5. 模擬トーナメント
6日後の早朝、ぶどう組全員が中央広場に集まった。これからトーナメントが始まる。
ルールとしては実際の戦闘と同様、力尽きたほうが負け、
にしたかったが試合が長引きそうなことと、戦闘が白熱しすぎて生徒の身に何かあったときにモンスターペアレントに対応することを嫌ったプーリムは、円を地面に書きそこから先に出たものを敗者とした。
そして今から始まる試合はクトル 対 シアンだった。
プーリム「両者、円の中に。」
(こういうのって普通、
決勝で会おう、シアン君。キリッ。
ってやつだよね。何で初戦。正直勝てるビジョンないんだけど)
(丁度いい、ぼこぼこにしてついでに恐怖も植え付けてやろう)
両者位置につき、模擬戦闘が始まった。
「両者、始め。」
(僕はこの六日間、教官のところに入り浸って訓練したんだ。3日目くらいから嫌な顔され始めたけど。
そして言われた、教官はこの中で一番伸びしろがあるって。そして一番強くなれ…)
そんなことを考えているうちにものすごい速さで後ろに回り込んだシアンに回し蹴りをされ場外まで吹っ飛んだ。
(いや、決着はや)
のように見えた。
バン!
壁にぶつかるような音がしてクトルの体は円ギリギリで止まった。
「いってぇー。」
(なぜだ。なぜ場外へ出ない。あいつは雨雲しか使えないはず。まさかこの6日間で新たな祝福の使い方を。探らねば)
予想外にシアンは思考を巡らせていた。
(早々に終わってたまるか!こっちはシアン君の弱点も考えてきたんだ。
シアン君の欠点はその祝福自体にある!攻撃を加速して行うけど、速ければ速いほど攻撃のスピードを止めるのが難しくなる。つまり、一発避けたら隙が大きいってことだ。
そのすきを狙う!)
クトルはシアンの懐に潜った。
行動の意外さに多少ビビったシアンは直ぐに反撃をした。ただ、クトルはそれを待っていた。シアンの右フックをかいくぐり、がら空きになったシアンの腹に向けて自慢の拳をぶつけようと顔を上げた。
「渾身の一撃!くら...」
しかしクトルの顔の横にはかかとがあった。
クトルはまたもシアンの回し蹴りをくらった。クトルは円の縁に飛んだが、またも体が壁に当たったように止まった。
(なるほど、ね。勢いを消せない攻撃は、体に縦軸をつくり、それを中心に回転することで後隙を軽減して、さらに次の攻撃につなげるってことか。右フックのスピードを生かした回し蹴り。
じゃあこの試合きついかも)
クトルが何かに気づいたようにシアンもクトルの謎に気づいていた。
(わかったぞ。あいつは空気抵抗を変えている。だから急に止まることができる。
...てかなんで2つ目に覚えるのが空気抵抗なんだよ。そこは風とか雷とかだろ。なんか地味で嫌い)
またクトルが突っ込んできた。今度は冷静に回し蹴りで対処した。
に思えたが、攻撃が入ったのは二人同時だった。
(な、んで。俺の方が速いはずなのに!あいつスピードをつけたのか!?どうやって!?)
クトルが再び突っ込んでくる。シアンは応戦するが次第にクトルの方が速く攻撃を入れるようになった。気づいたらシアンは劣勢になっていた。
(クトルが速くなってるんじゃない、俺が遅くなっているんだ!俺の足や腕の空気抵抗を大きくしてスピードの差を埋めているんだ)
今まで舐めていた相手に怒りを覚えたが、それよりもクトルの姿勢に尊敬をしていた。自分と圧倒的に実力が離れていると感じても、その場その場で自分ができる工夫を熟して実力差をひっくり返そうと。
少し悩んだがシアンなりの礼儀を示すことを決めた。
(クトル、お前に敬意を表する。楽に勝てる相手だということを取り消すよ。今から手加減はなしだ)
クトルの方に向けてまた回し蹴りをくり出した。クトルはシアンの左足の空気抵抗を大きくしたがそれでもシアンは止まらなかった。
(なんで減速しないの!むしろ加速を...)
バキッ!!
鈍い音が響いた。
クトルは蹴りをくらった瞬間に気絶し、そのまま場外に飛んで行った。
(今までは4倍だったが、今回だけ32倍のサービスだ)
「止め。勝者シアン。メイズ、治療だ。」
「はぁい」
メイズはクトルの傍にいき、頬を叩いた。
「ちょっとー、気絶してると私の祝福使えないんだけど。喋れるー?」
「い、いたぃ。早く、なお、して。」
「勘違いしてほしくないから言うけど、治すんじゃくて「体の状態を戻す」んだよ。
大体5分前でいいかな。」
メイズはクトルに自身の祝福「Return」を使った。
「…お、体が、治った!すごーい!あ、でもなんか、すごい緊張してる、感じが。何で?」
「試合前まで体の状態を戻したからね。そんときめちゃめちゃ緊張してたんでしょ。」
「うぅ。恥ずかしい。」
時は夕方。空がオレンジに染まり、下界全体には影が広がっていた。
着々と試合が進み、決勝戦の決着もついたころだった。
「止め。
優勝、シアン!おめでとう。」
決勝戦のヴィオレ、シアンの両者は握手を交わしていた。
「中々強くなってるね。びっくりしたよ。」
「俺もお前と戦うの初めてだったからな。少し見直した。」
トーナメントが終わるとすぐさま解散をし、各自寮に戻った。
シアンの強さにビビったカージナルとパンジーは肩をしぼめていた。二人共シアンにコテンパンにやられたらしい。
「パンジー、お前の「Chain」強かったな。まさかチェーンを出して体をぐるぐる巻きにされるとは。
...それと、「Weapon」だっけな?カージナル。腕から剣のようなビームを出していたが、銃とかも使えるのか?そうなると手ごわそうだ!ハハッ」
流石にパンジーは言い返した。
「うるせぇ!煽りだってことは分かってんだよ!黙っとけ!」
「確かにそうだが、俺が一番知ってほしいのは力の差だな。さすがに今回のでわかったよな?お利口さん。」
シアンは友達が少ないタイプだ。ムロンはそんなことを思いながら本を読んでいた。
そのころプーリムは生徒たちの情報を整理し、手帳にメモをしていた。
(クトルは今後強くなるぞ!あいつは祝福の伸びしろがでかいからな。
心配なのがシアンだ。今一番強いのはあいつで間違いないが、患っている病気がやはり足を引っ張っている。何と言っても伸ばせる部分がない。
このまま伸びしろを感じられなかったら全員に追い抜かされるだろうな)
手帳を閉じ、月明かりに照らされながら今後の予定を考えていた。
「この夏に、遠征するのもありだな。」




