強さ
曇った空。青い部分はあるにはあるが、もくもくの綿が空を8割方占めている。
ロンドの森のモンスターが来るため、建物を建てようとする者がいなくなった平原に手を後ろに組んで寝転がり、ソムは空をただ見ていた。
ソムの顔もこの空みたいに曇っていた。
「今日もいいのがなかったな・・・。」
ユス湖の件から数日間、ソムは平原に寝転がってばかりだ。
3年前、いつもはパッと見つけた依頼を見て、困っている人を想像するなり、依頼の難易度がどんな内容でも(自分では解決できない依頼を除いて)それを受けてきた。
しかし、デンゼルさんの、肩書さえなければどこにでもいそうな中肉中背の姿、いかつい顔でもない平均的な顔を見てからは、依頼は自分と難易度が釣り合っているとしても、それを受けられないでいた。
正確には、チームのメンバーに依頼の内容を報告して、自分以外のメンバーは行くが、自分はその全ての依頼に行かなかった。
理由はデンゼルさんが怖く見えたからだ。
ユス湖の一件の前の自分は、強くなったら、自分が受けた依頼を出した人もその分安心して待っていられると思っていた。
だが違った。
自分はユス湖の依頼を出していないが、ピランの駆除という比較的簡単な依頼|(ブルーランドの件は予想外だったが)にデンゼルさんが出てくるというイレギュラーな事態に恐怖を覚えたのだ。
周りはこんな簡単な依頼を受けてどうするんだろうと思うだろう。
良い意味で考えれば、たとえ簡単でもどんな依頼も平等に扱うと考えられるだろう。
しかし悪い意味で考えたら、そんな簡単な依頼を受けるならば、別の難しい依頼を受けろよと思う人がいるだろう。
そんな風に考えていたら、周りに流されてしまう弱い人間だと思われてしまうだろう。
だがそうではない。
周りを悪い意味で考えさせてしまう強さがあることに罪があるのではないか。
そう考えてしまうのだ。
強くなったら、それ相応の依頼を受けなければならない。
そしてソムは簡単な依頼の方が市民と身近に接することができると考えていた。
ソムがエルフから抜け出したのは、エルフじゃない普通の市民と良い関係を築くことにあった。
それを自分が強くなることで、市民との距離が離れてしまったら、それは自分にとって意味がないことである。
実際、一般市民はデンゼルさんを憧れの存在とも映るかもしれないが、同時に畏怖の存在でもあるはずだ。
自分は強くならない方が良いのではないか。強くなって、憧れにでも畏怖にでもなる存在になるのは他の誰かでもいいのではないか。
「めんどくさがりだからって、その怠慢な行為はおかしいんじゃないか?」
「ライエン・・・。」
整った顔したライエンが仰向けのソムの顔を覗き込んでくる。
依頼に行ったのではなかったのか。しかし、そのことを言うのははばかられた。
「俺、強くならない方が良いんじゃないかって思うんだ・・・。」
「なんでだよ。」
ライエンはソムの寝転がったところの顔の近くにあぐらをかき、ソムの顔を睨む。
ソムはこの数日間考えてきたことをライエンに話す。
「そうかよ。」
ライエンはぶっきらぼうに言う。
「なら、お前はそれでもいいんじゃないか。俺は強くなって、たとえ恐怖を覚えられようが人を助ける。お前はお前のやり方で人を助ければいいだろ。」
ソムはライエンを意外そうに見つめる。
「てっきり、そんなの詭弁だって言って、全否定されると思ったよ。」
「今のお前は邪魔者だ。このチームからいなくなった方が良い。」
「そうしよっかな・・・。」
「そうだ、お前は必要ない。」
そうなのだ。だから自分はチームから避けているのではないか。
ソムは決めた。市民と身近な存在となって、人を助ける。
ノルマを達成すれば、食べることには困らないなんてことは後付けの理由でしかない。
「じゃあ、俺。チームやめるわ。」
「そうかよ。」
ライエンはそれだけ言うと、立ち上がり、お尻の砂を払って離れていく。
「おい。」
ライエンの呼びかけにソムはもう応じない。
「待ってるからな。お前が町のみんなに慕われることも・・・。強くなりに・・・、──。」
捨て台詞の最後は聞き取れなかった。しかしソムはそれを聞いて、笑った。




