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第46話 しっくりくる場所

次の日。


水曜日。


午後十時過ぎ。


村の広場。


「…………」


誰もいない。


今日は珍しく。


俺しかログインしていなかった。


昨日はみんなで新しいスキルを試して騒いでたのに。


今日は静か。


まあ。


毎日みんながログインするわけじゃない。


俺も仕事があるし。


みんなそれぞれ現実で生活してる。


「…………」


何しよう。


一人で狩りに行くには微妙な時間。


「そろそろ落ちようかな」


メニューを開く。


その時。


ピコン。


「ん?」


《ゴウマがログインしました》


少し待ってみるか。


…………。


来ない。


「…………」


まあ。


ログインしたからってここに来るとは限らないか。


落ちよう。


「ガウ」


「ん?」


振り返るとゴウマがいた。


「こんばんは」


「こんばんは」


「一人か?」


「うん」


ゴウマが広場を見る。


「珍しいな」


「俺も今落ちようと思ってた」


「そうか」


「…………」


「…………」


静か。


ゴウマが隣に座る。


「…………」


俺も座る。


「何してたの?」


「何もしてない」


「そうなんだ」


「ガウは?」


「何もしてないよ」


「…………」


「…………」


何だこれ。


「昨日のスキル」


ゴウマが言った。


「ん?」


「昨日色々と少し試してみた」


「《震脚》?」


「ああ」


「どうだった?」


「面白い」


面白い?


「ゴウマってそういうの好きそう」


「そういうの?」


「身体動かすの」


「まあな」


そういえば。


初めて会った時も木を殴ってた。


「昔から?」


「ああ」


ゴウマが頷く。


「昔から身体を動かすのは好きだった」


「へえ」


「学生の頃にボクシングもやっていた」


この前言ってた。


「じゃあ警察官になったのも、それが理由?」


「まあ、そんなところだ」


「警察官になりたかったの?」


「いや」


違うんだ。


「じゃあなんで?」


「仕事を考えた時に自衛隊か警察官が自分には合っていると思った」


「自衛隊?」


「ああ」


ゴウマが腕を組む。


「身体を動かす仕事の方が向いていると思ったからな」


「それで警察官?」


「ああ。 警察官の方がしっくりきた」


「…………」


「それだけだ」


「それだけ?」


「それだけだ」


本当にそれだけらしい。


「何か人を助けたいとか」


「なかったな」


「悪い奴を捕まえたいとか」


「特には」


「正義のためにとか」


「ない」


即答。


「…………」


警察官って。


もっとこう。


何かあると思ってた。


「仕事は楽しい?」


「仕事だからな」


「…………」


答えになってる?


「嫌いではない」


「じゃあ好き?」


「どうだろうな」


微妙。


「大変?」


「大変な時はある」


「辞めたいと思ったことは?」


「警察学校の時は」


「やっぱり大変なんだね」


「ああ」


「じゃあ、やっぱり合ってるんじゃない?」


「そうかもしれんな」


ゴウマはそう言って少しだけ笑った。


「ガウは?」


「俺?」


「ああ」


「仕事?」


「そうだ」


「普通」


「普通か」


「うん」


「辞めたいとは?」


「今のところないかな」


「なら同じだな」


「そうだね」


…………。


何の話してるんだろう。


でも。


こういうのも悪くない。


「そういえば」


「なんだ?」


「ゴウマって最初ずっと一人だったよね」


「ああ」


「なんで?」


「一人で始めたからだ」


「…………」


「それだけ?」


「それだけだ」


またそれだけ。


「誰かと一緒にやろうとは思わなかったの?」


「特には」


「一人で楽しかった?」


「楽しかったぞ」


即答。


「好きな時に好きな場所へ行けるからな」


「なるほど」


確かに。


俺も昔は一人でゲームすることが多かった。


死にゲーも。


RTAも基本一人。


誰かに合わせる必要がない。


効率だけ考えるなら。


その方が楽。


「じゃあ」


俺はゴウマを見る。


「なんで《王虎の牙》に入ったの?」


「…………」


ゴウマが俺を見る。


「今さらだな」


「気になってさ」


「お前が誘ったんだろ」


「そうだけど」


最初。


ハヤテが誘った時は断った。


でも。


この前、俺が聞いたらゴウマは普通に入った。


「最初は断ったじゃん」


「あの時は入る理由がなかったからな」


「今はあった?」


「…………」


ゴウマが少し考える。


「あったというより」


「うん」


「気付いたら毎回来ていたからな」


「…………」


確かに。


「村に来て」


「ああ」


「集会場で飯食べて」


「ああ」


「マルコと戦って」


「ああ」


「家作って」


「ああ」


「隠しダンジョンにも来て」


「ああ」


「…………」


本当にずっといる。


「もう入っているようなものだっただろ」


「確かに」


「それに」


ゴウマが言う。


「お前たちは変だからな」


「どこが?」


「ギルドを作った理由が建物を建てたいからだった」


「…………」


そうだった。


「普通は攻略や戦闘のために作るものじゃないのか?」


「多分」


「なのに第二階層にも行かず、ずっと村にいる」


「…………」


「買い物したり」


「うん」


「家を作ったり」


「うん」


「裁縫したり」


「それはリンファ」


「スキルで遊んだり」


「昨日だね」


「くだらないことばかりしている」


「…………」


俺は少し笑う。


「楽しいよ」


「ああ」


ゴウマも笑った。


「だから来ている」


「…………」


そっか。


「じゃあ」


「なんだ?」


「警察官と同じ?」


「何がだ」


「しっくりきた?」


「…………」


ゴウマが黙る。


少し考えて。


「ああ」


頷いた。


「まあ、そんなところだ」


「そっか」


それから。


俺たちは話した。


昨日のスキルのこと。


村のこと。


ゲームのこと。


仕事のこと。


本当にどうでもいい話。


気付いたら。


「…………あ」


「どうした?」


午後十一時を回っていた。


「もうこんな時間」


「一時間も話していたのか」


「みたい」


「そろそろ落ちるか」


「そうだね」


俺もメニューを開く。


その時。


ゴウマが俺を見る。


「夜更かしは美容の天敵だぞ」


「美容?」


なんで急に?


「まあ、そうだね」


「明日も朝から仕事なんだろ?」


「うん」


「早く寝ないと身支度する時間が減るぞ」


「身支度?」


俺は首を傾げる。


「十五分くらいで終わるけど……」


「…………」


ゴウマが俺を見る。


「女性ってそんなもんなのか?」


「男なんだけど……」


「…………」


「…………」


「……そうか」

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