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「ーーこの服、歩きにくいわぁ〜」
屋敷の庭というよりも、見事な庭園を歩きながらアンナは愚痴を零した。
以前の世界ならスポーツウェアやジャージ、スェットなど多彩な運動着があるが、こちらは女性が運動する服といえば乗馬服くらいしかない。
しかも乗馬用ドレス。
この世界の女性の乗馬はサイドサドルだった。
サイドサドルなんて、慣れと体幹がしっかりしてないと無理である。
五歳児にそれを求めても困る。
こちとら引きこもりの令嬢だったんだぞ?
出来る訳ねぇだろーよ⋯⋯。
心の中で舌打ちしながら悪態をついたものだ。
(ズボン楽でいいんだけどなぁ〜)
前世ではライブやイベント以外はジーンズとパーカー、Tシャツで過ごしていた。
着飾っても、凡庸な見た目の自分では無駄だと思っていたからだ。
「キュロットやワイドパンツなら大丈夫かしら?」
それかロングスカートの下にレギンスを履くとか。
ブツブツと考えながら、庭園をひたすら歩く。
基礎体力のないアンナローズの身体は、庭園の端から端まで歩いただけですぐ音を上げる。
「は〜ホントこの身体体力ないわ〜」
両手で膝を押さえて、肩で息をする。
足踏みミシンのせいで、足が毎日筋肉痛なのに、頑張って無理矢理運動しているのだ。
最初はそりゃあもうロボットみたいな動きだった。
「筋肉痛の時は軽い運動をした方がいいとは言うけど、軽い運動さえもキツイわ〜」
しかし運動は必須だ。
1日中家にこもっていては、心身共に病んでしまう。多少無理をしてでも動かないといけない。
最初はラジオ体操から始めたが、それだけで息が上がったのもいい思い出である。
それに、陽に当たることはビタミンDを形成するのにいいと聞いたことがある。
ストレス軽減、免疫力向上、骨格強化など、意外と見過ごせない効果なのだ。
「ヨガやピラティスでもやっときゃ良かったわ〜」
前世には、自分に合わせて多彩な鍛え方があったものだ。
色々な器具がない今は、ひたすらウォーキングしかないが。
「歩くのに慣れたらジョギングもしないとかな?」
アクティブな性格ではなかったけれど、引きこもってなどいられない。
とにかく心身共に健康でいなければ。
「この世界の病気って、どうなってるのか分からないしね」
前世では医療技術も発達していた。
病気の概念が大昔のそれだったら、目も当てられない。
「まさか、病気の治療は呪術師とかに頼るとかないよね⋯⋯?」
そんなんだったら、生き残れる気がしない。
昔は心が病んだら狐憑き、悪魔憑きなどと言われていたりと、そりゃあもう酷い扱いだったらしい。
生まれつきの障がいなども同様だ。
そこそこ長生きしたかったら、自分で自衛するしかないのだ。
「健康はお金で買えないってね」
色々なことを加味して、運動はちゃんと続けよう⋯⋯。
健康が一番!
元気じゃなけりゃ、推し活だって出来なくなってしまう。
「よし、もう一周頑張ろ!」
推しの楽曲を口ずさみながら、アンナは気合いを入れて再び歩き出した。




