第21話 職業:娼婦
いやいや、いやいやいやいやいや。
「これはどういうことだシャル」
「ね? 名案でしょ」
シャル曰く、表に出てこないような情報は裏に属せば勝手に入ってくる。だから自分たちも娼婦になろう作戦。だそうだ。
「どこがだよ! あたしたちはリンカーなんだからリンカーとして動けばいいだろ」
「だーかーらー。それじゃあ絶対ヤバい薬物の情報なんか入ってこないってば。大丈夫だよ、こういうのは慣れてるから」
「慣れてるってそれどういうーー」
「はいはい、お喋りはそこまでよ。新人のシャーレとリリルね。さっさと着替えて頂戴」
シャルと言い合いをしていると扉を開けて入ってきた先輩娼婦に遮られ、二人共娼婦の格好に着替えさせられた。ちなみにそれぞれ偽名を使用しており、あたしはリリル、シャルはシャーレだ。
「それにしてもシャーレはいいとして、リリルはちょっとあれね。まあそういう趣味の客もいるけど」
あれとはなんだ。子供体型だからか。シャルと違って胸も尻も無いからか。だからこんな作戦嫌だったんだ。
シャルは普段胸当てをつけているせいでわかりづらいが、意外と胸が大きい。ミナほどではないが女性としての魅力は詰まっている。そうでもないあたしはこんな作戦思いつきすらしないだろう。有る者にしかできない発想だ。
「まあいいわ、とりあえず店の前に立ってなさい。そろそろ客が来る頃だから」
先輩娼婦に言われるがまま着替えてシャルと店の前に出ると、店の前にあった通りはすっかり他の娼館の女たちが立ち並ぶ妖艶な姿に変わっていた。
「こんな格好で外に出るのは恥ずかしかったけど、これだけいたらむしろこの格好が当たり前みたいに感じるな」
「似合ってるよ、リリルちゃん」
シャルのやつは自分の考えた作戦だからか上機嫌だ。
「嬢ちゃん見ない顔だな。新入りか?」
さっそく強面の男がシャルに話しかけてきた。シャルは一切動じずに笑顔で対応している。
「はい。今日から入りましたシャーレです。ご指名くださると嬉しいです!」
オエー。人間やめないとあんな顔とセリフ出てこないよまったく。背中がゾワゾワした。こんなわかりやすい接客されてホイホイついてく男いないだろ。
「おう。じゃあ行こうか」
ナンデー。男ってなんでこんなちょろいの。ていうかシャルはここからどうするつもりだろう。このままあの男とあんなことやそんなことをするのだろうか。イヤイヤ、流石に何かしらの考えているはず……、本当に考えてるのか?
もし本当に色仕掛けで情報を引き出す作戦だったとすると、あたしも同じようにあんなことやそんなことをしなくてはいけなくなる。あわわわわわわ。
「ふう。おまたせー」
「えっ、早くない?」
「なに言ってるの、もう三人相手にしたよ。リーシャはずっとブツブツ言いながらどこか遠いところを見てたけど。そんなんじゃお客さん取れないよ」
このビッチはあたしが悶々として思考が渦を巻いている間に三人も相手にしたのか。見かけによらずふしだらな女だ。
「ち、ちなみにどんなプレイを……」
「もしかして本気でボクが娼婦みたいなことをするとでも思ってたの? リーシャは意外と助平なんだね」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべてるこの女は、さっきまで娼館で三人の男を相手にしていたのだから誰がどう見てもそちらが助平だろう。あたしは清楚なキャラなんだから一緒にしないでほしい。
「伊達に兄を探してなかったからね。尋問は得意なのさ」
「尋問?」
「そ。なにも痛みを与えるだけが尋問じゃないよ。お酒を飲ませて、ちょっと魅了と意識鈍化の混合魔法をかけてやれば知ってることを何でも教えてくれるよ。それはもう決壊した川から流れ出る水のようにだだ漏れ」
体術剣術に加えて魔法まで使えるとは、シャルはオールマイティに何でもそつなくこなすタイプだったか。
作戦を立案するだけの技量と根拠があったことを自ら示してくれるとは心強い。
「それで、なにか聞き出せた?」
「ちょっとね。なんでも件の薬物はみんな無意識下で摂取しているらしいんだ。いつの間にかーー」
「お、お嬢ちゃん。みみ、見ない顔だね」
話を割り込むように太っちょの男が話しかけてきた。またシャルに新たなお客さんだ。スタイルが良いとホイホイ男が集まってきて大変ですこと。
「今日から入りましたシャーレです」
「いや、君じゃなくてそっちの子」
太っちょ男が指差した先はあたしだった。シャルではなくこのあたし。笑っちゃうよね。
「えと、今日から入ったリルルです。指名してくれると、う、嬉しいです」
「うんうん、い、行こうか」
正気かこの男。他に良さそうな女は沢山いるだろう。隣の女とかさあ。
太っちょ男と伴に娼館の中に入っていくと後ろからシャルが何かを言っているのが聞こえた。しかし、状況が状況なだけにその声はもはや頭に入ってこなかった。
太っちょ男を部屋に通してベッドの端に座らせた。この部屋へ来るまでもそうだったが、太っちょ男は常にあたしへ視線を向けて外そうとしない。しかも一点だけではなく上下を舐めるように見つめてくる。不快だ。
「こ、こちらどうぞ」
グラスに注いだ酒を差し出すとこれまで荒野を彷徨っていたのかと見紛うような勢いで飲み込んでいく。ゴクリゴクリと嚥下音が部屋に響き渡り、その間も視線は外していない。生理的嫌悪感をこれ以上受け続けると体調が悪くなりそうだ。
さっさと終わらせよう。まず酒を飲ませて、その後に魅了と意識鈍化の魔法をかけて……って、どうやって魔法使うの? あたし使ったこと無いんだけど。あ、ヤバ。
状況の深刻さに気づいた瞬間、太っちょ男はあたしの顔ほどはある大きさの手で腕を掴み、そのままベッドに引きずり込んできた。
あたしはベッドの上で仰向けの状態になり、両腕と両足は太っちょ男が体重をかける形で拘束されている。まあいつでも振りほどけるけどね。
「ぼ、ぼくね。君をひと目見たときから最高の女性だと思ってたんだ。小さな顔に幼さを残す鎖骨、起伏の少ない胸とお尻。発達した腹筋と大腿筋はさらなる魅力を添加している。しかしながらその筋肉は表にはあまり見えてないところが幼さを醸していて女性としての完成形をここに体現していると言っても良い」
見た目通りのド変態だった。これまでも変態じみた男は沢山見てきたが、その中でも群を抜いて気色の悪いド変態だ。
しかしこれはチャンスでもある。魔法を使わなくても相手が魅了状態にあるということは、あとは酒が回ってくれれば意識鈍化も追加だ。
「嬉しいです。あた、わたし幼児体型だから全然指名されなくて、お客様がはじめてなんです」
「ホフホフホフホフ! ほほーーーー!! それは僥倖、ぼくが君の初めてをいただいちゃってもいいんだね。ンフー」
既に荒かった鼻息がさらに勢いを増して鼻水が飛び散りだした。ほんと汚い。
「こーんなやらしい格好しちゃっていけないなー。他の男に見られていたと思うと怒りがこみ上げてくるね」
太っちょ男の舌が首元から鎖骨、お腹へと活きの良いナメクジのように移動する。あまりの気持ち悪さに変な汗が額に滲み出した。
「わたし、気持ちいことが大好きなの。他の子から聞いたんですけど、非公式に流れている薬がとってもいいらしいの、おじさま何か知りません?」
「あー、白煙のことかな? あれは薬じゃなくて香辛料だから普通に探しても見つからないよ。ぼくの経営してるパン屋で扱ってるから今度おいで。たあくさん食べさせてあげる。でもでも、たくさん食べてこの素敵なお腹がふよふよになると悲しいなあ」
「心配しなくてもなんねーよボケナス。オラァ!」
重くのしかかった巨体を押しのけ、そのまま太っちょ男の頭に頭突きをくれてやった。本気でやると木から落ちた果物みたく内容物を飛散させてしまうので手加減してだが、それでも一発で脳震盪を起こすくらいの威力を振る舞った。
「ほんと気持ち悪いほんと気持ち悪い」
嫌悪を通り越して生理的拒否反応による蕁麻疹が体中に現れているが、それよりも舐め回された部位を一刻も早く清めるために濡らした手ぬぐいで念入りに拭き取る。
「二度と関わりたくないところだけど、もう少し詳しく聞く必要があるな」
詳しく話を聞き出すために、どこか人気のない所へこの男を連れて行く必要がある。
気絶した太っちょ男を背負い娼館から出ると、外にいたシャルは目を細めた。
「もしかして、ヤッちゃった?」
「ヤッ……ちゃいました……」




