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シャルパンティエの雑貨屋さん  作者: 大橋和代


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第六十八話

 ダンクマールさんに頼んで馬車を出して貰い、大荷物と一緒に放心して使いものにならないわたしも一緒に乗せて貰う。……あー、バネもよく効いてて乗り心地もいいね、この馬車。


「大丈夫、ですか……?」

「……お屋敷に着くまででいいから、ちょっと休ませて」

「はい、お嬢様」


 ぱたぱたと、アリアネが手で扇いでくれるのが気持ちいい。


 それにしても……。

 馬車のがたごとに合わせて揺れる、聖印石のネックレスに手をやって考える。


 お屋敷を建てる余裕がないとよく口にしていたし、先日の戦でも沢山の冒険者も雇っていたユリウスのお財布は、ほんとに大丈夫なのかな?




 わたしに宝飾品なんて贈る余力なんて――もちろん嬉しいんだけど、本当になさそうで少し心配になっていた。


 お礼を口にしてから、きちんと確かめようと思う。


 ユリウスの金遣いの荒さ……って言っちゃうとどこかの駄目男みたいに思えてくるけれど、普段から大層なお金を使っていることも間違いない。そこには元一流冒険者として身に着いた流儀もあったし、それだけの財産はきっちり稼いでいた彼だった。


 でも、明後日からは夫婦になるし、今後はわたしにも納得できるぐらいにはお財布の紐を締めて貰いたいなあ、なんて……思ったりもするわけだ。


 だからって、頭ごなしに決めつけていいわけじゃなかった。

 母さんの受け売りだけど、『男の人だって、見栄を張りたいときがある。隠し事だっていっぱいで、それは女だって同じでしょ。それも含めたお互いの釣り合いが肝心なのよ』、ということらしい。


 釣り合いは……正直なところ、取れているとは言い難い……かな。


 ユリウスに出会わなかったら、今のわたしなんてそれこそ……ううん、こんなことは考えても仕方がないか。


 今のわたしが、ユリウスと釣り合いがとれるように頑張ればいいんだってこと。


 それに……ユリウスだって、わたし『と』釣り合いがとれるように、気遣いをしてくれているなあと感じることもある。


 例えば……ユリウスがわたしの前で腰の剣を抜くことは、滅多にない。

 たった一度だけわたしの目の前でその禍々しい剣を抜いたのは、わたしを守るために人喰い熊を倒した時、その一回きりだ。


 でも、今は広場になっている領主の館の予定地で、冒険者を相手に稽古を付けている時には、剣術の手本をその剣で見せることもあるらしい。


 ……わたしは街人として人生を歩み、ユリウスは冒険者を生業にしてきた。


 冒険者という職業への理解はあるけれど、魔法が飛び交い剣と剣が交差する戦場とは無縁だったわたしには、その常識さえも分からない、恐い世界でもある。


 もちろん、今から冒険者になるなんて無理だけど、今までよりも、少し深めに考えておく方がいいような気もしていた。




「ジネットお嬢様、お屋敷に到着しましたよ」

「……ありがと、アリアネ」


 荷物の方は御者さんと代官屋敷の人が運んでくれる……というより、わたしが運ぶと仕事を取ってしまうことになるので、場をアリアネにお任せしてユリウスの元へ向かう。


「ただいま、ユリウス」

「う、うむ……」


 一瞬だけぽかんとした表情でわたしをじっくり見たユリウスは、目が泳いだ後、窓の方へ視線を逸らしてしまった。


「……に、似合うかな?」

「無論だ! あ、いや、すまん。……綺麗だ」

「あ、ありがと」


 ……いざ言われると、こっちまで照れくさくなるよ。

 少し冷静になって、頭を切り換えよう。


「あのね、ユリウス。大事なお話があるんだけど、いい?」

「ああ、構わんぞ」

「このネックレスなんだけど……無理してない?」

「無理はしていない」

「でも……」


 ユリウスは、小さくため息をついてわたしに向き直った。


「ふむ。……金に関しては心配性の過ぎるジネットなら、必ず費用のことを聞いてくるだろう、とは思っていた。下手をすると、そのまま突っ返されるかもしれぬし……」

「……うん」


 よく分かってくれてる。……あんまり嬉しくないけど。


「だからな、俺も少しは考えた」

「えーっと?」

「ジネットに贈った装飾品には、一ペニヒも支払っていないのだ」


 どうだと言わんばかりに、ユリウスはふんぞり返って見せた。


「まさか……お金をまだ、払ってないの!? 借金は嫌いって言ってたよね?」

「いや、そうではない。手持ちの宝石の幾つかを持ち込んで店主に相談したのだが、小さい宝石二つで加工賃は相殺してくれることになってな」


 わたしが聞きたかったのは、そう言う事じゃないんだけど……。


 表情を改めたユリウスが立ち上がり、大きな手でわたしを抱き寄せた。


「ジネット、怒らないで聞いて欲しいが……どうやってジネットに受け取らせようか、あれこれ言い訳を考えているとな、とても楽しかったのだ」


 わたしも大きな胸板に、両手を回した。


 ……大きすぎて手が回りきらないけれど、もう慣れている。


「このネックレスは無論、俺の嫁たるジネットに贈った物だが、色々と思案するうちに、出来るならば……ジネットがこれこの時と決めて手放してくれるなら、これほど素晴らしいことはない、とも思ってしまったのだ」


 なんだか、とんでもないことを言い出しそうなので、少し身構えておく。

 ユリウスからわたしに宛てて贈られたものなんて、ユリウスから本気で頼まれたって絶対に売ったりしないと思うんだけど……『素晴らしい』って、何?


 どうしてそんな言葉が出てきたのか、ついていけない。


「……例えが広がりすぎて、よく分からないよ」

「すまん、自分でも止められなかった。だが、聞いて欲しい」

「うん」

「何年先かは想像もつかぬが、俺とジネットの子が生まれたとして……大人になれば恋の一つもするはずだ。やがてその子に子が産まれ、孫も生まれようが……代わりに俺やジネットは老いて世を去るな」

「……」

「だが、そのうちの誰かに、ジネットがこれと決めた誰かに昔話を添えて品を贈り受け継がせるならば、俺達の血だけでなく思い出も一緒に残ると気付いた」


 あー、うん。

 ユリウスの言いたいことは、よく分かったよ。


 ……お婆ちゃんのわたしが、孫に昔語りをする姿まで浮かんでしまった。


「どうだ、素晴らしい思いつきだろう?」

「うん、うん……」

「ならば、素直に受け取ってくれるな?」

「うん!」


 わたしは両の手に、ぐっと力を込めた。

 お金のことは、今じゃなくてもいいや。




 ……二人でそんなことをやっていたものだから、お昼は食べそびれてしまい、リヒャルトの先触れがやってくる時間になってしまった。


 一つ向こうの宿場から馬車でヴェルニエに来るなら、お昼過ぎなんていう時間にはならないんだけど、そこはそれ、王族は特別だ。


 車列は前日に宿場を出てヴェルニエにほど近い郊外でわざわざ一夜を明かし、時間を合わせて竜騎士がリヒャルトら主賓を乗せて合流、車列に迎え入れている間にお役目の騎士様が先触れとしてこちらにやってくるそうだ。


 なんでも一泊した郊外の広い丘が東方辺境諸侯軍解散式の会場になるそうで、そちらの設営もお仕事になってるから、都合がいいんだって。


「まもなくですぞ、皆様方」


 代官屋敷の門前には、迎え役として三人の男爵夫妻と衛兵隊長さんが、ヴェルニエ衛兵の半分を並べて待っていた。……残りの半分は、冒険者と共に沿道の整理と警備に当たっている。


 でも……。

 お二人の代官は礼服、わたしも含めた夫人方はドレスなのに、何故かユリウスはいつもと代わり映えのない黒い鎧姿だった。


 あ、マントだけは新品かな? 魔法のお品じゃなさそうだけど、見慣れない濃い赤でちょっと上等な縫製に見える。


「ユリウス」

「……うむ?」


 前を向いたまま、小声で話し掛ける。


「もしかして、礼服の用意が出来なかったの?」

「これも礼装扱いだ。俺は形式上、武官になるからな」


 東方辺境諸侯軍の司令官閣下がそう仰るなら、いいんだけどね……。


 騎士様と車列の距離は形式が優先らしく、旗手と喇叭手を従えた伝奏役の騎士様のうしろ、見える距離にはもう車列の先頭が来ていた。もちろん、沿道である大通りには、大勢の見物人が集まっていて騒がしい。


 そうこうするうちに、もう騎士様が目の前までやって来た。

 喇叭が数小節吹き鳴らされ、大きな旗がぐるんと振られる。


「上意にて馬上より御免! リヒャルト王子殿下ご一行、まもなくのご到着!」


 大音声を上げた騎士様は、そのまま馬から『落ちた』。


 もちろんこれはヴィルトール王国独特のお約束事であり、伝奏役一番の見せ場だ。予め聞いていなかったら、わたしもものすごく驚いたかもしれない。


 故事に倣い、力尽きて倒れるほど懸命に馬を飛ばしてきましたと、わざわざ落ちてみせるそうで、伝奏役に選ばれることはとても名誉なこと……らしい。落ち方にも流派があるとまで聞かされると、呆れの方が先に立つけれどね。


 わたし達が跪くと、喇叭手さんがもう一度高らかに出座の調べとやらを演奏し、辺りがしんと静まり返る。


「出迎え、大儀である」

「リヒャルト殿下のご来駕を賜る栄誉を、国王陛下と聖神に感謝いたします。遠路ようこそお越し下さいました、王領都市ヴェルニエの代官、ゼルギウス・ユルゲン・フォン・グリュンタールにございます」

「善き哉」


 リヒャルトが手を貸してマリーを下ろすと、出迎え組と護衛の騎士は隊列を組み替えた。




 予定ではこのまま、応接室で挨拶をしてから客間でお休みいただくことになるんだけど……いつ話し掛ければいいんだろう、これ?


 大きな応接室で型どおりの挨拶と予定の確認が済むと、一度解散になった。


 ユリウスに目配せをしてみるものの、王子様一行のまとめ役だった伯爵様に捕まっている。


「ジネット殿、お久しぶりです」

「え、ウーヴェ様!?」


 思わぬお声掛かりに振り返れば、いつぞやシャルパンティエまでお越しになられた騎士のウーヴェ様がいらした。


「今回の訪問先も同じ東方辺境ということで、めでたく護衛に指名されたのです。残念ながら伝奏役は取られてしまいましたが、まあ、役得ですな」


 ここはもう、頼らせて貰うしかない。ご本人とは親しくても、いきなりリヒャルトのところに押し掛けるなんて出来やしないものね。


「あの、ウーヴェ様、少しご相談が……」

「はて?」


 楽団のことやリヒャルトの立場など、短くまとめた相談内容を包み隠さずぶちまける。


「……そのような理由であれば、殿下の御許にご案内いたします」

「お願いいたします」


 とても分厚い壁に囲まれていたけれど、ほんの少し光が射し込んだような気分だ。

 ウーヴェ様について廊下をすたすた歩きながら、何から話そうかと考える。


「職責にて誰何致す!」

「騎士ウーヴェ、勲爵士ヤネット・フォン・クラウス殿を案内して参った」

「了解、感謝する!」


 最初からわたしをここに連れてくるのが予定のような口振りで、騎士ウーヴェは誰何に答えた。本来の職責をまげさせているわけで、多少申し訳ない気分だ。


「ヤネット殿、リヒャルト殿下はお会いになると仰せです。お部屋には現在、マリアンヌ・ラシェル殿下もいらっしゃいます」

「ありがとうございます」


 わたしは騎士ウーヴェに目だけで挨拶した。そのまま、案内を引き継いだ護衛の騎士様に続いて入室する。


 控えの間の扉が開かれると、リヒャルトとマリーがくつろいでいた。


「ジネットさん、お久しぶりです!」

「ジネット姉様、丁度お呼びしようと思ってたんですよ!」


 跪く前に飛びついてきたマリーに手を引かれ、そのままソファに座らされる。

 流石に案内の騎士様は、目を白黒させていた。


「ああ、下がってよし。彼女は私の師であり、また、マリー殿下には姉も同然の女性である」

「はっ! 失礼いたしました!」


 どうにか気を取り直した様子で退出された騎士様に、心の中でごめんなさいと謝っておく。……後でウーヴェ様にも説明をお願いしておいた方がいいかもね。


 それにしても、王子様の師匠で王女様の姉って……わたしは何者だろう?


「姉様、ご結婚、おめでとうございます! 夜会も楽しみですが、わたくし、結婚式も楽しみで仕方がないのです!」

「ありがとう、マリー。アレットも連れてこられれば良かったんだけど、お店を閉めるわけにはいかないから、ごめんね」

「フランツ達は元気にやってますか?」

「ええ、とても元気よ。それに、アリアネならこのお屋敷に連れてきてるわ」

「アリアネが!? 後で絶対に呼んで下さい、姉様!」

「じゃあ……そうね、お手紙でも持たせるから、上手く計らって頂戴ね」


 このまま楽しく談笑していたいけれど、本題を切り出す。


 東方辺境では夜会はあっても舞踏会が行われないこと、仮に行ったとしても踊れる者がほぼいないこと、そのお陰で楽団を連れてきたリヒャルトが恥を掻くかもしれないこと……。


 二人は静かに、わたしの話を聞いてくれた。


「このこと、だったのか……」

「リヒャルトさま?」


 リヒャルトはとても真剣で大人びた表情を見せ、わたしをしっかりと見据えて頷いた。


「……楽団の一件、恐らくは父上の差し金だと思います」

「『白竜王』陛下の!?」

「まあ!」

「出立の前、わざわざ皆の前で『東方辺境には楽士が少ないので連れていくように』と。理由は僕への試し……課題、でしょう」


 リヒャルトも苦労してるんだなあと、わたしも小さくため息をついた。将来を思ってのことだろうなあと想像が付くけれど、とても酷な課題だ。


「その場で問題に気付くことなく、理由を述べて断りを入れなかった……僕の責任です。本当にごめんなさい、ジネットさん。皆さんには僕からお詫びを……」

「もうちょっとだけ、考えようよ。今日一日は余裕もあるでしょ?」

「ええ、まあ……」


 こういう時は、諦めたら終わりだ。


 虹色熱の一件で、みんなで知恵を出し合うといい答えが出るかもしれないってことを、わたしは学んでいた。




 ユリウス達を巻き込む前に、問題点だけでも先に出しておこうと、三人で頭を寄せる。


「確認だけど、まず……辺境側は、リヒャルトに恥を掻かせたくないと思ってる」

「ありがたいことだと思います」

「但し、踊れるのは王都出身の代官夫妻と、ゼールバッハ侯爵コンラート様ぐらいね」

「こちらの側も……僕やマリーはともかく、騎士の半分はたぶん踊れません」


 人数の問題じゃないけれど、辺境貴族の代わりに騎士を会場に入れて見栄えだけでも……ああ、お相手の女性が全然足りないや。


「楽団に、舞踏曲抜きの夜会曲だけを演奏させるわけにもいきません。国王陛下のお声掛かりもありますから、今度は楽団の面子を潰してしまうことになります」

「そっか……」

「姉様、一番簡単なステップだけを明日の夕方までに練習して、覚えて貰うわけにはいかないでしょうか?」

「夜会の直前に到着する方もいらっしゃるから、難しいわね。練習が出来なかった方々に恥を掻かせちゃうもの」

「そうですか……」


 はあっと三人、揃って顔を見合わせる。


「……ねえ、マリー」

「はい、姉様?」

「さっき口にしかけた、一番簡単なステップって……すぐに覚えられるの?」

「たった一つのステップを覚えるだけなら、半日もいらないと思います。綺麗に踊ろうとすれば、一年二年でも練習の時間が足りませんけど……」

「……明日どころか、来年でも間に合わないわね」


 やっぱり無理かな……。


 リヒャルト、東方辺境、楽団、三者の面子を立てる落としどころが上手く見つからない。


 他に関係する誰かと言えば『白竜王』陛下になるけど、三者を四者にしてみても、混乱するだけだよね。


 ううん、そうじゃないかも。

 リヒャルトにこの課題を出されたのは、『白竜王』陛下だ。


「リヒャルト、『白竜王』陛下は他に何か仰られてた? 特に、東方辺境やリヒャルト自身に関係するようなことって、何か思いつかないかな?」

「東方辺境のことならこの旅の目的の一つですから、色々と……あ!」

「どうかなさったのですか、リヒャルトさま!?」

「……何か、思いついたのね?」

「はい」


 力強く頷いたリヒャルトの目に、迷いはなかった。


「明日、発表する予定なのですが、近い将来、東方辺境が東方辺境でなくなるかもしれないんです。この戦勝の勢いに乗じて人の住む領域を押し上げる、王国を挙げての大計画で……砦を築き、街や村を興し、十年後には百リーグ向こうに、百年後には千リーグ先にまで東方辺境を広げれば、この辺りはもう、辺境じゃなくなってしまいます」

「えーっと……」


 話が急に大きくなりすぎて、ついていけない。


「おそらくこの辺りの地は中央東方、あるいは単に中部と名が変わるでしょう。その頃には、現在の北方辺境とまでは行かずとも、経済的にも文化的にも一段進むはず。父上は、その種を蒔いてこいという意味を込め、楽団を同行させたのだと思います」

「……つまり?」

「最初から上手にダンスを踊れる人なんて、いないんです。僕やマリーだって、沢山練習しました。他の皆も同じです。だったら……」

「皆で練習すればいいのですね、リヒャルトさま!」

「うん。楽団も連れて来たし、一番簡単なステップなら僕やマリーにも教えられる。文化の庇護者、あるいは伝道者として父上や僕の顔も立ちますし、楽団にも恥を掻かせずに済みます。東方辺境の皆さんは、その初回に参加したという名誉のみで苦労していただくことになりますが……」

「ふふっ、王子様や王女様から直接ダンスのご指導を戴くなんて、たぶんみんな、末代まで自慢して語り継ぐわよ!」

「ジネットさん!」

「さあ、行きましょ。早速ユリウス達を巻き込まないと。マリーもお願いね」

「はい、姉様!」


 これ正に、正道なり。


 関係者の面子は守られるし、土産話にもなるなら最高だよ。


 リヒャルト、あなたはやっぱり人の上に立つ王子様だったね。




 三人でユリウス達のところに戻り、関係者を呼んで貰う。


 わたしとユリウスを含めた三組の男爵夫妻、楽団長、リヒャルトの守り役ブルグスミューラー伯爵、マリーの守り役ラ・ファーベル男爵夫妻。……二組ほど、まだ夫婦じゃない組み合わせが混じっているけど、それは些細なことだ。


「なるほど、踊れぬ恥を恥とせず、逆手に取って皆揃って練習する機会と捉えるのですな」

「しかも、殿下御自ら講師役をお引き受け下さると……」


 リヒャルトが朗々と理由を並べ立て、大人達を頷かせるのに時間は掛からなかった。


 王様の課題という部分は伏せてあるけれど、東方辺境の領域が広がる大計画の話に、みんな目の色を変えている。こちらの正式な発表は明日で、解散式で内示、夜会の最初に大々的な発表を行うと修正されることに決まった。


「ゼルギウス殿、式次第の組み替えまでは必要ないだろうが、参加者には前もって告げておく方がよいだろうか?」

「一言でよいでしょう。『名誉だ』と」


 動き出してしまえば、後は勢い、かな?

 ほっと一息ついて、ユリウスのそばに行く。


「ジネット、面倒を押しつけて悪かったな。助かったぞ」

「ううん。リヒャルトのお陰だよ」


 結局、わたしも踊ることになっちゃいそうだけど、今はもう、『踊れないのにどうしよう?』という悩みは、綺麗さっぱり消えていた。

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