亜麻色の彼女
あっはっは! あっはっはっはっはっは! あっはっはっはっはっはっはっは!
あーおっかしい! こんなに笑ったのっていつぶりだろ? ほんっとにおっかしい! もう、あんまり笑わせないで、智ちゃん。
ごめんね、そんなむっとした顔しないでよ。ちょっと笑いすぎたわ。
だってさ、ベタ過ぎるじゃない。クリスマス・イブにプロポーズされるなんてさ。しかも、マスターに怒られるかもだけど、こんな薄暗いバーで、指輪を渡してプロポーズなんて、あーおっかしい。笑いすぎて涙が出てきたわ。
マスター、ティッシュもらえますか? あ、すみません、ありがとうございます。
なして、ここなの? あ、そっか、私と智ちゃんが知り合った場所だもんね。確かに、去年の今くらいだっけ、それくらいに智ちゃんが初めてお店に来たもんね。そう言われれば、思い出の場所よね。
でもさ、今日は金曜日じゃないよね?
マスターだって、びっくりしてたじゃない。私ら、いつも金曜日にしか来ないのに、今日に限って、今日は何曜日? 火曜日? 火曜に来てさ、あれ?って顔してたじゃない。それくらい、なんて言うのかなあ、あんまりにもベタって言うか、智ちゃんらしいと言うか、笑えちゃって。ごめんね。
それに、も他のお客さんがいたらどうしてたの? 何にも考えてなかったんでしょ? あっはっはっはっはっは!
ごめんって、そんな怒った顔しないでよ。でもさ、もしお客さんいたら、ここじゃない場所でプロポーズするつもりだったの? それは考えてなかった? いないことを祈ってたのね? もう、だから言ったじゃない、あっはっは!
智ちゃん。ありがとう。私、とっても嬉しいよ。本当に、とってもとっても嬉しい。
もし、あなたとここで知り合えてなかったら、来月からの復職もなかったかもね。元気に笑えるなんてこともなかったと思う。
そんなことない? いやいや、そんなことあるんだよなーこれが。あはは。だって、智ちゃんがいないと、私はもう生きていけない気がするもん。依存ってやつなのかなあ。本当は、こういうの良くないんだろうけど、私はあなたに依存してると思う。
え? 智ちゃんも? 私がいないと生きていけないって?
あっはっはっはっは! あっはっはっはっはっはっはっはっは!
もー智ちゃん、あんまり笑わせないでってば! カッコよく決めてよ。こういう時くらいさ。そんな、生きてけないとか情けないことを言わずに、君のために生きるよとか、そういう言葉をチョイスするとか、ないわけ?
ふふふ。本当に、智ちゃんは智ちゃんだね。なんか、安心した。変にカッコつけないところとかさ。私、あなたのそういうところ、好きなんだ。なんかとってもホッとするの。
いつかきっと、あなたにプロポーズをされるんだろうなって思ってたけど、まさか今日とは思わなかったし、こんなにベタだとも思ってなかったけど、これが智ちゃんの良いところだよね。いい意味で裏切らないというか、今日しかないって覚悟を決めて、デートしてくれたんだよね。
智ちゃん。あなたは真面目で優しくて、私なんかには勿体ないくらい、とても好い人だと思う。私って、あなたがどう思ってるか知らないけど、すんごくだらしないし、女らしさとか、ほとんどないよ?
それでも良いの? ファッションとか興味ないし、お料理も下手っぴだし、お掃除も下手っぴだし、趣味はパソコンで小説を書くことで、好きな漫画はドラゴンボール。あとはペンギンとお酒が大好きで、飲むことばっかり頭にある、そんな女よ?
確かに、来月から復職できることにはなったけど、うつ病だってまだ完治してないし、あなたに迷惑を掛けちゃうことがいっぱいあると思う。
いっぱい、いっぱい! それこそ、もう嫌だ!ってうんざりするくらい、私ってだらしなくて、うつ病抱えてて、女らしさがない、そんな人間よ?
それでも良いの? 後悔しない? 一生の選択になるんだよ?
そう……。それでも、私を愛してくれるんだ。
ありがとう、智ちゃん。私、生まれてきてさ、こんなに嬉しい日ってなかったかもしれない。
あなたの誕生日にも、プロポーズみたいなことを言われたよね。六月一日の夜にさ、私の家で。あの時は私が泣いちゃって、智ちゃんもテンパってたんだろうけど、私は「本当のプロポーズを待ってるね」みたいな返事をしたと思う。
あんまり覚えてない? まあ仕方ないわ。だって智ちゃんすっごく慌ててたし、私もなんか、それどころじゃなかったから。今思うと、なんかすごくバタバタしてたよね。
うん。本当のプロポーズ、されちゃったね。えへへ。なんか実感湧かないけど、照れ臭いね。プロポーズされるってこんな感じなのかな。
この指輪、綺麗ね。どうやって私の指のサイズを測ったの?
手を繋いだ時の感覚? へえ、すごいわね。だって、私はそんなの考えたことなかったし、智ちゃんの手の感覚は分かるけど、指の太さまでは分かんないな。
入るかどうか、不安って顔してるわね。ふふふ。私は意地悪だから、もうちょっと焦らそうかな。
そんな「なんだよお」みたいな顔しないでよ。
あのね、智ちゃん。私からも実はあなたに、大切なお話があるの。
今まで何度も話そうと思ってたけど、ずっと話せなかった。話すタイミングがなかったと言うか、話して良いのか分からなかったの。
大丈夫。不安そうな顔しなくても大丈夫だから。
あはは。もう、智ちゃんったら、相変わらずメンタル弱いんだから。別に隠し子がいるとか、他の男がいるとか、そんな話じゃないから安心してね。そんな状態だったら、私はあなたとデートしたりできないから。
私には、三つ上のお兄ちゃんがいるの。いえ、正しくはお兄ちゃんがいたの。
死んだの。私が小学二年生の時に、クルマに轢かれて死んじゃった。夏の暑い日に、「野球行ってくる!」って言って出て行って、そのまんま二度と帰ってこなかった。
野球が得意な兄だったわ。五年生だったのに、他の六年生たちよりずっと上手で、ホームランとかいっぱい打って、将来は「プロ野球選手になりたい!」って、七夕の短冊に書いてた。それから、三日後に死んじゃった……。
やだ。そんな悲しそうな顔しないで。なんで智ちゃんが泣きそうになるのよ。あーあ。だから嫌だったのよ。なんか、お涙頂戴みたいになるじゃない。
私、こういうの嫌いなの。私にはお兄ちゃんがいた。でも小さい頃に死んじゃった。それだけよ。だから泣かないでね。
でもね、智ちゃん。あなたを見ていると、私はいつもお兄ちゃんを思い出していたの。
私、今IFって小説を書いてるよね。智ちゃんにも読んでもらってるけど、IFの意味、知ってるよね? 「もしも」。そうなのよ。この小説は、もしもお兄ちゃんが生きていたら、こうなってたんじゃないかなって思って書いてるの。
だから、主人公には妹がいるでしょ? あれは私がモデルなの。書きやすいわ。だって自分だもん。私が思ったことを言わせれば良いんだから、ワタルはともかく、ミカの台詞ならすらすらと書けるわ。
私のお兄ちゃんと智ちゃんは、顔とかは全然似てないんだけど、雰囲気とか仕草とか、そういうのが似ているの。どことなく、雰囲気が似ている人っているじゃない。それよ。
だから、私はあなたと付き合ったんだと思う。お兄ちゃんが青木智実って名前になって、私の前に現れているんだって、そう錯覚することもあったわ。
不思議な感覚なんだけど、お兄ちゃんの話をあなたにしたら、あなたはお兄ちゃんではなくなって、私はあなたと付き合う理由を失ってしまう。そんな気がしてたの。
でも、今日こうしてプロポーズしてくれて、私はお兄ちゃんの話を智ちゃんにできた。
うん。話したけど、智ちゃんは智ちゃんだ。良かった。私、やっとお兄ちゃんと智ちゃんが被る現象から脱却できたのかも。
当たり前よね。私のお兄ちゃん……康太っていうんだけど、柴原康太と青木智実は全く似ても似つかない赤の他人で、私は青木智実に恋をしているんだから。兄妹で恋なんかするわけないのに、私はお兄ちゃんと似た雰囲気をあなたに求めてた……それがずっと気になっていたんだけど、プロポーズしてくれたおかげで、私はその幻覚から目が覚めた気がする。ありがとう。
柴原康太は、もうずっと昔に天国へと旅立った故人。そう言えば、お兄ちゃんの誕生日は明日だったわ。
お誕生日とクリスマスのプレゼントが被るから、いつも文句言ってた。もし生きてたら、智ちゃんより一つ上だったことになるわね。
智ちゃん。本当に本当にありがとう。私を選んでくれて。
あれ? なんで私泣いてるんだろう。お兄ちゃんの話をしたからかな? 時々ね、お兄ちゃんのことを思い出して泣いちゃうことがあるの。でもその感覚とは、ちょっと違うなあ。
私はきっと、嬉しいんだと思う。智ちゃんが、下手っぴなりに今日のスケジュールを組んでくれて、水族館だとか、イルミネーションだとかを見せてくれて、クリスマス市に連れてってくれて、こうして思い出の場所でプロポーズしてくれて、あんまりにも下手っぴだから笑っちゃったけど、でもきっと智ちゃんなりに、はっちゃきこいて考えてくれたんだよね。
私、あなたといろいろな所に行ったけど、今日のデートはいつもよりずっとずっと楽しかったよ。本当に。ペンギンを見せてくれただけじゃなくてさ。水族館に行けたのも嬉しかったけど、智ちゃんが考えたデートコースを回るのが楽しかった。地下鉄も久しぶりに乗れたしね。
私はこんなに人に尽くされたことってなくて、こういう時にどんな顔をすれば良いのか分からないの。
笑えばいいのかな? それとも、泣いちゃえばいいのかな? ありがとう!って泣いちゃえばいいのかな?
でも、涙は出るけど、わんわん泣くような感じじゃないわね。
嬉し涙ってこういうのを呼ぶのかしら。そうだ。私は今、とっても嬉しい。
えへへ。智ちゃん。普段、私が絶対に言わないこと、特別に言ってあげるね。
愛しています。
あなたのことを、世界中の誰よりも愛しています。
ふふ。こんな歌詞の歌、あったよね。世界中の誰よりきっとって。
私はうつ病だし、だらしないし、あなたが抱いてる幻想とは程遠いかもしれないけど、私はあなたを愛している。
智ちゃんもきっと私を愛してくれたから、プロポーズしてくれたんだよね。
どれ、その指輪、着けさせて。
イヤね。こういう時は男がやるものよ。なに黙って見てるのさ。ぼーっとしないで、私の薬指に、はめてみてよ。
右じゃないわよ。左よ。ねえ、ちゃんと勉強したの? もう、智ちゃんはどっか抜けてるんだから。
どうかしら? 着けた感じはぴったりだわ。びっくりするくらい、ちょうど良い。綺麗ね……。可愛いなあ……。
マスターもそう思いませんか? お二人でどうぞ?
あはは。マスターも智ちゃんを応援してくれてるぞ! 頑張れ!
なあに、改まって。愛してる?
うん。私も。智ちゃんのこと、いっぱいいっぱい愛してる。
きっと、あなたが思ってるよりもずっと、私はあなたを愛してると思う。智ちゃんが苦しそうな時も、嬉しそうな時も、私はあなたが愛しくて仕方なかったんだ。あの列車のアプリを作ってた時も、毎週うなだれてたあなたが、私にとっては愛おしかった。
……あなたと初めて知り合った去年の今頃は、私は「何だろう、このひ弱な人は」って思ったわ。
そんな顔しないでよ。第一印象なんてそんなもんじゃない。実際、智ちゃんは細いし、逞しいとは言えないでしょ?
でも、きっと優しい人なんだろうなってのは、伝わってたんだよ。
それは私が飲んでる時に、ふと目が合った時とか、会釈を返してくれた時とか、そんな時に感じてたの。
だけど私から話し掛けようなんて気は、さらさらなかったわ。だって私はうつ病だし、マスターは私の指示通り、いつもの順番でお酒を作ってくれるだけだし、あなたも何となく飲んで、適当に帰る。そんな日々がずっと続くんだろうなって思ってたわ。週に一度だけ顔を合わせる、智ちゃんの言葉を借りれば「お互い常連」の関係ね。
今年の二月……いつだっけ。中旬くらいだったよね。あなたから、なんでか分からないけど白ワインを突然贈られて。
私はそれを飲まされて、その時、私はあなたに、お兄ちゃんの面影を見た気がしたの。
それからあなたのことが気になった。不思議な感覚だったわ。優し気な表情、ちょっと内気だけど本当はとっても優しい……お兄ちゃんにそっくりだった。顔は似てないけど。それからよね、デートとかするようになったの。
初めてのデートはどこだっけ。あ、そうだ。発寒中央駅から街に出たんだわ。シネマフロンティアで一緒に映画を観たわね。
もう、智ちゃん。ここの前で告白してきた日も、今日みたいにしどろもどろだったわよね。もうちょっと本番に強くなってよ。頼りないじゃない。こういう大事な時に備えて、練習してる?……なんてね。ふふふ。
柴原梨恵が、青木梨恵になるのかあ。私、青木って苗字が好きだったから、ちょっと嬉しいかも。青木智実に、青木梨恵。なんだか夫婦と言うよりも、姉妹みたいだね。あはは、そんなに怒らないで。智ちゃんの名前はあなたによく似合ってるから。私、大好きだよ。
智ちゃん。私なんかを選んでくれて、ありがとう。
あれ……?
また泣けてきちゃった。なしたんだろう? 私。
とっても嬉しいはずなのに涙が止まらないの。プロポーズされるって、こんな感じなのかな? ドラマとか映画とかだと、泣いたり笑ったりしてるけど、実際にプロポーズしたりされたりすると、なんか違うわね。こういうもんなのかしら。
あら? 智ちゃんも泣いてる。ウフフ。もう、カッコよく決めてってば。プロポーズした方が泣いてどうすんのよ。ほら、シャキッとしてちょうだい。
えっと、こういう時、なんて返すんだっけ。
不束者ですが、末永くよろしくお願いいたします……。
……ぷっ。あっはっは! なんかおっかしい!
畏まるとダメね。なんか笑えちゃう。私が不束者なのは間違いないんだけどね。
智ちゃん。私、とっても嬉しいよ。今まで生きてきて一番嬉しい。
このバーでも発寒中央駅でも、あなたの姿を見るだけでとても嬉しかった。お弁当作るのも、すんごく楽しかったんだよ。
いつか私の声や髪を褒めてくれたよね。私の声がハープみたいなのかは知らないけど、亜麻色の髪は維持するのが結構大変なの。美容室に頻繁に通わないと、すぐに地毛が生えてきちゃうからね。
そうね。黒髪にしてみようかしら?
結婚したら亜麻色の髪を維持するの、きっと難しいよね。
黒いロングヘアの私を見たら、智ちゃんはどんな顔をするんだろうね。今から楽しみだな。えへへ。
子供? そうね。いつか作れるもんなら作りたいけど、私の病気が完全に治ってからかな。子供までうつ病になったら困るじゃない。そんな心配必要ないのかもしれないけど、やっぱり元気に生まれてきて欲しいからさ……。
でも智ちゃんと私の子供が、どんな顔をして生まれてきてくれるのか、それは見てみたいわね。楽しみだわ。そのためにも元気にならなきゃね。
智ちゃん。素敵なクリスマス・イブを、どうもありがとう。メリークリスマス。
智ちゃんが私を愛してくれるように、私もいっぱい、いっぱい、あなたのことを愛させてもらいます。
だから、その……よろしくお願いします。
だらしなくて、うつ病で、女らしくないけど、そんな私でも受け入れてくれるのなら、是非、結婚させてください。
あ、一杯目を飲み終えちゃったね。智ちゃんも、私もだ。あはは。マスター、お酒ください。なんでも良いです。ラズール・モヒートでも、なんでも。
それは、白ワインですか? あら、智ちゃんはあんまり得意じゃないけど、大丈夫?
そう。したら乾杯しましょうか。三人で、乾杯。
そうね。智ちゃんと私が、夫婦になることに対しての、乾杯。
では、かんぱーい! うーん、美味しい! 智ちゃんは? どう? やっぱり苦手? あっはっは。そんなところも智ちゃんらしいわ。
マスター、ありがとうございます。いつもいつも、本当にありがとうございます。
智ちゃん、本当にありがとうね。ありがとうございます。嬉しいよ。とってもとっても嬉しい。
いつか私が死んでしまうまで、傍にいてください。私が死ぬ時は私の手を握って、「愛してるよ」って囁いてください。
それだけで私は安らかに、お兄ちゃんのいる天国へ旅立てる気がします。
なんだか重たい話をごめんね。私はまだ死なないし、智ちゃんとこれから始まる生活にワクワクしてるから、心配しないでね。
私の家に行こっか。シャンパンはないけど、コンビニでちっちゃいケーキでも買って、クリスマス・イブを楽しもうよ。
ほら、外はしんしんと雪が降っている。不思議よね。毎年クリスマス・イブになると雪が降ってる気がする。私の思い込みかな?
智ちゃん。いえ、あなた……ぷっ。あはは! あなたなんてなんか変ね。智ちゃんは智ちゃんだよね。
智ちゃん、これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
私は、あなたを心から愛しています。
これから先、いろんな苦労とか、辛いこととか、喧嘩とか沢山あると思うけど、智ちゃんとなら乗り越えられる。そんな気がする。
あーあ、なんか、今日はお酒回っちゃった。大通公園でも結構飲んだもんね。ここでもワインとか飲んじゃったし、ちょっと飲み過ぎたわ。
マスター、今晩はこれくらいにします。智ちゃん、今日は泊まってかない?
え? いいよ、もちろん。部屋のお片付けもしたし、雪も降ってるし、今から送ってもらうのも悪いからさ。
うん、よかった。考えてみればお泊まりも初めてだよね。高校生とかの頃を思い出すわ。友達を招くのとはちょっと違うけど。
え? キス?
あっはっはっはっは! もう、マスターが見てるじゃない! 場所を選んでよ、智ちゃん!
マスター、ちょっと向こうを見ててくれますか? すみませんね、うちの智ちゃんが。
……はい、おしまい。続きはお家に帰ったらしようね。
マスター、お勘定お願いします。
お金? 良いのよ、智ちゃん。今日は私の奢り。いつも奢ってもらってばかりだから、今日くらいは払わせて。後で大通公園で支払ってもらった分も、少しは払わせてね。ダメよ、私に投資しすぎ。申し訳ないなって思ってるんだからさ。
さ、帰ろう! それにしても同棲するとしたら、どこに住もうね? この辺りに良いアパートとかあるかな? できれば発寒に住んでたいしなあ。何年か住んでいて、発寒がすっかり気に入っちゃってるんだ、私。
ご両親への挨拶とか、大変だ~。私なんてうつ病だし、受け入れてもらえるかなあ。ご挨拶とか結納とか、私そういうのチンプンカンプンだから、助けてね。智ちゃんのご両親ってそういうのこだわる? うちは多分、こだわらないと思うんだけど……分からないなあ。
そんな不安そうな顔しないで、きっと智ちゃんと私なら大丈夫よ。
さあ、行きましょ。
わあ、寒い。もう本格的な冬ねえ。これからすぐに年が明けるのね。こんなに雪も積もっちゃって、何だか幻想的じゃない? 雪は音を吸収するから、静かな発寒がもっと静かに感じるわね。クルマが走る音も聴こえないくらい。
見て、踏切が鳴ってる。降りしきる雪を飛ばしながら、小樽の方に列車が走って行ったわ。私、発寒中央駅のこういう風景、好きなんだ。ちっちゃい駅だから速い列車が停まらないけど、だからこそ見れる良さもあるのかな……なんて。あなたとどこかへ行く時も、必ず発寒中央駅がスタート地点になってくれてたよね。駅に感謝するって変だけど、ありがとう、発寒中央駅。
私、今年だけでいろんな人と知り合った。智ちゃんと付き合うようになってから、いろんな人と知り合ったり、再会したりした。誰もがみんなそれぞれ、自分を生きているんだよね。今、私たちが見ている景色が何かを教えてくれているのかもね。
きっとこの空の下、いろんな人たちがそれぞれのクリスマス・イブを過ごしてるんだわ。私のお友達も、同級生も、知り合いも……。
でも、誰よりも私は嬉しいと思う。こんなに嬉しい日はない! うん、確信持って言える! 人生で最高の日だわ。二〇一九年のクリスマス・イブ、私は絶対に絶対に忘れない!
私、冬って嫌いじゃないの。寒いのと雪かきと滑る道は嫌いだけど、白銀の街は綺麗じゃない。雪まつりだってあるしさ。あんまり行かないけど。
ふふふ、智ちゃんも? そうだよねえ。あんまり行かさらないよねえ。近いと案外行かないって言うか、観光客多いし、私は行くと必ず風邪引いちゃうから。暖かくて美味しいラーメンとか食べる方が良いよねえ。
智ちゃん、手、繋ご。
えへへ。智ちゃんの手、暖かいや。
私、智ちゃんの手も、顔も、性格も、大好き。
愛しています。これからもよろしくね。これからも、ずっとずっと。
大好きだよ、智ちゃん。とってもとっても大好き。自分って誰かをこんなに好きになれるんだって思うくらい。
ありがとう、智ちゃん。私、とっても幸せだよ。




