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第六十七話


 ユリウスがヴェルニエに戻ってしばらく、諸侯軍の規模を解散に向けて縮小し、偵察隊のみを選んで東の果てに送り出しているだろう頃。


「お姉ちゃん、婚礼衣装の生地、届いたよ!」

「もう来たの!?」

「わ、見せて下さい!」


 実は結婚式の準備のほとんどは、パウリーネさまを筆頭に、ディートリンデさんやアレット、ユーリエさんにシスター・アリーセら、シャルパンティエの女性陣にお任せしている。婚礼の衣装も、彼女たち全員で縫い取りをしてくれるらしく、出来上がるまでは内緒と、わたしは詳しいことを何も教えて貰えない。


 余裕がないのも本当だけど、冒険者の皆さんがかなりシャルパンティエに戻ってきたので、本業の雑貨屋さんも少しだけ忙しくなっていた。


 ……困ったことに、『ご祝儀だ』と口にしながら堅焼きパンを買うのが流行していて、それだけは勘弁して欲しい。でもまあ、わたしがやめてと言ったところでやめてくれるはずもないので、蜂蜜棒の袋をおまけするだけに留めている。


「これを機会に針仕事も覚えるから、期待しててね、お姉ちゃん!」

「わたしも、頑張ります!」


 アレットとアリアネは力強く請け負ってくれたけれど、無理はしないでいいからね。


 結婚式その物の準備も大騒ぎになっていて、領地全体が盛り上がっていた。


 シャルパンティエの住人は孤児院の子供達まで総動員で、更にはギルドに依頼を出して冒険者の中から料理上手や元貴族、職人の息子などを探し当てて、お仕事をお願いしている。


「はい、ここまで。生地をパウリーネ様のところにお預けしてくるから、お姉ちゃんはお留守番しててね。アリアネ、行こ!」

「はい、アレットさん!」


 ……わたしの結婚式だけど、みんなして楽しそうで、その点だけはちょっと羨ましかったりするわたしだった。




 朝はパウリーネ『先生』とお勉強、午後からはアリアネがお式の準備に取られてしまったので一人お店を切り盛りし、夜になればわたしが必要となる衣装合わせなどに追われ……。


 あっと言う間に、本番の日はすぐそこまで迫ってきていた。


 ユリウスの不在は続いていたけれど、彼はヴェルニエから動かず――動けず、手紙のやり取りは出来ていたので不安はない。


 夜会の前々日、わたしはシャルパンティエを降りることに決まっていた。心残りはいっぱいあるけれど、向こうでの準備もあるから仕方ない。


「アリアネ、フリーデン、お姉ちゃんのこと、お願いね」

「はい!」


 ふぃあ!


 アリアネは付き人見習い兼お手伝い、フリーデンは小さな護衛だ。


 結婚式の方は、貴族のお客様への招待状も無事に手配できていたし、実家へも手紙で知らせた。お式の後で行う祝いの料理ももう、仕込みが始まっているし、婚礼の衣装だって、びっくりするほど素敵なものをみんなが仕上げてくれている。


「ジネット、忘れ物は大丈夫?」

「はい。大事な物はもう、全部送ってありますから」


 ギルドマスターという地元の名士であるディートリンデさんのところにも夜会の招待状が届いていたけれど、お仕事の都合があって、クーニベルト様が夜会直前にペガサスで迎えに来る手はずになっていた。


 そして……。


「アロイジウスさま、パウリーネさま。……本当に、ご参加されないのですか?」

「今更面倒くせえよ。ジネット、何か聞かれたら、腰が痛いとか首が痛いとか……まあ、適当に言い訳しといてくれや」

「だそうよ。伝言、よろしくね」

「は、はあ……」


 当然ながら、アロイジウス家にも招待状が届いていた。

 お二人が夜会の場に居て下さるととても心強かったんだけど、東方辺境は若い人達に任せたと参加をご辞退されている。


「大丈夫よ。あなた達のことは、ヨゼフィーネ夫人にもよくお願いしておいたから」

「まあ、何とでもならあ。そうだ、あいつにも一言、頼めるか? 『いつまでも、老いぼれに頼ってんじゃねえぞ』ってな。それで分かるはずだ」

「……はい」


 思ったよりも真面目な表情のアロイジウスさまに、わたしは小さく頷いた。


 ここのところのお二人には、本格的な引退――静かな暮らしを望まれているんだろうなあと感じることが多い。


 それは……わたしやユリウスの都合で、表舞台に引っぱり出しちゃいけないということ。


 ご活躍を考えればまだまだ頼りたくなるのも当然だけど、お年に目をやれば、もちろん無理をさせられないし、わたし達が頼りないのがいけないとも思う。……これも一度、ユリウスと話し合う方がいいかもしれないね。


「じゃあ、出しますぜ。はいや!」

「いってきまーす!」


 ふぃあー!


「……」


 夏の朝日の向こう、背の高い雲が遠くに見える。

 ルーヘンさんの荷馬車はわたし達を乗せ、いつもの道をかたかたと進んで行った。




「お疲れさまでした!」

「ありがとうございます!」


 夕方の少し前、無事ヴェルニエに着くと、ルーヘンさんは代官屋敷の前まで送ってくれた。

 さあ、いよいよだ。


「おう! ……俺もこの仕事は長いが、代官様のお屋敷に乗りつけるのは初めてだよ」

「あはは。これからもよろしくお願いしますね」

「いやいや。流石になあ、男爵夫人が荷馬車に揺られるのはどうかと思うんだ、ジネットさん……」


 わたしは全然気にしないけれど、だからと押し通すのも良くないか。

 それを見た他の人がどう思うか、少し考えればわたしにも分かってしまった。横紙破りも平気な男爵夫人なんて、そこだけ聞けばとても好きにはなれないよね。


「まあ、どうしてもうちをお使い下さるってことなら、俺が箱馬車借りて来れば済むわけで、今後ともご贔屓に!」

「はい、ルーヘンさん!」


 ルーヘンさんは、荷運びを通してシャルパンティエ領を支えてくれる大事な人だからね。もちろん、これからもご贔屓にしますとも。


「アリアネ、フリーデン。……行くよ!」

「はいっ!」


 ふぃっ!


 今日のところは、ユリウスと最後の打ち合わせをするぐらいしか、予定を入れてないけどね。

 門衛さんに来訪を告げると、そのまま奥の方へと案内され、すぐにユリウスと再会することが出来た。流石に数日泊めて貰っていたお陰か、顔を覚えて貰えたようだ。


「おお、待ちかねたぞ!」

「うん、お待たせ!」

「そうだジネット、ここに来て少々困ったことになってな。代官殿と二人、頭を痛めているのだ。……ああ、先に挨拶を済ませるか」


 アリアネとフリーデンは、ユリウス……というか、レーヴェンガルト家の接待役に付けられていたメイドさんに預けて、先に代官夫妻へとご挨拶に赴く。


 でも、困り事ってなんだろう?

 聞く前から遠慮したいけど、逃げられないんだろうなあ……。


「お久しぶりですな、『男爵夫人』」

「はい、またお世話になります」


 今はもう、男爵夫人と言われても照れないで済む。……お客さんにはさんざん言われたから、もう慣れちゃったよ。


 夜会の主催はヴェルニエの代官様で、そちらは心配していないけれど……。


「ところで『旦那様』、問題とは何でしょう?」

「明日、リヒャルト殿下やマリアンヌ・ラシェル殿下とともに、お付きの一行も到着する。無論、それは当初より予定の内だったが、つい昨日、楽団も含まれていると分かってな……」

「へ……!?」

「夜会でダンスなど、この東方辺境に本格的な入植が始まって以来、幾多行われた夜会では一度もなかったはず。まともに踊れる者など、王都出身の私達夫婦とシェーヌの代官夫妻ぐらいで、ほぼおらんでしょうな」


 踊れないのがわたしだけじゃないと分かって、少し安心……してる場合じゃないや。


 ユリウスどころか代官様さえ頭を抱えているのでは、本当に手の打ちようがないんだと思う。

 わざわざ楽団を連れてきてくれたリヒャルトに恥を掻かせるということが問題になるのだと、ユリウスが説明してくれた。


「あの……わたしから、リヒャルト殿下にこっそりとご相談してみましょうか?」

「ジネット殿!?」

「もちろん、こちらの事情をそっくり全部お話しして、お伺いを立てるというかたちにしか出来ませんし、それで上手くいくという保証もありませんが……」

「……その手しかないか」


 リヒャルトにお願いをするにしても、こっちから無理を言えるわけがない。相談して、一緒に考えて貰うのがせいぜいだ。


 今から招待客の皆さんを集めてダンスの練習をしても間に合うわけがないし、何もしないよりはいいんじゃないかな、ぐらいのつもりだけどね。


「流石は『洞窟狼の懐刀』であられる! それだけでもおすがりしたく思います! このご恩、ゼルギウスめは決して忘れませぬぞ、男爵夫人!」


 そんなに大喜びされても困るけど、わたしだってそのままじゃ困るものね。


 でも、何とか出来ると言わないまでも、上手い落としどころを考えつかないと、それこそみんなが困るわけで……。


 リヒャルトが恥を掻かないで済むような方法で、ダンスそのものがなくなるような手を思いつければいいんだけど、どうかなあ。


 なるようにしかならないだろうとは思いながらも、そのリヒャルトならいい知恵も貸してくれそうな気もしていたりする。


 ユリウス達には言わないけれど、そのぐらいにはリヒャルトを信頼しているわたしだった。




 翌朝は、白いパンだけじゃなくて卵まで付いたかなり豪勢な朝食を戴いた。


「朝から卵って、ちょっとすごいね」

「精がつくからな、縁起を担いでダンジョンに潜る日の朝、食べるような冒険者もいるが……まあ、贅沢品には違いないか」

「……鶏ぐらいならシャルパンティエでも飼えそうだけど、餌を運んで貰わなきゃいけないから、余計高くついちゃうかな?」

「世話する者をどうするかだな……。鶏小屋ごと孤児院に寄付してもいいが押しつけになってはいかんし、儲けが出るとは限らぬぞ」


 食べているのが続き部屋になっているユリウスの部屋だから、こんな会話もできるんだけどね。


「今日のユリウスの予定は?」

「明日の昼に行う諸侯軍解散式の準備とリヒャルト殿下のお出迎え、シェーヌより代官リュッセルスブルク男爵も到着される故、夜は三頭会談が組まれている。ああ、殿下のお出迎えには、ジネットも立ち会ってくれ」

「うん。夕方の予定、だよね?」

「うむ、頼んだぞ」


 あ、そうだ。

 伝言、頼まれてたっけ。


「ユリウス、アロイジウスさまから伝言をお預かりしてるのを忘れてたわ。『いつまでも、老いぼれに頼ってんじゃねえぞ』って。伝えれば分かるって聞いたけど……」

「……うむ、確かに聞いた。すまんな、ジネット」


 うーん、何か二人で密談でもしてたのかな? ユリウスの目が少しだけ真剣になった。


 まあいいか。

 必要ならわたしにも教えてくれるだろうし、お昼のうちは、わたしも少しだけ忙しい。


「ジネットは服屋か?」

「うん。朝のうちに支度だけでもしておかないと、間に合わなくなっちゃう」

「『大輪の白百合』には俺も注文を出していてな、ついでに引き取ってきてくれ。たぶん、馬車を出してくれるはずだ」

「はあい」


 ユリウスも頑張ってねと頬に口づけを贈り、軽い身支度をしてアリアネを迎えに行く。


「お待たせ、アリアネ」

「はい、ジネット『お嬢様』!」

「ちょ、アリアネ!?」


 代官屋敷の人々にも屋敷さえ持たないレーヴェンガルト家の内情は知られているのか、アリアネにもメイドのお仕着せが用意されていたようで、少し情けない気もするけれど、今はありがたくご厚意を頂戴しておく。


 ……誰かが注意してくれたのかな、アリアネに『お嬢様』と呼ばれるのはとてもこそばゆいけど、これはしょうがないか。いつもの『ジネットさん』じゃ、アリアネが物知らずの礼儀知らずと思われて、彼女にとってもわたしにとってもよろしくない。


 内々にお世話になっただろう年かさの執事さんやメイドさんにお礼をした後、わたしはアリアネを連れて『大輪の白百合』服飾工房へと向かった。


「でもすごいですねえ、代官様のお屋敷って。お祝いに出す料理の練習だったそうですけど、下働きじゃないわたしにも、朝からこーんなに分厚いハムを食べさせてくれたんです!」

「へ、へえ、よかったわね、アリアネ……」


 たぶん、それ以上に豪華な朝食を戴いたわたしには、満面の笑みを浮かべたアリアネがまぶしすぎる……。


 もう、そんなことを気にしていられない立場だけど、割り切れないことも多いわたしだった。




「すごく立派な建物ですね……」

「改めて見ると、ほんとに大きいわね」


 東通りに面した邸宅街と商業区の境目に、『大輪の白百合』服飾工房の店舗はあった。工房の作業場は別にあって、流石は大店と小さくため息をつく。


「失礼致します、あの……」

「お待ちしておりました、ジネットお嬢様」

「さあさあこちらへ、奥の間にご用意が調えてございます」


 前回、シャルパンティエまで来てくれたダンクマールさんが待ちかまえていて、わたしとアリアネはそのまま接客室へと引っ張り込まれてしまった。


「まずはこちらのご注文品、普段遣いのお召し物の一つ目から見ていただきましょう」

「へ、一つ目!?」

「パウリーネ夫人からは、ひと揃いのご注文を戴いておりますが……?」


 わたしは下着だけ受け取るつもりだったから、とても慌てた。

 結婚のお祝いに贈らせて貰うから安心なさいと先に言われていたので、お金の心配はしていなかった。


 けれども納品書の品書きを見れば、逆に不安になるほどの数が用意されているようで、血の気が引いて気絶しそうだ。


「代金も既に頂戴しておりますから、受け取りの了承を戴かないことには、こちらと致しましてもどうして宜しいか……」


 とりあえず、曖昧な表情のままにうなづけば、これがもう、後から後からお出しされてくる。


 明らかに上等な普段着が三着に、わたしから見ると少し短めのドレスにしか見えない略礼装にも使える訪問着が春夏秋冬の四着、もちろんそれらに合わせたブーツや短靴、編み上げのサンダルまで揃っている。


 それに加えて、紐が多すぎて毎回着る時にあれこれ迷いそうな下着が五組、もちろん、『ちょっと苦しい』コルセットの入った衣装箱まで持ち込まれたあたりでわたしは深く考えるのをやめ、品物を見ては頷くだけの首振り人形になった。


 下手をするとわたしの部屋に入りきらず、冬場の在庫の積み上げに影響が出るんじゃないかなあ、これ……。


「そして最後、こちらがお預かりしておりました『星の大河』でございます」

「うわ、お姫様みたいです!」


 前に試着させていただいた、藍と星のドレスが広げられる。


 あの時には考えもしなかったけれど、とても失礼なことながら、今日用意して貰った他の衣装と比べればこの『星の大河』は確かに存在感が違いすぎた。


 気後れしても今更で、もうわたしに譲られてしまっていて、このドレスがないと夜会には出席できない。


 つまりはユリウスの隣に居るために必要な、『装備品』だ。冒険者の装備品にたとえるなら、それこそユリウスの腰の剣や鎧と同じぐらいの逸品じゃないかな。


「夏用のこれ、ここで着せて貰ってもいいですか?」

「はい、もちろんでございますとも! この後、早速ご予定が?」

「リヒャルト殿下のお出迎えには、必ず参列するようにと」

「おお、素晴らしい! 王子殿下の御前にてお目見えを許されるお嬢様を飾らせて戴けるとあれば、腕の振るいどころでございます!」

「それから、こちらも引き取るようにと、旦那様より預かって参りました」


 ユリウスから持たされた預かり証書をダンクマールさんに見せれば、心得ましたと力強く頷いてくれた。




 ダンクマールさんが一旦退席すると、数名の女性がすぐに飛んできて、わたしはまたお人形さんにされてしまった。


 夏用にと用意されていた淡い緑色のドレスはもちろんわたしの為に誂えられたもので、薄くて肌触りも良ければ風通しもよく、羽根でも生えたように軽い。


「お嬢様、半分ほど右にお顔を向けて下さいまし」

「御髪を少し、引かせていただきますね」


 あっと言う間にお化粧を直されて髪も結われ、手足までぴかぴかに磨かれる。くすぐったいけれど、そんな反論が許されないほどにお世話係の人達の目は真剣だ。


 最後にしゅっと一吹き、上品な香水をまとってヤネット・フォン・クラウスお嬢様が出来上がった。


「いい仕事をさせていただきました!」

「ジネットさん、綺麗です!」


 アリアネは元の口調に戻るほど喜んでくれていたし、お世話係の女性陣も満足げに頷いてくれたけれど……。


 大鏡に映し出された自分を見て、最初に思ったのが『誰、これ?』だったのは、許して欲しい。


 本職の髪結い師さんに髪を整えて貰ったのなんて生まれて初めてだし、お化粧術も元冒険者だった母さんからの手習いで……そもそもこんなに着飾る必要なんて、下町育ちのわたしには生まれてこの方なかったものね。


 わたしが一番驚いても、しょうがない。


 但し、お世話係さんの努力は本物だった。

 鏡の中のわたしは、それこそ何処のご令嬢かと思うほど……綺麗だった。人目がなかったら、あーとかうーとか意味にならないことを口にしながら転げ回って照れていたかもしれない。自分らしくないなあとは思うけど、そのぐらい驚いたし、同じぐらい嬉しい。


 ユリウスも喜んでくれるといいんだけど……あまりに行きと見た目が違いすぎて、気付かれなかったらどうしよう?


 ……なあんてことを考える余裕だって、出てきたぐらいだ。

 とにかく今日一日、この姿で難題を乗り切って、明日の本番を迎えたい。


 これで終わりかなと、再び呼ばれたダンクマールさんに挨拶しようと立ち上がれば、まだ終わっていなかったらしい。


「おお、よくお似合いですぞ! では、最後の仕上げと参りましょうか」

「はい!?」


 これ以上まだあるんですかと、口元から出かかった続きをどうにか押さえ込む。


 ぱんぱんとダンクマールさんが手を叩けば、別のお世話係の人が、銀飾りの付いた大きめの木箱を捧げ持って入ってきた。


「こちらの箱の中身が、レーヴェンガルトの男爵様よりご依頼を頂戴いたしました宝飾品でございます」

「……え?」

「宝玉は全てお持ち込みでありました上、意匠も作りもお任せとのことで、それはもう職人達が張り切りまして……」


 箱の中には大小数点のとんでもなく高価そうな宝飾品が並んでいて、そのどれもに見たこともないほど大きな宝石が輝いている。


 これを、わたしに!? ユリウスが……?


「一番大振りな翠玉は数点の金剛石と共に大夜会用のネックレスに、二番目に大振りだった聖印石は気を張らないお出かけなどに合わせたネックレスにと、それぞれ仕上げさせて戴きました。またこちらの指輪は額環と揃いになっておりまして――」


 会心の笑みを浮かべたダンクマールさんの説明が続く中、今度こそ、そのまま気絶したくなったわたしだった。


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