33
「えっ!美味しい!」
「うわっ!にっが〜!」
ーーまぁ、そうなるよね。
好みは人それぞれだ。
「苦いと思ったら、砂糖とミルクを入れてみなさいな。最初は少しづつね」
砂糖とミルクを押しやると、顔を顰めてた見習い娘達は半信半疑で砂糖とミルクを入れる。
私は少し薄いブラックをそのままいただく。
「うん、ちゃんとコーヒーだわ美味しい」
煎ってる時に漢方みたいな匂いがしたから正直不安だったが、これならば充分だろう。
タンポポコーヒーはノンカフェインで身体にも優しい。
「うわ、砂糖とミルク入れたらめちゃくちゃ美味しい!」
「あたしはミルク多めの砂糖少なめが好み」
「両方いっぱいがいい!」
好みのアレンジも好評らしい。
「ミルクを多く入れたのはカフェオレっていうのよ。コーヒー飲んでからクッキーを齧ってみなさい」
クッキーの乗った皿を渡すと、それぞれ手に取って口に入れた。
「!?」
「うわっ!美味し〜い!」
「これ合いますね!」
甘いお菓子をコーヒーで流す。
やっぱりこれよね!
「コーヒー出来たなら、ティラミス作れないかしら⋯⋯」
コーヒーゼリーはゼラチンが必要だが、ティラミスならマスカルポーネチーズとスポンジで作れるはず。
でもココアがないな⋯⋯と、考えていると不思議そうに首を傾げている見習い娘達。
「てぃらみ⋯⋯?ってなんですか?」
「チーズを使ったコーヒー味のケーキよ」
ケーキの言葉に、見習い娘達は一気に目を輝かせてアンナに詰め寄った。
「え?ケーキ?食べたい!」
「お嬢様いつ作るんですか?」
「チーズってケーキになるの?」
「甘いチーズ?想像できない⋯⋯」
そりゃそうか⋯⋯こちらにはフレッシュチーズがない。
と言うよりフレッシュのまま食べない。
「スポンジにはベーキングパウダーは必要ないし⋯⋯そうね明日はティラミス作りしてみましょうか」
勢いよく頷く見習い娘達に小さく苦笑い、アンナはクッキーをサクリと齧った。
(材料は色々足りなくても、この世界では初めてのチーズを使ったケーキになるのね)
いうなればティラミス風となるわけだが、本来のものを知らなければ、これから作るものが本物になるのだ。
そしてこれが後にスイーツ界に歴史を刻むケーキとなるとは、アンナさえも予想していなかった。
次の日の朝食後、厨房にはお菓子作りの材料が並べられていた。
そしてその作業台の前にはエプロン姿の幼女が、腰に手を充てて見習い娘達に宣言した。
「いい?このお菓子はハッキリ言ってもの凄く大変だから」
まずスポンジを作るのには体力と根気がいる。
前世のような自動泡立て器などないのだ、全て人力で卵白を泡立てなければならない。
クッキーやパウンドケーキのようにはいかないのだ。
そしてスポンジは休ませる時間も必要だ。
ケーキ作りは時間も手間ももの凄くかかる。
見習い娘の一人が困惑したように、おずおずと手を挙げた。
「えっと、お嬢様。具体的にはどこが?」
「明日は腕が動かない程度?」
「ーーえっ?」
ピキリと固まって、アンナを凝視する。
「コレね腕がすっごく疲れるのよ⋯⋯多分明日は筋肉痛で動かなくなるわよ」
ザッと青ざめる見習い娘達に肩を竦め、アンナは容赦なくニッコリ笑った。
「食べたいと言ったのだから、最後までしっかりね」
見習い娘達は一斉に顔を引きつらせたのだった。




