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#0019 小さな安らぎ: 浮遊島惑星 その6

約3500文字の盛大な無駄遣い。

なんでこの文字数で話が一切進まないんですか?

居住モジュール備え付けのソファの上で横になり、

今日今まで起こった奇妙な出来事の数々を振り返りつつ

俺は目を閉じ、少しの間眠る。


テーブルを挟んだ向かい側で丸くなるニックスの方も相当に疲れた様子だ。


いや、ニックスの方がはるかに疲れているだろう。

あいつにとっての今日は俺にとっての今日よりもはるかに長い。


ニックスは密猟者に攫われたあと、低温ポッドで凍らされ、

そして俺に回収され、解凍された。


あいつの視点ではこれらの物事はほぼ地続きになっていることになる。


……わかるよ、ニックス。

身体は十分に休まっているはずなのに精神は消耗したまま。

戦闘を終えて揚陸艦に戻ってきて、長距離ジャンプのために低温睡眠に入る。

そして、起きたらすぐに仕事だ。人殺しのな。


本来真っすぐに伸びているはずの時間の糸が、

人工的な長い眠りによって細切れにされ、俺たちの意識は

一度断たれてつなぎ直された未来へと飛ぶ。


強化兵士にはこれが当たり前だから限度はあれ耐えられる。

だが、こういう生活は訓練を受けていなければ相当に過酷なものだ。

ゆっくり休んでくれ、ニックス……。


========


意識が眠りの中へと落ち、現実と思考の境界があいまいになるころ、

この部屋を満たす空気がわずかに動く。


ゆっくりと、そして確実にこちらへ近づいてくるそれはある種の"場"、

または"存在感"とでも言うべきか。


狭間をさまよう意識はそれを察知し現実側へと引き戻され、

静かな部屋の中で起こるかすかな動きはやがて形を得て思考の中で実体となる。


……ニックスか。何をしているんだ?


何か用があるなら普通に声を掛けるだろう。

冷蔵庫を開けて飯を探すならやはり普通に立って歩くだろう。


なら、何か目的があるはずだ。


息を殺し、物音ひとつ立てずこちらへと寄るニックス。


まあ、何の用であれ気付いていないふりをしておいてやろうか。

その方が面白いだろう。


====


Perspective: Nix


はぁ、結構ぐっすり寝てたみたいだ。

でも目を開けて軽く周りを見てみる感じ、

夜まで寝ちまってたってことはなさそうかな。

オーウィンもまだ向こう側で寝てるしむしろ早く起きすぎたのかも?


……せっかくだし、ちょっと試してみようかな。


音を立てないようにゆっくりと体を起こして、

ぶつけないよう尻尾の動きに気を付けながら

一歩一歩足を踏み出して向こう側まで回り込んでみる。


……ここの床、気を付けないと歩くとき爪が当たって音が立つよな……。

慎重に行かないと。


少しずつ……丁寧に。

雪原で獲物を待ち伏せるときよりもずっと鋭い意識で。

オーウィンは強化生物だからほんの少しのことでも絶対気付かれるだろうからさ。


でももう少し。


顔のすぐそばまで首を伸ばして――


「気づいてるぞ、ニックス」


ははは、さすがにダメかぁ。

オーウィンは天井の方を向いたまま、小さな声で知らせてくれた。


もし気付いてなかったらちょっとだけ脅かしてやろうと思ったのにさ。


====


Perspective: Owyn


「気づいてるぞ、ニックス」


忍び寄ってくるニックスを、そんな言葉で刺してやる。

……何がしたかったんだ?


笑顔と共に少し悔しそうな表情を見せるこいつからは、

少なくとも俺の首に牙を突き立てようとしてたみたいなそんな気は感じられない。

だが、考える必要はなさそうだな。


「へへへ、やっぱばれるよなぁ。あ、いやさ、

もしばれてないならちょっと唸ったりして脅かしてやろうとか思ってたんだよな」


と、ニックスが自分の言葉で説明してくれた。


「お、おう。……強化生物の知覚を甘く見てもらっちゃ困るぞ?

ま、確かにそろそろ起きる時間か。起こしてくれてありがとう、ニックス」


ニックスが差し出した右翼の手を掴み、引き起こしてもらいつつ礼を言う。


考えてみれば、今までニックスはどんなものにも興味を示していた。

なら単純に強化生物相手に忍び寄ることはできるか確かめたかったのかもしれない。


「俺たちさ、どれくらい寝てたんだろ」


「ああ、確かにそれは気になるか。お互いかなり疲れていたようだからな」


確かに、時間は見ておいた方がいいか。

個人端末のメイン画面を開き、

ニックスにも見えるようにホロスクリーンを傾けてやる。


そして、簡易行動ログのページを開くと睡眠時間が分かった。


睡眠時間は3時間といったところで、部屋の中からはわからないが

もうそろそろ日が傾き始める頃合いのようだな。


ニックスの方が問題ないなら、夕日に照らされながら浮遊大陸の空を

飛ぶというのもいいかもしれない。そして夜になったときに

陸地の切れ間から下を覗けば活発な火山活動で

赤く染まった真の地表がよく見えるはずだ。


「ふむふむ、もう少ししたら暗くなり始めるころかな?」


「そうだな、外に出てしばらく探索していれば

いい感じの夕日が見れるだろう」


俺が答えると、ニックスは少しの間考え込む。


「うーん、あそういえば飯ってまだだったよな。

せっかくだし外出る前に食べようぜ」


……ああ、そうか。あの時後回しにしたきり食べていなかったな。


「おっと、確かにそうだ。じゃあ、飯にするかね」


「だな」


ニックスはそうと決まるとキッチンまで歩き、冷蔵庫の中を覗く。

俺も後に続いて斜め後ろから中身を確認してみた。


うむ、ストレージにしまっていたものや揚陸艇側の食料を

片っ端から入るだけ詰め込んだわけだが意外と種類が充実しているな。


固形食糧も多いが昔ながらの缶詰や調理されていないそのままの

食材もいくつかあって、俺としてもいつこれだけ

幅広い種類を買い込んだのかさっぱりわからない。


……で、そうやって困惑しているうちに

ニックスは飯を選び終えたようだな。


本物と色が反転しているリンゴもどき……着色リンゴ? ……???

に……ヒーター付きの容器に入った三角形のステーキらしきもの、

それにチーズだけを挟んだバーガー……のようなもの。


多分、行く先々で珍しいからと買って、そのまま時間凍結に掛けたんだろうな。

過去の俺はいったい何を考えていたんだ。まあ、別に害はないからいいが。


「……ずいぶんと奇抜だなニックス」


「いや、なんか面白そうだったからさ」


過去の自分が変人に見えるほど謎な選定のせいでどうしても

言わずにはいられずこぼしてしまったが、

ニックスの返しは何というか当たり前すぎて言い返せない……。


「……正直、何でこんな愉快なものが入っているのかは

俺もよくわからん。まあ、三角形のそれは普通にうまそうだが」


「んじゃ、先食べてるからな」


選んだものを持ってソファの前の

テーブルに戻るニックスを見送ったら、今度は俺の番だ。


改めて中を見てみると、一部の悪目立ちする

奇抜なものはともかくやはり種類は幅広い。

何にしたものかね。


そういえば、雪原の真ん中で休んだ時ニックスは

ポークビーンズを食べていたな。

せっかくなんでそれにするか。


いくつかある缶詰のラベルを見てポークビーンズを探し出し、

ついでにすぐ隣にあったマカロニ&チーズとやらも

一緒に持って行くことにした。


この二つからは似た雰囲気を感じるが、

たぶん同じ場所でまとめて買ったからだろうな。


地域やステーションごとに飯の事情は違うし、

かつての地球のどの地域の文化が残る場所かでもやはり変わる。

辺境星系は決して快適な場所とは言えないし、

中核出身の俺が言うべきではないのかもしれない。

だが、人間らしい暮らしを望むやつらの気持ちも理解はできるよ。


今の時代、失われてしまった過去というのはあまりにも多い。


――さて、ポークビーンズは普通に温めるとしてこっちはどうするんだ?

缶詰はホットプレートに乗せておいて、

マカロニ&チーズの方の作り方を確認してみる。


ふむ、箱に書かれている説明を見る限りは水をかけてから温めるだけ、か。

さすがにこの手の食品だと特に手間のかかることは要求されないというわけだ。




温めている間は暇なんで、少しニックスの方の様子を見てみる。

ニックスはテーブルに三角ステーキが入った箱を置いて

今温めているところのようだな。


リンゴもどきは後に食べるのかそのままにしてあって、

チーズだけのバーガーはちょうどステーキの箱の上に

置いてついでで温めているらしい。


ああ、部屋にいろいろな料理のにおいが漂ってきて少し変な感覚だ。

別にステーションや都市のレストランとかでもないのに

こうなるというのは俺にとっては違和感がある。

……それでも、決して悪くはないことだ。

むしろ昔を思い出すかもしれない。


揚陸艦内の食堂では時々固形食糧じゃない普通の飯も出ていたからな……。

ああ、戦争の最初期だけではあるが。


開戦からほどなくして飯はすべて立方体や

直方体に置き換わったのを覚えている。


おっと、そろそろだな。

ポークビーンズもM&Cもいい感じに温まっているし、

ニックスの方もちょうど三角ステーキが焼けたようだ。

よし、話でもしながら飯にしようかね。

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