星を詠む少女。
はじめまして。
『その魔法使いは星を詠む。』をお読みいただきありがとうございます。
静かな夜に星を見上げるような、そんな物語をお楽しみください。
星の綺麗な夜だった。冷たい空気が凛と張り詰めて、空と地上を圧縮している。数え切れないほどの無数の光が、私の瞳に降り注いでいた。時折吹く風が庭の木々をそっと揺らし、洋館の少し古く湿った匂いを纏って丘を降りてゆく。私はバルコニーに出した椅子に深く腰掛け、じっと、冬の夜空を眺め続けていた。
私は幼い頃から、星を見るのが好きだった。今はもういないおばあちゃんと、よくこの場所から、冷たく光る星々を見上げたことを思い出す。眼下には町の明かりが小さく瞬き、その向こうの水平線まで、まるで地上を飲み込むかのように満天の星空が広がっている。私は白く凍えた息を吐きながら、かつて祖母に言われた言葉を思い出していた。
「――アリア。この世に星の運行ほど完璧な秩序は存在しないわ。けれど、物事は完璧でなくてもいいのよ。いいことも悪いことも、全ては心の中にある。私はもう目が衰えて星がよく見えないけれど、心の中には今日の星空が完璧な配置として光り輝いている。アリア、全て、あなたの心の中にあるわ」
おばあちゃんは賢く、私は幼かった。話してくれる言葉はいつも難しいことばかりだったけれど、優しく頭を撫でてくれたその温度を、今でも鮮明に思い出すことができる。輝くような白銀の髪も、いつも背筋の伸びた凛とした空気も、まるで昨日のことのように心の中にある。
その年老いた手のひらは、時に熱を生み出し、星の光を捉え、そしてあらゆる理を再構築する。
私の祖母は、魔法使いだった。
「アリア。私はもう長くはないけれど、きっと星の光があなたを導くわ。いつも冷静に、秩序を抱いて生きること。心を乱したら夜空を見上げて。決して乱れることのない光がそこにあるわ」
そう言っておばあちゃんは、小さく何かを呟いた。私の幼い手のひらが、ぼんやりと薄く光っている。そうしてその光はまるで蛍のようにゆっくりと宙を泳ぎ、やがて静かな夜空へと消えていった。おばあちゃん、あの光はなあに、と当時の私は尋ねただろう。おばあちゃんはただ微笑むだけで何も応えることはなかった。
今なら少しだけ理解できる。あの日、私の周りを舞っていたのは、星の光。私には決して使うことの出来ない、想像するだけで頭痛がするほどの高度な光の魔法。《星詠の魔女》と称された偉大なる大魔法使いは、ただ静かにその青い瞳に星の光を映し続けた。
思いを馳せるように、私も星を見上げる。遥か先の銀河が瞳に落ちる。
——ああ、なんて綺麗なんだろう。
私は手のひらに、小さな光を生み出そうと魔力を込めた。けれど、それはすぐに霧散して夜の闇へと溶けてゆく。あの決して乱れることのない星の運行。それに比べて、私の持つ魔力はあまりにちっぽけだ。
私のおばあちゃんは、歴史に名を残すほどの偉大な魔法使いで。
私は、簡単な魔法すらまともに扱えない、出来損ないの魔女だった。




