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「⋯⋯成る程、これは想定外だったわ」
少し考えれば分かることをアンナはうっかり失念していた。
運び込まれたミシンは、足踏みミシン。
五歳のアンナでは足が届かないのだ。
これを自由に使うには、10センチ以上足の長さが足りない。
(ちょっと考えれば分かるでしょー!私ーっ!!)
ミシンを目の前に項垂れる幼女。
運んで来た従僕達が、オロオロとアンナの周囲を取り囲む。
「えぇと⋯⋯要するに、お嬢様が差し支えなく使用できればよろしいのですよね?」
アドニアスの言葉に、アンナはのろのろと頭を上げた。
すぐに庭師が呼ばれ、ミシンを前に屈強な男たちが思案を始める。
「底上げ用の木枠を固定して、そこにクッションでも付けてみたらどうでしょう?」
要するに足踏みのところに、箱枕のような物を付けて使うという。
「ただ、どうしても足に力を入れなければなりませんが⋯⋯」
先程足で触った感じだと、思ったよりも軽く動いたのだが、そこに箱を取り付けるとなると、結構な力が必要になる。
「まぁ、それは仕方ないわ。足を鍛えるのだと思うしかないわね」
「⋯⋯普通ご令嬢は足を鍛えたりなさりませんよ」
呆れたように零すアドニアスに、アンナは首を傾げた。
「あら、ダンスなんかは足を鍛えないと出来ないわよ」
「まぁ、そうなのですが⋯⋯」
普通鍛えるのは男性側だ。
鍛えた足捌きで、女性をリードするのが常識なのだ。
「要は慣れよ。使っていくうちに、上手く出来るようになるでしょう」
酷く楽観的なアンナの言葉に、男性陣は苦く笑って、足踏み部分を調節してくれた。
「ーーむずっ!!」
早速足踏みミシンの練習をしていると、そりゃあもう初めて使うものだから、色々と壁にぶち当たりまくる。
力いっぱい踏んでしまい、手が追いつかなくなったり、逆にゆっくりすぎてイライラしたりと、なかなか思うように動いてくれない。
一番の苦労は止める時だ。
アンナの足の力では、なかなかピタッと止まってくれないのだ。
足踏みミシンの波に上手く乗れなくて、アンナはガックリとミシン台に頭を付けた。
「電動ミシンって偉大だわ〜、ボタン一つで動いて止まってだったもんね」
オマケに最近のコンピューターミシンなんて、ボタン付けや刺繍まで出来る優れもの。
「電動がないから、これに慣れるしかないんだけどさ〜」
もう2時間は足踏みミシンと格闘している。
「明日、すっごい筋肉痛になりそう⋯⋯」
疲れた足を揉んで、アンナは大きくため息を吐いた。
「とにかく、毎日練習して使えるようにならなきゃ⋯⋯」
習うより慣れろ!って言うしね。
「取り敢えずは、足を鍛えるために散歩でもしようかしら?」
全ては自らの欲望と推しのために!
推しのためなら、色々頑張れるのがヲタクである。
「よーし、明日から足を鍛えるぞ〜!」
力いっぱい拳をあげて、今後の目標を立てるアンナだった。




