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「お嬢様⋯⋯もう無理ですぅ〜!」
交代で泡立てをしているが、流石にみんなバテてきている。
「まだ足りないわよ⋯⋯泡が崩れないようにしないといけないの」
卵白を角が立つまで泡立てなければならないのだが、これがなかなか大変で難儀なのだ。
「暖かい時期に入ってきたから、余計に泡立たちにくいのよね」
「気温とか関係あるんですか?」
「そりゃあるわよ。寒い時の方が泡立ちやすいのよ⋯⋯一応楽に泡立てる方法もあるけど」
「それをやりましょうよ、お嬢様〜!」
みんな利き手を押さえて涙目だ。
「大量に氷が必要なのよ」
「⋯⋯それ無理じゃないですか?」
「そうよね〜」
この世界では氷は冬にしか出来ない。
冬に氷を切り出し、洞窟のような貯蔵庫に保管しておくのが一般的な氷の保存方法だ。
暖かくなると氷は、王族などしか使えない。
氷と一緒に閉じ込める冷蔵庫風のものもあるが、毎日氷を追加しなければならないのだ。
昭和初期の冷蔵庫かよ!?
と、遠い目になったのもいい思い出だ。
「でも、食べたいと言ったのだから頑張ってちょうだい」
「うぅ⋯⋯こんなに大変だなんて〜!」
「食べ物の有難みが分かるでしょう?小麦粉だってバターだって店に並ぶまでが大変なのよ」
野菜や果物だって、育てるのが大変なのだ。
「それは感謝してますけど⋯⋯」
「作るのには時間がかかるけど、食べるのは一瞬ですもんね」
それが分かったなら、興味も程々にしないとね。
見習い娘達を尻目に、アンナは温めた牛乳にレモン汁を入れて軽く混ぜる。
「お嬢様は何を?」
「フレッシュチーズを作ってるのよ」
レモン汁を入れると牛乳がモロモロと固まってくる。
それを布で濾して水気を切ればフレッシュチーズの完成である。
「そういえば、レモンを入れてしばらく置けばラッシーになるんだっけ⋯⋯?」
確か蜂蜜を入れた牛乳を使えば、ヨーグルト風味のレモンラッシーになった気がする。
「今度試してみましょ」
水気を切るのに軽く重りを乗せて、少し置いておく。
「あ、そうそう⋯⋯卵白を早く泡立てないと、泡が潰れてやり直しになるわよ」
「それ、先に言って下さいよ〜〜!!」
見習い娘達は泣きそうになりながら、泡立てを再開するのだった。
「うぅっ⋯⋯おいひぃれす〜!」
「一気に食べたら勿体ないなぁ〜」
「苦労したもんね⋯⋯」
「コーヒーにも合う〜」
半泣きでティラミスを食べる娘達を横目に、アンナは簡単に作れるお菓子を模索していた。
ベーキングパウダーって確か重曹よね⋯⋯?
それがあればマフィンやマドレーヌ、パンケーキ等は簡単に作れる。
「お店でも始めようかしら⋯⋯」
もしも自分で稼げたら、政略結婚とか拒否できるかもしれないし。
嫌になった時の逃げ道にもなるし。
まぁ、未だに親の顔なんて知らないけど。
ただ、店をするには初期費用が必要だ。
ボールチェーンの売り上げもまだ未知数。
「どうしようかな⋯⋯」
焦っても仕方ないのだけれど、時間は無限ではないし、時の流れは意外と早いのだ。
「お祭りでも美味しいものが食べられるといいね〜」
ーーん?
「お祭り?」
「あれ?お嬢様知らないんですか?」
「もうすぐフランメイル領では花祭りがあるんですよ〜」
「花祭り⋯⋯」
「はい、町中に花を飾って、女子は花を使って着飾るんです」
「ーーそれよ!」
まずはお祭りで露店を出して稼ぐのよ!
「私も出店するわ!」
小さく握った拳を力強く掲げ、アンナは元気いっぱいに宣言した。
「ーーはあぁぁ〜っ!?」




