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norn.  作者: 羽衣あかり
“少年と少女”
22/85

21.魔法使いの少女

 それからハンナさんの家へ向かう少しの間だけれど、アオイは二人と会話をして名前を知ることが出来た。

 ウール族の彼は犬の毛のある動物(ウール)でアトラスというらしい。

 そして隣を歩く彼女はノルンといった。もちろん僕も名乗った。そしてノルンが14歳だということも知った。僕より1つ下だった。


「二人はどうしてハンナさんに会いに?」


 何となくの疑問を尋ねてみる。しかしその後すぐに初対面なのに踏み込んで失礼だったかな、と不安になる。


「あ、ごめんね…!初対面なのに。答えにくかったら全然大丈夫」


 アオイがすぐにそういうもノルンは顔色一つ変えることなく小さく首を横に振る。


「ハンナ様からの依頼を受けて薬を届けに来ました」


 控えめでいて、それでしっかりとその声は耳に心地よく届く。綺麗な声だと思った。


「依頼?えっと…」


 アオイが少し首を傾げていると、それに気づいたアトラスが横から補足する。


「ノルンは薬屋なんだ。魔法のな」

「えっ」


 思わず声が出てしまう。

 薬屋、ということにも驚いたけれど、彼女が魔法を使えるということに驚いたのだ。

 ハルジアは魔法が栄えている大陸だが、およそ10年ほど前の大戦で多くの魔法使いがその力を失った。

 そのため、今では魔法使いは昔よりずっと数が減り、魔法使いというだけで尊敬の念で見られる対象だった。


「…いえ。私は先生からの薬を預かってきただけで。私が調合したわけではありません」


 ノルンはアオイの反応に居心地が悪そうに視線を逸らす。


「でもノルンだって調合してるだろ?」

「………」


 アトラスが不思議そうな顔をしてそう言うとノルンは今度は口を噤んでしまった。

 あまり触れない方がいいのかな。普通ならもっと魔法が使えるということを自ら自慢する人が多いだろうに。ノルンは真逆だった。それ以上は何も触れられないまま、黙って歩いているとポツリとノルンが言った。


「…ここはずっと綺麗なままですね」

「え…?」


 その言葉に思わず歩みを止めてしまう。


「ん?どうかしたか?」


 アトラスが止まった僕を不思議そうに振り返る。

 やっぱり君は昔ここに来たことがある?そのことを覚えてる…?

 そう聞こうとしたけれど言葉は出てこず、「ううん。なんでもない」と笑うことしか出来なかった。

 そしてタイミンが良いのか悪いのかハンナさんの家に着いてしまうのだった。


「ここだよ。ここがハンナさんのお家」

「お。ここか!助かった。ありがとうな!」

「ありがとうございました」


 二カッと気持ちの良い太陽のような眩しさでアトラスは弾けるように笑った。ノルンもアトラスに続いて礼を述べるとぺこりと頭を下げた。


「うん」


 それ以上は何も言えなかった。頑張って、も違う気がして。でも、またね、も違う気がした。さよなら、は言いたくなかった。結局何も言えないまま笑って手を振ってハンナさんの家の戸をノックする二人を見送った。狼は家の外で待っているようだった。


 二人を見送って何となく家の方向に足を向けながらゆっくりと歩く。もっと話してみたかったな。思いのほか、ノルンは笑わない子だった。でも、冷たい、という感じはしなかった。口数は少なかったけれど、真摯に話を聞いてくれている感じがした。


 正直、夢に出てきた女の子とも一日のうちの数時間一緒にいただけ。そんなに話すことは無かったし、そもそも時が経ちすぎて覚えていない。

 性格まではわからなかった。もし、何となく覚えていたとしても十年だ。性格が変わってしまうことは大いにある。

 それでも、やっぱり。あの時の子なんじゃないかな、という期待がどうしても拭えない。そもそもあの時の子だったと確認できたとして、僕は何がしたいんだろう。何を、話したいんだろう。さっぱりわからない。


 ただ何となくずっと夢に見ていた女の子と似た子が現れた。それで舞い上がってもっと話したいと思っている。

 そのことに気づいた瞬間アオイはその場にへなへなとしゃがみ込んだ。


(…なんか僕、すごく恥ずかしいやつじゃないか)


 眉は下がり、頬は熱い。きっと情けない顔をしている。

 でも。でも…。

 脳裏に今朝見た夢がふわっと蘇った。あの日、あの子と出会って、それからずっと気になっていたことがある。そう、あの子がここにたどり着いた目的を。

 どうしてもそれを聞かなければいけないと思った。いや、聞きたいと思った。そうして、少し気持ち悪がられてしまうかもしれない。そうしたらどうしよう、と思いながら、不安でいっぱいの胸を何とか落ち着かせ、アオイはハンナさんの家が見える少し離れた場所の木の下で腰をかけて彼女を待つことにするのだった。

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