行きません」
「厳しい!」
「普通です」
「料理も食べたいですね!」
たると。
「素材屋も見たいわね」
リンファ。
「魔法に使えるものあるかな~」
セリア。
「危険な物は買わないでくださいね」
シズク。
「まだ買ってないよ~」
「買う前に言っています」
昨日と同じような会話。
「…………」
まあ。
いつも通りだ。
◇
しばらく歩いた。
俺は何となく時間を見る。
午後十二時を少し過ぎている。
「もう昼か」
朝九時に村を出た。
途中で魔物と戦ったり。
話しながら歩いたり。
思ったより時間が経っている。
マップを見る。
階層転移陣まではまだ一時間以上かかりそうだ。
その時、たるとが申し訳なさそうに声を上げた。
「あの……皆さん」
全員が見る。
「どうした?」
「一度、休憩にしませんか?」
「休憩!?」
ハヤテがすぐ反応した。
「まだ歩けるぞ!」
「そうじゃなくて……」
たるとが少し困ったように笑う。
「私、朝ご飯を食べてなくて」
「…………」
「お腹空きました」
ハヤテが止まる。
「実は私もなのよね」
リンファ。
「朝、あんまり食べてないの」
「わたしも食べてない~」
セリア。
シズクがセリアを見る。
「朝食はちゃんと食べてください」
「起きるの遅かったから~」
「昨日、早く寝てくださいと言いましたよね?」
「寝たよ~」
「何時ですか?」
「…………」
「セリア?」
「覚えてない~」
「それは寝たのが遅かったということでは?」
「どうだろ~?」
「たるとさんもです」
「すみません……」
「何をしていたんですか?」
「今日が楽しみすぎてウキウキしていたらいつの間にか時間が……」
「遠足前の小学生ですか!」
シズクがため息をつく。
「ちゃんと食べてください」
「はい……」
「第二階層着いてからじゃ駄目か?」
ハヤテ。
「まだ一時間以上ありますよ?」
俺が言う。
「でもゲーム内で何か食えば――」
ハヤテが止まる。
「…………」
「…………」
「腹は膨れないよね」
「そうですね」
たると。
ゲームの中で料理を食べても味はする。
でも現実の腹が満たされるわけじゃない。
「俺も昼にする」
ゴウマ。
「俺もだ」
マルコ。
「じゃあ決まりね」
リンファ。
「一回ログアウトしましょう」
たるとが時間を見る。
「一時間あれば大丈夫ですよね?」
「十分だ」
マルコ。
「では」
たるとがみんなを見る。
「午後一時に集合で!」
「おう!」
「分かりました」
「は~い」
俺も頷く。
朝食べたから、そこまで腹は減ってない。
まあ。
一時間くらいならいいか。
「絶対遅れるなよ!」
ハヤテ。
「朝一分前だった人に言ってる?」
「間に合ってたでしょ」
「俺はもっと早かった!」
「早すぎるだけじゃん」
「一時だぞ!」
「分かってる」
メニューを開く。
《ログアウト》。
押す。
視界が白くなった。
◇◇◇
目を開ける。
自分の部屋。
「…………」
さっきまで草原を歩いていた。
それが一瞬で部屋。
何度やっても不思議な感覚だ。
機器を外して身体を起こす。
「…………」
腹はそこまで減ってない。
冷蔵庫を開ける。
「…………」
何もない。
「コンビニでいいか」
貴重品を持って外に出て、近くのコンビニへ向かう。
店に入る。
「いらっしゃいませー」
「…………」
何食べよう。
弁当。
パン。
麺。
おにぎり。
そこまで腹減ってないし。
おにぎりでいいか。
棚を見る。
鮭。
昆布。
ツナマヨ。
「…………」
ツナマヨ。
一個取る。
これで昼はいい。
「夕飯どうしよう」
今日は第二階層。
多分夜まで遊ぶ。
一回ログアウトして作るのも面倒だ。
弁当を見る。
唐揚げ。
生姜焼き。
ハンバーグ。
「…………」
唐揚げでいいか。
一個取る。
これで夕飯は確保した。
そのままレジに向かおうとして止まる。
カップ麺。
「…………」
夜中に腹が減るかもしれない。
一個くらい買っておこう。
棚を見る。
醤油。
味噌。
豚骨。
「…………」
豚骨を一個取る。
昼のおにぎり。
夕飯の弁当。
夜食のカップ麺。
これでいい。
会計を済ませて家に戻る。
家に帰ってきたらまずは弁当を冷蔵庫に入れた。
カップ麺は棚。
おにぎりを開ける。
「いただきます」
食べながらスマホを見る。
《王虎の牙》のグループチャット。
ハヤテ。
『食った!!!』
「…………」
早い。
時間を見る。
まだ十二時半にもなってない。
たると。
『今食べてます!』
リンファ。
『私も』
セリア。
『まだ~』
シズク。
『早く食べてください』
セリア。
『今から食べる~』
ハヤテ。
『遅え!!!』
セリア。
『一時でしょ~?』
『そうだけど!!!』
「…………」
元気だな。
俺はおにぎりを食べ終えた。
ゴミを捨てて、水を飲む。
時計を見る。
十二時四十八分。
「…………」
朝みたいになるのは嫌だな。
少し早いけど戻ろう。
ベッドに横になり、機器を装着した。
目を閉じて、電源を入れる。
◇◇◇
午後十二時五十三分。
元の場所に戻る。
「遅い!!」
「…………」
目の前にハヤテ。
「まだ七分前だけど」
「俺は十二時半に来た!」
「早すぎでしょ」
「準備は早い方がいい!」
「昼休憩なのに?」
「第二階層が待ってんだぞ!」
「逃げないよ」
「分かんねえだろ!」
「逃げるの?」
第二階層。
「言葉のあやだよ!」
何だそれ。
少しして。
たると。
リンファ。
セリア。
シズク。
マルコ。
ゴウマ。
全員戻ってきた。
午後一時。
「全員いますね!」
たると。
「では!」
ハヤテが先に歩き出す。
「楽しみだな!」
「勝手に進まないでください!」
たるとが追いかける。
元気だな。
俺たちは再び歩き始めた。
階層転移陣まであと一時間ちょっとだ。
◇
中央に近付いているからなのか、プレイヤーを見かけることが増えた。
装備も色々。
始めたばかりに見えるプレイヤー。
それなりに装備が整っているプレイヤー。
何人かで集まって歩いている人たち。
ソロ。
パーティー。
色々いる。
「人増えたな」
ハヤテ。
「中央に近付いてますからね」
シズク。
「朝ニュースで《ファンタズマ・ゲイト》やってたよ」
俺が言う。
「マジで!?」
「海外でも売れてるって」
「へえ!」
たると。
「すごいですね!」
「社長も出てた」
「何て言ってたんだ?」
ハヤテ。
「楽しみにしてくださいって」
「何を!?」
「知らない」
「そこ聞いとけよ!」
「まだ言えないって」
「じゃあ仕方ねえ!」
納得早い。
しばらく歩いていると、少し離れたところから音が聞こえた。
金属音。
何かがぶつかる音。
「戦ってる?」
たると。
「魔物か?」
ハヤテがそっちを見る。
第一階層だ。
誰かが魔物と戦っていても珍しくない。
俺たちはそのまま進もうとする。
でも。
「やめろって!」
声。
「…………」
プレイヤー?
続けて。
「もういいだろ!」
別の声。
俺たちは足を止めた。
「向こうですね」
シズク。
少し先。
木々の向こうに何人かいる。
近付くとプレイヤーが見えた。
十人近い。
でも。
戦っている相手は魔物じゃない。
プレイヤー同士。
「…………」
一方は装備が整っている。
武器も防具も、それなり。
人数も多い。
もう一方は三人。
初期装備に近い。
一人は剣。
一人は槍。
もう一人は杖。
どう見ても始めたばかりの初心者に見えた。
三人のHPも減っている。
「何あれ?」
たるとの声が少し低くなる。
「初心者狩りだろ」
マルコ。
「初心者狩り?」
「始めたばかりのプレイヤーを狙ってるんだ」
ハヤテの表情が変わる。
「趣味悪いな」
装備の整ったプレイヤーの一人が笑っている。
「ほら、まだ終わってねえぞ」
「もうやめろよ!」
剣を持った初心者が叫ぶ。
「アイテム置いてけば終わりにしてやるって」
「ふざけんな!」
「なら続けるか?」
武器を構える。
三人が下がる。
逃げようとしても別のプレイヤーが回り込む。
「…………」
完全に遊んでる。
初心者側には勝てないと分かっていてわざと追い詰めてる。
「行きます」
たると。
「おう」
ハヤテ。
俺たちはそっちへ向かう。
その時、初心者の一人がこっちを見る。
俺たちに気付いた。
「……っ!」
声を上げる。
「助けてくれ!」
「…………」
ハヤテが走り出した。
「任せろ!!」
俺たちも続く。
初心者を囲んでいたプレイヤーたちがこっちを見る。
「なんだ?」
「邪魔すんなよ」
「…………」
ハヤテが《白夜》と《黒曜》を抜く。
「初心者相手に何やってんだよ」
「関係ねえだろ」
「ある!」
「何が?」
「今出来た!」
何それ。
でも。
まあいい。
俺も《朧》を抜く。
リンファが《華鋼》を構える。
セリアとシズクも杖を手にする。
マルコも前へ出る。
ゴウマ。
「…………」
メニューを操作した。
金属音。
両拳に《岩砕》を装備した。
ハヤテが振り向く。
「使うのか!!」
「必要だからな」
「かっこいいな!」
「今それ言う?」
俺が聞く。
「だって気になるだろ!」
「後にして」
「おう!」
初心者狩りの集団が武器を構える。
「八人か」
「多けりゃ勝てると思ってんのか?」
「そっちも同じくらいいるけど」
俺が言う。
「…………」
相手がこっちを見る。
「何だお前」
「別に」
俺は《朧》を構える。
「やるなら早くして」
第二階層に行きたい。
「舐めんな!」
一人が走ってくる。
剣。
正面。
遅い。
身体をずらす。
剣が横を通る。
《朧》を振る。
「ぐっ!」
相手のHPが減る。
後ろから別の一人。
「ガウ!」
ハヤテ。
振り向くより先に横へ跳ぶ。
その瞬間、ハヤテが入り込む。
《白夜》。
速い斬撃。
相手が防ぐ。
そこへ《黒曜》。
体勢を崩す。
「おらぁ!!」
「ぐあっ!」
吹き飛ぶ。
「よし!」
「楽しそうだね」
「戦闘だぞ!」
楽しそう。
俺は周囲を見る。
ゴウマは大剣使いと向かい合っていた。
相手が大剣を振り下ろす。
ゴウマは避けない。
身体をずらして軌道を外して踏み込む。
《岩砕》。
拳。
「っ!?」
腹から鈍い音。
相手が大きく吹き飛んだ。
「…………」
強い。
「おおお!!」
ハヤテ。
「やっぱそれ強いじゃねえか!!」
「前見て」
「分かってる!」
後ろから攻撃されかけてる。
「子供なんだから」
リンファがその相手へ入る。
《華鋼》。
拳を弾いて。
足を払う。
倒れたところへ寸前で拳を止める。
「まだやる?」
「…………っ!」
相手が下がる。
セリア。
「《ファイア》~」
炎。
相手が避ける。
「こっち~」
セリアが指を動かす。
炎の軌道が曲がる。
《魔術操作》。
「は!?」
追いかける炎。
相手が慌てて逃げる。
「面白い~」
「遊ばないでください!」
シズク。
《シールド》。
別の攻撃を防ぐ。
「硬っ!?」
「当然です」
シズクが杖を向ける。
「まだ続けますか?」
マルコも一人を押さえている。
杖で相手の武器を弾き。
足を止め。
そのまま地面へ転がす。
「まだやるか?」
「くそっ!」
人数は同じくらいだった。
相手は初心者相手には好きにやっていた集団。
俺たちは。
「…………」
いつの間にかそれなりに戦えるようになってる。
「《ヒール》!」
後ろではたるとが初心者三人を回復している。
「ありがとうございます!」
「まだ動かないでください!」
「はい!」
「こっちは大丈夫です!」
「分かりました!」
たるとが俺たちを見る。
「皆さん!」
「大丈夫ですか?」
ハヤテ。
「余裕だ!」
相手の一人が周囲を見る。
仲間のHPが減っている。
何人かは既に戦意がない。
「…………くそ」
剣を下ろした。
「行くぞ」
「は?」
「今日はもういい」
「逃げんのかよ」
ハヤテ。
「ハヤテ」
俺が見る。
「追わなくていいでしょ」
「…………」
少し考えて。
「まあな」
相手の集団が離れていく。
一人がこっちを睨む。
「覚えてろよ!」
「何を?」
「…………」
答えない。
そのまま行った。
「何だったんだろ」
「そういう台詞でしょう」
シズク。
「なるほど」
知らなかった。
「大丈夫ですか?」
たるとが初心者三人を見る。
「はい!」
剣を持ったプレイヤーが頭を下げる。
「本当にありがとうございます!」
「いえ!」
たるとが笑う。
「無事で良かったです!」
「昨日始めたばっかりで……」
「昨日?」
「はい。友達と三人で始めて」
なるほど。
装備が初期に近いわけだ。
「この辺を探索していたらあいつらに絡まれて……」
「災難だったわね」
リンファ。
「PKって本当にいるんですね……」
初心者の一人が言う。
「掲示板では見たことあったんですけど」
「俺は初めて見たな!」
ハヤテ。
「初心者を狙うのは悪質ですね」
シズク。
「しばらく街の近くでレベルを上げた方がいい」
マルコ。
「人が多い場所ならさっきみたいな連中も手を出しにくいだろう」
「分かりました」
「ありがとうございます」
もう一度頭を下げられる。
「気を付けてくださいね!」
たると。
三人は頷き、街の方向へ戻っていく。
俺たちはそれを少し見送る。
「…………」
「よし!」
ハヤテ。
「今度こそ第二階層だ!!」
「何回目だろう」
俺が言う。
「数えるな!」
「数えてないよ」
「ならいい!」
いいんだ。
「でも」
たると。
「助けられて良かったですね」
「そうだね」
第二階層には少し遅れるけど。
まあ。
今日は土曜日。
明日も休みだし。
「今何時だ?」
ハヤテ。
「えっと」
俺はメニューを開き、時間を確認する。
「一時四十分」
「OK!」
「まだ昼過ぎだ!」
ハヤテが階層転移陣の方向を見る。
「行くぞ!!」
「はい!」
たると。
第二階層に向かって俺たちはまた歩き始める。
──────────
《ファンタズマ・ゲイト》から。
ログアウトが出来なくなるまで。
あと2時間20分。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ついに第二階層へ向かう王虎の牙。
……ですが。
ログアウト不能まで、あと2時間20分。
次回もよろしくお願いします!




