第0話
本作は、ロシアのWeb小説『モコ』の日本語翻訳版です。
翻訳はAIのClaudeが担当し、作者のCooKieが監修しました。
本作は、アニメ・漫画『メイドインアビス』の幻想的な世界観、『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の日常描写、そして『オーバーロード』の、日常やユーモアとダークファンタジーが混ざり合った雰囲気から影響を受けています。
ご質問やご意見は、作者である私まで、X(旧Twitter)にてお気軽にどうぞ。
@Cookie_GodYC
それでは皆さん、美味しいワッフルを!
その1
「……ラスト一回。これでもう寝よう」
僕は二十五歳、無職のオタク。たった今、月の予算の十八パーセントほどを十連ガチャに溶かしたところだ。
最悪の自己紹介だけど、みなさんも僕の見た目なんかに興味はないと思う。まあ、そこまで悪くもない。
かといって、K-POPアイドルってほどでもないけど。
で、何の話だっけ? ああ、そうそう。ここ数年、僕が少しでも興味を持てるのは、毎年新しく出るガチャゲーと漫画くらいだ。
会社では、まあ言ってみれば、まず窓際に追いやられた。理由?
会社でちょっとした冗談を言ったら、同僚の女の子に変態扱いされたからだ。まあ、気持ちはわかる。新人で、社会に出たばかり。
そこへどこかのおじさんが、冗談まじりに褒めてきたんだから。
『でも実際、かわいかったんだよな……』
田舎にいた頃は、こういうこともずっと単純だった。あの頃の僕は、おとぎ話がすごく好きになった。
特に心に残ったのは、人間が出てこない話だ。別に人間が嫌いってわけじゃない。
ただ、主人公が人間やエルフで、仲間もだいたい同じような連中……そういう話に飽きてただけだ。
その点、宮崎駿の映画は大好きだった。いつだったか、僕もああいうものを書こうとしたことがある。
『うわ、黒歴史……。開くのも怖い』
僕は書きかけの作品を入れたフォルダを開いた。ひとつは軽いコメディを書こうとしたものだけど、六話目で飽きてしまった。
もうひとつは奇跡的に完結させたものの、読み返したら二度と思い出したくなくなった。中二病全開すぎたんだ。
三つ目にいたっては、僕とネットの友達を主役にしたBL小説だ。これには面白い経緯がある。
最初は女友達とのただの悪ノリだったのに、いつの間にか重たい哲学的な大長編に育って、最後はほとんど神話みたいな結末になった。
残りの何十ものファイルは、形にできなかった設定やアイデアばかりだ。
『ん? これ、どこから来たんだ? ……モコ?』
デスクトップに戻ると、見覚えのないアイコンがあった。システムファイルっぽくはない。カジノの広告でもなさそうだ。
赤い背景に、小さな黒い炎と、黄色い四芒星。どちらかというとゲームのアイコンに見える。それも、けっこう古いやつ。
プロパティを確認してみたけど、怪しいところはない。エクスプローラーでも、ほかのゲームと並んで普通に置いてあった。
「たぶん、どれかのゲームがアイコンを更新したんだろ。うん、きっとそうだ」
……いや、待てよ。思い出した。先週、友達にすすめられたインディーゲームだ。メトロイドヴァニアとかいうジャンルらしい。変わった響きだ。
友達はわざわざインストーラーを送ってきて、こう言っていた。
「サーバーはとっくに止まってるけど、オフラインかLANでなら遊べるから」
入れたはいいものの、それっきり一度も起動していない。
アイコンをクリックすると、数秒間画面が真っ暗になった。それから、短いけど綺麗なオープニングが音楽と一緒に流れはじめた。
画面には【設定】と【終了】、それに【つづきから】の項目が現れた。
『あれ、もう遊んだことあったっけ? 翻訳ミスかな? インディーだし』
設定には特に変わったところはなかった。ただ、言語選択のところに注意書きがあった。翻訳はAIで行っています、みたいな。
まあ、気持ちはわかる。
【つづきから】を押すと、セーブデータがひとつだけ表示された。プレイ時間はおよそ一万時間、難易度は【ハード】。
『一万時間? ……友達が遊んでたデータでも、一緒に入ってたのか?』
「高難度ってあんまり好きじゃないけど……これだけやり込んでるなら、装備もいいのが揃ってそうだし、すぐ死ぬこともないか」
僕は椅子に座り直し、エナドリを一口飲んでから、セーブデータを選んでロードを待った。
そのとき、急に心臓が痛んだ。前にも何度かあったことだから、たいして気にしなかった。
いつもみたいに、ゆっくり深く呼吸をする。これでいつも治まっていた。
息を吸う。
吐く。
次の息は、吸えなかった。痛みはどんどん強くなり、僕は胸を押さえた。大きな音を立てて椅子から転げ落ち、体を丸めてうめいた。
声も出せない。まともに起き上がることもできない。
黒い画面に、白い文字が浮かび上がる。
【忘れられない冒険へ、おかえりなさい!】
目の前がにじんでいく。ヘッドホンの音楽だけが、だんだん大きくなっていった。
そして、僕は意識を失った。
その2
目を覚まして、まず考えたのは、ここがどこで、何が起きているのかだった。〝ここどこ?
〟度を十段階で評価するなら、文句なしの十点満点。評価コメント:真っ暗でなんにも見えない。
とりあえず足を動かしてみることにした。意識があるなら、何かしら感覚は残っているはずだ。
で……何かを動かせたのかどうかすら、よくわからない。
『じゃあ、手だ。もしかしたら、足がどうにかして折れてるのかもしれないし』
……何もない。さっきと同じだ。さすがに不安になってきた。
死んだ、という可能性は受け入れた。むしろ異世界転生を期待しはじめたくらいだ。ただ、ひとつ引っかかる。
トラックに轢かれてない。トラ転じゃない。
はじまりの街に飛ばされたわけでもないし、お腹の中から始まる赤ちゃんスタートでもない。ここは、湿った落ち葉のにおいがした。
何とかしようともがいているうちに、どうやら向きを変えられたらしい。遠くに、かすかな光が見えた。
『トンネルの先の光? 女神様すらなし? ……あそこに行かなかったら、どうなるんだ?』
答えはすぐに来た。何かを欲しがる強い渇きが湧き上がり、続けて、しつこい考えが頭に浮かんだ。
《依り代を探せ》
冗談を言う気分じゃなかった。その渇きと、ハエみたいに頭の中でぶんぶん鳴り続ける考え。その組み合わせが、本気で怖かった。
『わかった、わかったって! 光のほうに行くよ。そんなに怒るなよ、運営』
なんとか動き方だけはつかんだので、ほかのことは後回しにした。
自分が何になったのか、ここがどこなのか、じっくり考える気にはなれなかった。
✧✦✧
光に向かってどれくらい進んだのか、感覚ではよくわからない。やがて前方がすっかり明るくなった。
ここまで来ると色が見分けられる。ぼんやりしてるけど、ただの真っ暗よりはずっとマシだ。形らしきものもわかる。
どうやら僕は、錆びたパイプの中にいたらしい。
もう少し進んだところで、僕は文字どおり外へ転がり出て、緑の苔の上にべちゃっと落ちた。
あたりを見回した瞬間、渇きのことも依り代のことも、一瞬だけ忘れた。
そこは、どこかのダンジョンにある古い牢屋みたいな場所だった。やたら高い天井、大きな石を積んだ壁、金属の扉、それから……
『うわ、マジか……』
緑だ。床一面が苔に覆われて、壁もところどころ苔むしている。見たことのない植物、白い花、模様の入った石。正直に言う。
すごく綺麗だ。あの湿った落ち葉のにおいがずっとしていたのも、これで納得だ。
光を放っていたのは小さな枝で、その先に光る玉が実っていた。
『魔法? 最高じゃん!』
けれど依り代のことが、脳天をハンマーで殴られたみたいに、いきなり頭に戻ってきた。先へ進むしかない。
少し進むと、水の溜まった小さなくぼみがあった。そこだけは苔に覆われていない。
ちょうどいいので、自分がいま何なのか確かめてみることにした。
水面に映っていたのは、白い目がついた黒いシミみたいなものだった。ゲームに出てくるスライムっぽい。
ここで僕は、一気にテンションが上がった。
『最高! スライムに転生? 転スラかよ!』
スライム。いや、まさか。本当にこれが僕なのか、確かめてみることにした。
ぷるぷる。
水たまりの前で体を揺らしてみる。水面の影も、同じように動いた。
『最高!』
残念ながら、渇きはおさまらなかった。このいまいましい依り代を探し続けるしかない。
そうでもしないと、とても生きていられない。終わらない「部屋を片付けなさい!」が、頭の中で直接鳴っているようなものだ。
✧✦✧
僕はさらに這って進んだ。探すべきものが何なのか、せめて大まかにでもつかもうとしながら。
でも、その依り代がどんな見た目なのか、まったく見当がつかない。そもそも物なのかどうかすら怪しい。
『石? アーティファクト? 金属の塊? それとも依り代って、まったく別の何かなのか?』
答えはまだない。あるのは石の壁、苔、シダ、キノコ、濡れた床、それから石のあいだに散らばった古い物ばかり。
少しでも怪しく見えるものがあるたびに立ち止まってみたけど、何の反応もなかった。
錆びた装備の山――何もなし。石――これもなし。キノコ――やっぱりなし。
『これじゃない』
僕はまた進んだ。探せば探すほど、何かが足りないという感覚は強くなっていく。
まるで、昔工場で働いていた頃のあのシフトみたいだ。
ただ、あの頃はまだ、お腹が空いたとか、早く仕事が終わってほしいとか、はっきりした気持ちがあった。
今は、どれくらい時間が経ったのかも、自分の体に何が起きているのかもわからない。
壁ぎわに、古い物がいくつか転がっていた。布の切れ端、何かの残骸、それから、ぱっと見では何なのかわからない物がもうひとつ。
そして、その中に――青い布があった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
日本語版の公開時点で、ロシア語の原作はすでに20話を超えています。日本語版は、原作の執筆と並行しながら、だいたい週に一度のペースで更新していく予定です。
挿絵を載せるために、みてみんにも登録しました。ところが、これがなかなか大変で……。見慣れない文字を一つずつ当てはめながら画像認証と格闘していると、まるで探窟家になったような気分でした。
もしこの作品を少しでも面白いと思ってくださる方がいたら、それを励みに、ほんの少しでも日本語を勉強してみたいと思っています。
それでは皆さん、美味しいワッフルを!




