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魔法を捨てた男と、物語を夢見る少女

文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。

 ――盗賊たちについていくと、森の奥は思ったより静かだった。

 夜風が木々を揺らし、月明かりが枝の隙間からこぼれている。


「ねえ……ほんとに行くの?」


 少女が僕の袖を軽く引っ張る。


「行く当てもないしね」


「そうだけど……盗賊よ? 普通は逃げるところでしょう?」


「でも、あの人たち優しかったよ」


「優しい盗賊なんて聞いたことないわ!」


 少女は小声で騒ぎながらも、しっかり僕の後ろに隠れて歩いている。


 盗賊のリーダーが振り返った。


「お前さんら、そんなに怖がるなよ。うちは悪いことはしねえ。

 ……まあ、ちょっとはするが」


「ちょっとはするんだ……」


「生活のためだ。森の魔物が増えて仕事がなくなったんだよ」


 少女はぽかんと口を開けた。


「え、盗賊って……仕事なの?」


「仕事じゃねえよ! 仕方なくやってんだ!」


 そんな会話をしながら森を進むと、

 木々の間にぽつんと灯りが見えた。


「着いたぞ。うちだ」


 そこには――

 盗賊の家とは思えないほど普通の家が建っていた。

 煙突からは細い煙が上がり、窓からは暖かい光が漏れている。


 少女は呆然とした。


「……え、普通の家じゃない」


「そうだよ」


「なんでよ! 盗賊のアジトってもっとこう……洞窟とか、廃屋とか、地下とか!」


「物語の話だね」


「そうよ! 普通そうでしょう!」


 盗賊のリーダーは苦笑した。


「普通の盗賊なんて皆こんなもんだろ。やりたくてやってるやつの方が少ねぇよ

 ほら、入れ。少しなら飯くらい出す」


 少女は僕の袖をぎゅっと掴んだまま、家の中を覗き込む。


「……ほんとに入るの?」


「うん」


「貴方、怖くないの?」


「別に」


 少女はため息をついた。


「……ほんと、変わってるわね」


「君ほどじゃないよ」


 少女はむっとした顔で僕を睨んだが、そのまま僕の後ろに隠れて家へ入った。



 ――中に入ると、暖かい空気に包まれた。


 ほのかに香る料理の匂い。戸棚も一応あって皿が綺麗に並べられている。


 よく見ると、家の中には、小さな子供たちが何人もいた。


 少女が目を丸くする。


「……子供?」


 その中で一番大きな女の子が駆け寄ってくる。


「お帰りなさい!」


 大きな女の子が、満面の笑みで駆け寄ってくる。


「おう。ただいま」


 盗賊のリーダーは、さっきまで森で見せていた険しい顔とは違い、優しい笑顔を浮かべた。


「今日は遅かったね」


「ちょっと客を連れてきたんだ」


 そう言って、リーダーが僕たちを見る。


 すると、子供たちの視線が一斉にこちらへ向いた。


「お客さん?」


「お姉ちゃん、誰?」


「この人たち、盗賊なの?」


「おいおい、一気に聞くな!」


 少女は僕の背中に隠れたまま、子供たちを見つめている。


「……本当に、ここが盗賊の家なの?」


「だからそう言ってるだろ」


 リーダーが苦笑する。


 家の中には、子供たちが使っているらしい小さな椅子や木のおもちゃが並んでいた。


 壁際には干した野菜が吊るされ、奥からは鍋を煮込む匂いがする。


 どう見ても、僕が想像していた盗賊のアジトではない。


「座りな。腹減ってるだろ?」


「……いいの?」


 少女が尋ねる。


「ああ。大したもんは出せねえけどな」


 そう言って、リーダーは鍋の蓋を開けた。


 湯気と一緒に、温かな匂いが広がる。


「わあ……!」


 少女の目が輝いた。


「……お腹空いてたんだね」


「ち、違うわよ!」


 慌てて少女が否定する。


 その様子を見て、子供たちが笑った。


「お姉ちゃん、お腹空いてるんだ!」


「空いてないってば!」


 少女は顔を赤くして、僕の袖を掴む。


「……貴方、笑ってないでしょうね?」


「笑ってないよ」


「絶対笑ってる!」


 家の中に、小さな笑い声が広がった。


 森の中で出会ったときには、ただの盗賊だと思っていた。


 けれど――。


 この人たちは、どうやら僕が思っていた盗賊とは少し違うらしい。


「ねぇ? なんでこんな場所に住んでいるの?」


 少女はご飯を食べると急に元気になり、腕を頭に回しながら椅子を揺らしている。


「ここは元々俺の家なんだよ。俺は木こりだった。この二人は元々猟師でな。よく俺たちはこの家で集まってたんだ」


 どうやら元々別の仕事についていたらしい。


「そうなんだ。でもこの子たちは?」


 子供たちはすでに別の部屋で寝ている。


「……魔力を持たない子として捨てられた子たちだ」


「っ! それって”神の寵愛を受けられなかった子”ってこと?」


 少女はその言葉で姿勢を戻した。

 その言葉……僕もよく聞いた言葉だ。


「そうだ」


 盗賊のリーダーは腕を組み目を閉じる。


「……あの街でよく聞いたわ。私が魔法を使えないと知ると、急に手のひらを返して。悪魔の子とまで言われたわ」


 少女は拳を握ったまま、膝の上でぎゅっと力を込めた。

 さっきまで子供たちと笑っていた顔とは違う。

 少しだけ、震えている。


「悪魔の子って……そんなこと言う人がいるのか」


 僕がそう言うと、少女はゆっくり顔を上げた。


「いるわよ。魔法が使えないってだけで、価値がないって言われる世界なんだから」


 盗賊のリーダーがため息をつく。


「……あの街は特にひどい。魔力がない子は“神に選ばれなかった”って理由で捨てられる。

 あの子たちもそうだ」


 少女は子供たちが寝ている部屋の方を見た。

 その目は、さっきまでの騒がしい光とは違う。


「……私は殺されかけたわ」


 盗賊のリーダーが眉をひそめる。


「そうか……」


 少女は小さく頷いた。


「魔法が使えないって分かった瞬間、周りの態度が変わったの。

 それまで優しかった人たちが、急に距離を置いて……

 最後は“悪魔の子”って言われた」


 僕は少女の横顔を見る。

 その表情は、いつもの騒がしさとは違う静けさを帯びていた。


「……だから、物語が好きなのか」


 少女は少しだけ驚いた顔をした。


「え?」


「物語なら、魔法が使えなくても仲間ができる。

 誰かが助けてくれる。

 君が言ってた“定番”って、そういう話だろう?」


 少女は目を伏せた。


「……そうよ。

 物語なら、魔法が使えなくても……最後には必ず皆幸せになれるんだから」


「そうなんだ。それは……いい物語だね」


「魔法を捨てた貴方がおかしいのよ」


 すると、盗賊のリーダーは驚いた顔をした。


「お前さん魔法を捨てたのか!? なんで……いやそんなこと出来るのか?」


「うん。できるよ。今までやろうとする人が居なかっただけ」


「そりゃ、そうだろう! 魔法を自分から使えなくする奴なんていねえ!」


 少女は僕を見た。

 その顔は本当に疑問が顔いっぱいにあふれている


「……貴方、本当に魔法を捨てたの?」


「うん。要らなかったから」


 少女はしばらく黙っていた。

 やがて、小さく息を吐く。


「……変わってるわね」


「君ほどじゃないよ」


 少女はむっとした顔をしたが、

 その表情はどこか安心しているようにも見えた。


「変わってるやつだと思っていたけどよ……いや、お嬢ちゃんも変わってるがお前さんは特に変わっているな」


「そうかもね。父上や周りにも言われたよ」


 変わってるというか。

 気が狂っている、とかそんな感じだったような。


 ま、もう二度と会わないからどうでもいいかな。


「まあ……詳しいことは聞かねえよ。ところでお前さんたち名前は?」


「私は菊池 美琴よ。そういえば貴方名前なんて言うの?」


「は? お嬢ちゃん知らないで一緒にいたのかよ!」


 盗賊は驚いている。

 僕はどちらかと言うと――。


「え、君、家名があるの?」


「あるわよ! またテンプレな……。こほん! うちの国では皆家名があるのよ」


 少女――美琴は随分と変わった国から来たみたいだ。


「そうなんだ」


 僕は少し面白そうな国だなと思った。


「それで?」


「?」


 美琴は僕に問いかける。


「名前! 貴方はまだ名前を言っていないでしょう!」


 ああ。そう言えば。


「レオン……レオンだ」


 危うく家名も名乗るところだった。

 僕は家を追い出されたので家名を名乗れない。


「あら、結構かっこいい名前……」


「レオン……か。まぁ、貴族の名前にしては普通だな」


 盗賊のリーダーも何か納得してる。


「俺はガルド。背の低い方がバン。大きいのがゴルだ」


「よろしくっす!」


「……よろしく……」


 三人の盗賊――ガルド、バン、ゴル。


 僕たちは互いに顔を見合わせた。


「ところで、お前さんたちはこれからどうするんだ?」


「どうする?」


「行く当てがあるのかって聞いてんだよ」


「ないよ」


「ないの?」


 美琴が驚いたように僕を見る。


「うん。王都を出ただけだから」


「……貴方、本当に何も考えずに出てきたのね」


「そうだけど?」


「そうだけどじゃないわよ!」


 美琴が頭を抱える。

 

 そんなに驚くことなのだろうか。


「じゃあ、お嬢ちゃんは?」


「私?」


 美琴は少し考える。


「……ないわね」


「お前さんら、二人揃って行く当てがないのかよ」


「そうみたいだね」


「なんでそんな他人事なんだ……」


 ガルドが呆れたように頭を掻いた。


「なら、明日の朝までここにいろ。夜の森を歩くのは危険だ」


「いいの?」


「ああ。子供たちも喜んでるしな」


 そう言われて部屋の奥を見る。

 いつの間にか、子供たちがこちらを覗いていた。


「お兄ちゃん、泊まるの?」


「お姉ちゃんも?」


「……泊まっていいの?」


 美琴が僕を見る。


「僕はいいよ」


「じゃあ私も!」


 即答だった。


「……お前さんたち、決めるの早いな」


 ガルドが苦笑する。


「じゃあ、今日はもう寝ろ。朝になったら町までの道を教えてやる」


「町?」


「この森を抜けた先に小さな町がある。歩いて半日くらいだ」


「そこに行けば何かある?」


「宿もあるし、仕事も探せる。旅をするなら、まずはそこだろうな」


「なるほど」


 僕は頷いた。


 王都を出てから、初めて目的地ができた。


「じゃあ、明日はそこに行ってみようかな」


「私も行く!」


「……うん」


「なんで今の間があるのよ!」


 美琴が頬を膨らませる。


「別に」


「絶対『ついてくるのかよ』って思ったでしょう!」


「思ってないよ」


「顔に出てたわよ!」


 ガルドたちが笑う。


 なんだか妙な夜だった。王都を追い出されて、行く場所もなく歩いていた。

 そして、道端で倒れていた少女と出会い、盗賊に襲われ、その盗賊の家に泊めてもらうことになった。

 今日一日だけで、今までの人生では考えられないことばかり起きている。


「……旅って、こういうものなのかな」


「何か言った?」


「なんでもないよ」


 僕は窓の外を見る。木々の隙間から、月が見えていた。


 魔法を捨てた。

 王都も捨てた。

 そして今、行く場所も決まっていない。


 それでも――。


「明日、どんなところなんだろうね」


「え?」


「その町」


 美琴は少し驚いたように僕を見る。


 そして、にっと笑った。


「楽しみね」


「うん」


 こうして僕たちは、初めての旅先を決めた。


 ――翌朝。


 僕たちは盗賊たちの家を出ることになる。

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