『行き交い』
こんばんちは、向日です!
一か月ぶりの投稿です、えぇえぇ……私インフルエンザなどで体調崩しまくっていたので、お許しくださいませ・・;
さて、本日は行き交いです。
人は行き交うモノ、出会いが無ければ人ではありません――とまでは言いませんが、果たして出会い自体にどんな思いを皆さんは抱いているでしょうか?
なんていいながら、今日も良ければ御話の世界に入り込んでいってくださいな!
――あぁ、私は嫌い。
人間が嫌い。
ヒトが嫌い。
悠々と夢を語っては嘯く。
人を騙して上に立つ。
マウントを取らなきゃ生きられない。
人間ピラミッドの頂点に立ちたがる井の中の蛙。
いずれは大海を見なければならない。
それすら庶民の脅迫概念とも知らずに。
今日もヒトは誰かの夢を踏みつぶしていく。
あぁ、哀れ。
心の砕ける音がする。
誰かの笑い、誰かの喜び、誰かの怒り、誰かの理。
その全てが誰かの心を砕いていく。
安寧などない。
社会とはこういうものだと。
大きなものは言うだろう。
私も……言われてきた、言ってきた。
でも、違うとも否定された。
唯一――私を否定し肯定した人は逝ってしまった。
あぁ、だから嫌い。
どうしようもなく――お前達が嫌いだ。
(とある夢での独白)
◇◇◇
〝行き交うのは人の運命。
かつて、私は自らの〝お師匠様〟に教えて頂いた言葉です。
人は何処かへ行き、交わりを得ねば何も獲得出来ぬまま生涯を終える。なんて怖い意味合いを持って、私に説いた言葉です。
そんな魔女さんは人と付き合うことが大嫌いでした。
目の動き、所作、会話、言葉の内容、文章の内容等――様々な人間の振る舞いや行いも嫌いで、無機物を見るが如く冷たく生きてきたのですね。
当時はそれでいいとも思っていました。
私は一生、自身の思いだけ抱いて世界の片隅で静かに暮らそうと思っていた矢先に、先程の言葉です。
言葉の真意に気付いたのは、大きく育ってから。
私は現在、多くの人と交わる仕事を生業にしていますから、運命とは不思議なものですね。
しかし、その逆……つまるところ交わり知らずの人も世には存在し、その需要も在ったりして、自ら進んで独りぼっちも存在しますよね。
果たして、彼らの終着点とは一体?
出会いとは、毒でもありますから。
甘美にて濃密、依存性があって不可欠な存在。
ヒトは――何故出会うのでしょう?
――カランコロンと乾いた音がする。
今日も平常運転な私のお店、そう……私――シャルロットはいつも通り「いらっしゃいませ」と事務的な言葉をカウンター越しからかけます。
続いて「いらっしゃい!」と元気よく笑顔を振り撒くのは、綺麗な金髪を靡かせ、爛々と右手の義手を煌めかせる私の弟子――天才少女のイリスです。
挨拶が終わった所で、本日のお客様を御拝謁……?
「「?」」
私とイリスが顔を見合わせて、小首を傾げます。
何故か、扉が開いた音がしたのにお客様が入ってこないのです。
どこぞの極東で言う〝ぴんぽんだっしゅ〟でしょうか?
「見てきましょうか?」
ニカッと笑い既に小さくステップを踏むイリスに、私は縦に首を二回振ります。ゴーサインの指示を受けて、扉の方へと突撃し、壊しそうな勢いで開けるとその先で、
「ひぃ!?」
絶望に近い悲鳴が外から聞こえてきますが、イリスは容赦なく外へと飛び出していきます。そして、様々な悲鳴が混ざり合い、十分ぐらい断末魔の叫びが響き渡ると、外からお客様の手を引いて帰ってきた彼女が義手でブイサイン、非常に元気でよろしいです。
「お師匠様、彼がさっきの犯人であり、お客様です!」
そう紹介されたお客様は、中々に薄汚れた少年でした。
繋いだ手を放すと、お客様は視線の行き場に困り果てた表情を浮かべます。
見た目は年季の入ったローブを纏い、両目は長く伸びた黒髪で隠れて見えません。身長は私と同じぐらいなのに、ローブの隙間から見える肢体は細く栄養不足が窺えました。
よく言うと旅人、悪く言うと貧困者。
そんな少年がオドオドと周囲を見渡し、あくまで私と視線を合わせようとしません。口も開こうとしないので、会話の主導権を握るしかないみたいです。
「あの……」
「ひぃ、ごめんなさいごめんなさい。
つい出来心で魔女様のお店で御話を聞いてもらおうなんて、
そんな烏滸がましい行為を赦してください。
お願いです、食べないでください!」
あらら、これは御話を聞くまで長引きそうですね。なんて思った矢先、イリスがお客様の前に出て、両手で彼の頬を包みます。
「大丈夫、私のお師匠様は悪い魔女なんかじゃないから食べたりしないよ。
ほら、思いの丈を話してスッキリしなよ?」
真っ直ぐ彼の瞳を見つめてスキンシップが初対面の人に出来るなんて、私には到底出来ないなぁ、なんて思いながら改めて自分の対人スキルの低さに絶望している私を他所に、
「……はい、わかりました」
敬語且つ片言に紡ぎだされた言葉には、若干の力がこもっていました。はい、イリス様様ですね。
顔をあげて、元気を出したお客様に「うん!」と頷いて手を放すイリスはそのままカウンターの傍まで小走り、そして立ち位置を決めると私にウィンクします。
後は任せたということでしょう。
弟子にここまでお膳立てしてもらい、何も出来ないのは師匠の恥。
「それで、本日はどのような御用件でしょうか?」
努めて接客を心掛けましょうか。
◇◇◇
「〝人と出会わない薬〟ですか」
「はい」
本日はアスカとフェンリル君とで、近隣の町にお出掛け中ということもあり、出てくるお茶は私の淹れたものです。はい、内容は混じりっ気のないストレートティーを選んでみました。
慣れない手付きでカップを持ち、お茶を啜る姿は育ちが影響しているようです。というのも、お茶を淹れている間に軽く雑談に興じていた中で、彼から聞いた御話でした。
彼は生まれた直後に両親が殺され、孤児院で育ったらしいです。
ですが、大人の事情で孤児院が潰されて、行き場の無くして乞食になったそうな。その後は各地を転々としながら人を避け、生きてきたと。後、孤児院が潰される手前――院長が賄賂を受け取り、潰されたという点もあって人は信用するに難い、所謂対人恐怖症になってしまった。
大人に振り回されて、やっとの思いで得た場所もエゴによって潰えた。
そりゃ人なんて信用したくもないですし、出会いたくもないですよね。
そんな経歴から出た言葉なのでしょう。
或いは、少しでも人生を変えたいと願ったのでしょう。
私と会話中の彼の視線は、諦念の奥底に深い悲しみと一縷の期待が垣間見えていて、どうにかしたいという気持ちは存在しているようでした。
頷いた時の表情も乞食のそれには、到底思えないのに、
「何故、人と出会わない薬を所望するのですか?」
生き方が――手に負えないのです。
「嫌いだから」
直列で回答へと繋いでしまっているせいか、理由は理由として結びついているのに、まるで反射的な拒絶反応が理由ではなく反応でしかないのです。
いえ、確かに育ちが関係するのでしょう。
人が嫌い、大人が嫌い、ならば出会う機会すら作らなければいい。
それすら反射に置き換えて、行動に転じればいいのですから。なにせ、
「えぇ、それは分かります。しかし別離の果てに貴方は何を求めるのです?」
「求める、何を?」
「えっ?」
理性が追い付いていない。
或いは、欲が彼には無いのかもしれません。
出会いという欲が欠けているせいで、人として備え付けられている全体的な欲が不足している?
初めて出会うパターンの人に私も困惑を隠せません。
なにせ〝欲を欲で殺した結果を理性が欲を受け止めていない〟のです。
言わば無欲と変わりません。
人には七つの大罪が存在し、人間は欲に準じて行動し、出会いや別れの経験を得ていく生き物にも関わらず。
これでは、私より出来の悪い人間じゃないですか。
「僕はただ、人が嫌いだ……それだけじゃダメなの?」
「あの……それは」
「駄目だよ」
返答に迷いに迷った私の隣で、見かねたイリスが口を開きました。
「駄目、貴方には向上心がないの?」
「向上心って何、
色んな人に裏切られてきた僕には独りでに生きるしかないし、
何に向かって向上すればいいかなんて分からない。
求めれば潰えて、追えば消える、
今更努力をしても僕以上の人なんていっぱいいる。
君になんかに分かる訳ないよ」
ティーカップに視線を落としてしまった彼に、イリスが一瞬言葉に詰まりますが、
「そりゃ分からないよ、貴方と出会ったのは初めてだし」
それでも道なき道を進む彼の妨げになります。
「それにね、努力はすることに意味があるの。
費やした時間は経験になる、得た知識は生きる糧になるの、だから――」
「だから、何?」
今度は力なく震え始めるお客様。
あまりにも異様な光景で、言葉すら浮かびません。
「ただ僕は〝人と出会わない薬〟と出会わない薬が欲しいだけだ。
そこに努力は必要ないし、
今のこの瞬間も人と出会っている事実が苦痛なのに、
そんな経験も生きる糧になるの?」
「「――」」
声にならない悲鳴が聞こえてきます。
私のものか、イリスのものか分かりません。
ですが、二人共に感じた確かな事なのでしょう。
救えないと。
彼は純粋なお客様で、それ以上でもそれ以下でもない。
御話というのは過程に過ぎず、必要なモノを得る為の手段でしかない。
ある意味では欲に最も忠実じゃないですか。
忠実が故に、寄り道を知らない。
真っ直ぐ進む銃弾が如く、曲がることを知らない。
なんて、純粋なのでしょう。
「はぁ、もういいや」
溜め息を吐いて椅子から立ち上がった彼の眼には、呆れの色が濃く滲んでいました。
「僕帰るね、じゃあ」
淡々として、振り向きすらなく帰る彼の背中を私達は眺めるしか出来ませんでした。
明らかな拒絶、触れ難い毒を味わった気分です。
――いつかの私を思い出してしまいました。
「帰っちゃった……ごめんなさい、私……」
イリスが私に振り向きながら、申し訳ない顔を浮かべていますが、
「いいのですよ、
これも行き交う――つまりは一期一会なのですから。
出会いとは毒であり、智であり、発見であり、経験です。
彼も私達と出会ったことで何か変わるかもしれません。
イリスも今回の出会いが経験になるでしょう。
私にとっては残念な気持ちがありますけど、
選択したのは彼なのですよ。
私達にこれ以上、手伝ってあげられることはありません。
未来、よい出会いが彼にもありますようにと願うばかりです」
私は頭を撫でて笑顔で返します。
「出会いなんて、そんなものですからね」
「……ねぇ、お師匠様」
「どうしたのですか?」
ふと、イリスの表情が翳ります。
「私と出会って後悔してない?」
「いえ、していませんよ」
「でもさ、今まで弟子を取っていなかったんでしょ。
お父様が無理矢理契約して、
私も無理強いしてここにいるんだよ。だからさ」
「だからどうしたのです?」
つい私はムッと頬を膨らませてしまいました。
「私はイリスを弟子に取りたいから取ったのです。
勿論、アグニアからの依頼という面もありますが、
私が私自身の意思でイリスを選んだのですから、
そんなこと言わないでくださいよ」
「――うん、わかった」
そう、この笑顔に私は惚れたのですから、私達の出会いを後悔しているとは思って欲しくはないのです。
これから、もっとイリスのことを知りたい、師匠と弟子として修行も沢山したい、大きくなった彼女を見てみたい。
行き交うは人の常、出会いも別れも世の常。
悲しい別れもあれば、楽しい出会いも存在します。
私とイリスのように。
今日のお客様と私達のように。
それは甘美な時間になるでしょう。
それは毒になることもあるでしょう。
多くの経験を得て、人は自己を形成していくのです。
出会いは自分の写し鏡になり、いつかの経験は生きていく知識に。
全て無駄にはなりません。
出会う運命に導かれた私達は、順応しなくてはいけないのかもしれませんね。
◇◇◇
――出会いなんて、するものじゃないと思っていた。
千差万別の人間に合わせるなんて、不可能に近い。
理不尽にキレる人、意固地な人、高圧的な人。
あぁ、嫌だ。
これからそんな人と出会い続けると思えば、鬱屈な気持ちになる。
それが社会と言うなら否定したい。
そんな人達に合わせるだけが仕事なら、独りで魔法の研究だけしよう。
ずっとそう思ってきた。
お姉ちゃんとの出会いが最悪だったから。
お父さんの逃避が私の心を苦しめたから。
お母さんが私の為に亡くなったから。
私が生まれてきたから。
――はぁ、もう沢山だって思っていた。
でもそんな時にお師匠様の笑顔を見た。
威風堂々、圧倒的な存在、それでいて輝石のよう。
爛々として、陰り一つない真っ直ぐに。
不安になった私も聞いてみたことがある。
「私を弟子にして後悔していませんか?」
すると、なんて言ったと思いますか?
「した、すっごい後悔している。
子供産んだばっかりで、育児に恐ろしく時間が取られるし。
幼子を弟子に取るとも思っていなかったし」って、言われたのですよ?
辛辣で、小さな頃の私には突き刺さるような言葉でしたけど――でも、
「でもね、良かったと思う。
親友の子供があんな目に遭っていたなんてね、
あんたは……いいえ、シャルロット。貴女は祝福された人間なのだから、
誇りに思いなさい。
この私〝――〟に命を拾われたことを喜び、叫び悶えるがいいわ!」
がははと豪胆に笑うお師匠様。
思い出すといつも笑みが零れる。
そんな師匠に私もなりたい。
羨望の彼方にお師匠様が居るのなら、手を伸ばしていつか掴んで見せようと思う。
そんな出会いを。
如何だったでしょうか?
久しぶりに書いたので散文が目立つかもしれませんが、申し訳ありません!
しかも、今回はお客様が納得しないまま帰るという始末。
珍しい?いえいえ、そんなお客様世の中にはいっぱいいますよ?
なので、これも行き交いです。
そんな経験も皆様の糧になるでしょう!
さて、次回以降の御話です。
一応プロフィールかどこかに表記しようとは思っているのですが、
更新日、変えます!
今後は第2と第4土曜日に小説の更新をしようと思っています。
次は遅れませんよ、えぇ…遅れませんとも!
それでは、次回の御話にお会いしましょう!