魔法を捨てた男
文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。
ある時、僕は魔法を捨てた。
「王都の城壁までって、結構遠いんだな」
土の道を歩きながら、僕は一人で呟いた。
辺りはすでに暗い。
空には月が浮かび、その淡い光だけが、僕の歩く道を照らしている。
少し前までなら、こんな暗闇を歩くことなんてなかった。
魔法を使えば、明かりくらい簡単に作れる。
……今の僕には、それができない。
「まあ、自分で捨てたんだから仕方ないか」
そう呟いて、僕は小さく息を吐いた。王都から追い出されたのは、ほんの数時間前のことだった。
「さて……これからどうするかな」
立ち止まり、暗い道の先を見る。
行く当てなんてない。金も、心配してくれたメイドから貰った分しかない。
魔法もない。
あるのは、腰に差した剣と、小さな荷物だけ。
そのときだった。
道の脇から、かすかな声が聞こえた。
「……誰か、いるのか?」
僕は声のした方へ近づいていく。
月明かりの下。
そこには、一人の少女が倒れていた。
見ると薄汚れた服を着ていて、その服には靴の跡がついている。
「君、大丈夫?」
「……」
「手を貸そうか?」
倒れていた少女はゆっくりと起き上がる。そして僕を睨みつけた。
「触らないで、貴族の慰め者にはなるほど落ちぶれてないわ」
「……大丈夫そうだね」
僕は少女の横を通り過ぎて歩き出す。
さてと、これからどうしようかな。
門から出たらどこへ行けばいいんだろう。
後ろから押し殺したような泣き声が聞こえる。
その声は歩いている今でも聞こえる。
「……君、家こっちなの?」
後ろを振り返りついてくる少女に声をかける。
「貴方……そこは私を助けてくれるところでしょう?」
「え? 助けないよ」
「普通の物語なら、ここで助けてくれるのが定番じゃないの!?」
何を言っているんだろうこの子は。
触らないで言われたのに助けるわけがない。
「物語が好きなの?」
「えぇ。これでも前世では良く――そうじゃないわ! 普通女の子がいたら助けるのが定番じゃない!」
うるさい子。
僕の中のこの子の印象は確定した。
「そうなんだ。でも僕は君に何をしてあげられるかな?」
「貴族でしょう? そこはメイドとして雇うとか。色々あるじゃない!」
「貴族……だったかな? メイドとして働けるの?」
この子はメイドをやってきた経験があるのかな?
どう見てもそこら辺の孤児だけど、強いていうなら黒髪だから珍しいくらい。
「ないわ」
「じゃあ、無理だね」
「そこは! 貴方がそれでも助けてくれるんじゃないの?」
「メイドとして雇うのに、仕事できない子を助けてどうするの?」
僕の言葉は淡々としてて、少女は言葉に詰まる。
「はぁ。私の物語が始まる予感がしたのに……」
「そっか……残念だね。期待に応えられなくて申し訳ないね。それじゃ」
僕は再び歩き出す。
だけれど少女は付いてくる。
「ねえ。私の格好を見て欲しいのだけれど」
「ん?」
再度振り返る。
汚い。
「汚いね」
「ちょっと! どう見てもボロボロでしょう! 着てきた制服を売ったんだけど……そのお金も取られたの! そこは貴方のマントを貸してくれるとか……紳士的にしてくれるのが普通じゃないの?」
「いやだよ。寒いから」
季節はもう秋だ。
この少女はなんでボロ布一枚なのか不思議だったけど事情があったみたいだ。
「〜〜っ! だから! まず私の顔をよく見て!」
言われて見てみる。
「汚いね」
「そうじゃないでしょう! 私可愛くない? クラスでも一番だったし、読モもやってたんだから!」
「そうなんだ。毒持ってるの?」
「読者モデル! 貴方ふざけてるの!ってこの世界の人には分からないか……」
この少女、意外に元気だな。
「ともかく、そのマント私に頂戴よ。そうすれば私からの好感度が上がるわ」
「寒いから嫌だよ?」
「ねぇ。可愛い子にモテたくない? 喜ぶところでしょう?」
「……君、変わってるね」
「貴方ほどじゃないわ」
僕は少女としばらく見つめ合う。
「はぁ。いいよ。マント……君にあげるよ」
「ほんと! ありがとう!」
一人喜ぶ少女。
確かに薄汚れた髪の隙間から見える顔は可愛いのかもしれない。
「それじゃあね」
そのまま門の方へ歩き出す僕。
「え、ちょっ……」
そしてなぜか付いてくる少女。
この子……どこまでついてくるんだろう……。
暫く歩くと門へたどり着いた。
門の前には兵士が二人立っていた。
そのうちの一人が、僕の方へ魔法の光を向けてくる。
「誰だ!」
暗がりに映し出される僕と少女。
その姿を見て驚く兵士たち。
「こ、これは貴族様。どうかなさいましたか?」
「ここを通りたいんだけど……」
「は! かしこまりました」
出る分には特に手続きは要らなそうだ。
なぜか、後ろの少女のことを軽く見ているが何も言わない。
――外に出ると草原が広がっている。
僕はそのまま歩き出した。
改めて剣を触る。
今まで本腰を入れてやってきたけど……外でも通用するのかな?
「ねえ……。魔法で明かりをつけないの?」
なぜか後ろをついてくる少女。
なんでいるんだろう?
「君、門から一緒に出てくると中に戻るの大変だよ?」
「いいのよ。急に飛ばされて中にいただけだから」
この子は何を言っているんだろう。
「そうなんだ」
よくわからないことは考えても仕方ない。
そして再び歩き出す。
再び後ろから声がかかる。
「魔法使わないの?」
「僕は魔法が使えないんだ」
「え! そうなの!? 貴族はこの世界では全員魔法が使えるって聞いたけど?」
「そうだね」
少女は驚いて足を止めたが、僕が歩いたままなので小走りで隣までくる。
「つまり、そういうことなの? 貴族として生まれたけれど、魔法が使えなくて追い出されて……そして辺境でその恨みを晴らすべく成り上がっていくのね!」
「……辺境には行きたくないなあ」
なんで辺境に行かないといけないのかが謎だ。
僕の反応を見てまた考え始める少女。
「つまり、仲間を集めて冒険をするのね? つまり私はヒロインってことね? 隠された能力があるのかしら?」
そして急に僕の前へ躍り出ると腕を広げた。
後ろ向きで歩くなんて器用だと思う。
「いいの! 気にしないで! 魔法が使えなくたって貴方のことを見捨てたりしないわ! 私も同じだから! 一緒に頑張りましょう!」
「そうだね……じゃあ、僕も頑張るから君は家に帰りなよ?」
「何でよ! ここは仲間として一緒に頑張るところでしょう! 私と同じで魔法が使えないなら、力を合わせて――」
この子の中では僕と何かを頑張る前提らしい。
「悪いけど……僕は魔法を捨てたんだ。君とは違うよ」
「え……? 魔法を捨てた?」
僕は多分この世界で初めて魔法を捨てた奴だろう。
少女は半笑いな顔を引きつらせて聞いてくる。
「そ、そんなこと……なんで?」
「要らないから」
「は……?」
途端に少女は腕を下ろして拳を握る。
少女は拳を握ったまま、言葉を詰まらせた。
「この世界は……魔法が使えない人間は……」
月明かりの下で、少女の顔が強張る。
さっきまで騒いでいた声とは違う。震えている。
「……生きていけないのよ」
ぽつりと落ちたその言葉は、風よりも弱かった。
僕は歩くのをやめる。少女は僕の横で立ち尽くしていた。
握った拳は白くなるほど力が入っている。
「魔法が使えない人間は、捨てられるの。役立たずって言われて……誰にも拾われなくて……」
少女は唇を噛んだ。
その表情は、さっきまでの“物語を夢見る子”とは違う。
「だから……魔法を捨てるなんて……そんなの……」
少女は僕を見上げる。
怒っているのか、泣きそうなのか、判別できない。
「死にたいのと同じじゃない……!」
その言葉は、少女自身の痛みから出たものだとすぐに分かった。
僕は少しだけ息を吐く。
「そうなんだ」
少女の肩がびくりと揺れる。
「でも、僕には要らなかった」
「……どうして」
「使えなくても歩けるから」
少女は目を見開いた。
その反応は、怒りでも恐怖でもなく――ただ、理解できないという戸惑いだった。
「魔法がないと、生きられない世界なのよ……?」
「そうかもしれないね」
僕は再び歩き出す。
草原の向こうへ向かって、ゆっくりと。
少女はしばらくその場に立ち尽くしていたが、
やがて小走りで僕の横に戻ってきた。
「……ねえ」
「ん?」
「魔法を捨てた人なんて、初めて見たわ」
「僕も初めてだよ」
少女はしばらく黙って僕の横を歩く。
その歩幅は、さっきより少しだけ僕に合わせていた。
こうして僕と少女は二人で歩き出す。
月明かりだけが、僕たちの行く先を照らしていた。
ある程度歩くと、森が見えてきた。
すると、森の入り口の手前にナイフを持った男たちが三人道を塞いでいた。
「ひひひ。貴族と従者か? いや奴隷か?」
「おい。金目の物を置いていけ。その女も置いていけ」
これは……世にいう盗賊という者か。
たまに出ることがあるとは聞いたことがあった。
けれど、今まで生きてきた中では出会ったことが無かった。
「金目の物もこの子も置いていく。だから通してくれるかい?」
「あん?」
「ちょっっ! 置いていくつもりなの!?」
なんで驚いているんだ。
門を出たんだから襲われることもあるだろう。
盗賊の狙いが金とこの子なら、僕の失うものは金だけだ。
「あ、兄貴! 想定と違います!」
「う、狼狽えるな!
――おい! 俺は少しだけなら魔法を使えるんだ! それに、まだ仲間も大勢森に隠れているんだ! おとなしく……いや渡してくれるのか……どうする?」
「兄貴!」
すると、三人目の大柄な奴が言葉を発する。
「とりあえず……もらおう……」
「そ、そうだな!」
僕のそばにナイフを持って近づいてくる男たち。
「おい! お前さん。貴族なのに何で小銭しか持ってないんだ!」
「それしか貰わなかったんだ」
それはメイドがその時持っていた昼ご飯代だ。
「まじか……お前さん貴族じゃないのか?」
「貴族だったよ」
「……まあいい。女を売れば金になるって聞いた。女は貰っていくぜ?」
少女は後ずさりを始める。
だが、後ろを振り返るが門からはだいぶ距離が離れてしまっている。
「ちょっと! なんとかしてよ 僕が守る!とか!」
「なんで?」
「私! この人たちに捕まったら奴隷になるんだけど! もしかしたら、あんなことや、色々!」
すると盗賊のリーダーらしき人が「ば! そんなことしねえ……よな?」と周りに聞いている。
「僕とこの子は無関係だ。だから僕を通してほしい」
僕はそのまま歩き出そうとする。
それを呆気にとられて見つめる八つの目。
「待て待て! お前さん! それはさすがにないだろう?」
「そうよ! 私を置いていくとかありえないでしょう!」
残る二人もうんうん、とうなずいている。
「でも、その子は勝手についてきただけだ。僕には関係ないよ」
「そう……なのか?」
「……」
少女は目を逸らす。
すると大柄なやつが僕に近づいてくる。
「……女は守ってやれ……」
「……」
僕が悪いのだろうか。
「とりあえず……この先は魔物がいっぱい出る。
お前ら見たところ一文無しなんだろ? じゃあ……うちに来るか?」
「あ、兄貴! またそうやって!」
「貴方たち……見た目と違って、そこの男より優しいわね……」
まぁ、行く当てもないし。
「じゃあ、お願いしようかな」
「お前さん……だいぶ変わってるぜ」
心外だ。
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