22. 強者
クトルは運転席に走っていた。運転席の入り口には何層にも重ねられた障害物が並べてあった。これらを固定しているのはアルニコによる磁力の影響と考えたため、アルニコを倒してからブレーキをかけようと考えていた。
しかし、アルニコが亡き今でも入り口は強く閉ざされていた。
「な、なんで。アルニコはいないのに...。」
アルニコが一枚上手だった。この障害物は磁力と関係なく固定されていたため、例えアルニコが死んでも十分な時間稼ぎになるほど強固な守りになっている。この作戦を何としてでも遂行する強い意志の結果がこれである。
クトルの障害物を一つ一つ除くその手は震えていた。死が迫っている理由もあるが、一番は自身の判断ミスでここにいる全員が巻き込まれる責任感によるものだった。必死に動いているが心の何処かでは間に合わないことを察していた。
「...や、やばい。このままじゃ車体は止まらない。」
シアンは電車の先頭に立っていた。
眼の先には通ってくださいと言わんばかりに壊れた壁とそれに続くように引かれたレールがあった。深く息を吸い、強く集中した。
「Magnification!減速!!」
無数の減速の壁が並べられ、その壁に列車は突っ込んだ。車輪とレールが擦れ、甲高い摩擦音が当たりに響く。速度が落ちていることは分かるが、車体が止まる気配がない。
後ろを振り返り車体の車輪を見ると、まだ回り続けている。どれだけ減速をしたとしてもエンジンがかかり続ければ止まることはない。壊れたレールが近付いていることは依然変わりない。
(まずい!このままじゃ、脱線する!)
シアンは高く前方に飛び、車体の進行経路に降り立った。
「うぉぉぉ!!止まれぇぇぇ!!!」
迫りくる車体を前に進行方向と逆に力をかける。分かってはいたがやはり焼け石に水だった。
一方そのころ、電車の後方ではアイビーが目を覚ましていた。アイビーは必死に能力を使おうとしているが、後頭部の傷が癒えておらず、苦しそうだった。
「じっとしてなさい、自分の状態分かってる?」
「...いやだ。気絶してお荷物なんて、絶対いや!」
アイビーは手を伸ばし、床に掌を当てた。
「Rotation、車輪!」
キキ―――――――ッ...
止まろうとする甲高い摩擦音は次第に小さくなっていった。シアンの減速の壁とアイビーの逆回転の力で車体はやっと止まることができた。しかし、まだ完全には止まっておらず少し前方へ動いた。
シアンは完全に油断していた。
「うぉ!!」
車輪は未だ回ろうとしていたが、障害物の隙間から伸ばした手が届きブレーキをかけることに成功した。伸ばした手には緊張と責任で汗にまみれていた。クトルは疲れでその状態のまま空気が抜けたように倒れた。そして達成感による安堵の溜息をついた。
シアンの片足が下に落ちた。体勢を崩したが落ちることはなかった。後ろを見ると、足元の30cm先には足場がなかった。間一髪、全員の力でアルニコの策略を停めることに成功した。
(あ、あぶねぇ。もう少し遅れてたら…。想像したくないな。)
シアンは通信機器を取り出して、プーリムに一報した。
「こちらシアン。申し訳ないです。敵の攻撃を受けて暫く連絡が取れませんでした。そちらはどんな状態ですか?」
少し遅れて返答があった。
「おぉ!無事だったか!?死者は!?怪我人は!?」
「アイビーが後頭部の損傷、ヴィオレは少し攻撃を受けましたが大丈夫そうです。それで、そちらはどんな状況で?」
「そうかそうか!攻撃を退けたか!えぇ成長っぷりだ!ガハハ!」
(アドレナリンドバドバでこっちの話聞いてくれねぇ。これはもしや…)
「テロ犯は抑制しました。それでそちらは?」
「おぉ、すまんすまん!こっちももう始めとるぞ!」
(やっぱり)
シアンの想像した通り、プーリムの班は本部へ突撃していた。しかし、不思議にもプーリムの背景から聞こえる音は静かだった。
「そうですか、注意事項が一つありまして、戦闘に特化した戦闘員が7人いるそうです。そのうち一人はこちらにいたので戦うことになったのですが、相当強かったです。気を付けてください。」
「ふむ、そんな奴らがいるのか。報告感謝する!」
プーリムがこのまま通信を切りそうだったので、食い気味に忠告した。
「そいつらは目印と言っては何ですが、額に番号がふってあります。」
「ん?なんだって?額に、か。安心しろ!そいつらなら…」
プーリムは大量のゲリラ達の山に腰を下ろしていた。いくつかのゲリラの額には4を除く1~7の数字が描かれている者もいた。
「俺が全員倒した。」
それを最後に通信を切られた。
(まじかこの人、規格外すぎるだろ)
オ―シンのイメージにかき消されていたが、この教官も規格外の強さをしておりこの機会に改めて気付かされることになった。
プーリム以外のメンバーは雑魚処理に追われていた。
戦闘の中、メイズは余裕そうにカージナルに話を振っていた。
「教官、あんな数を一人で、大丈夫かな?」
「いいよな!後方支援は!ほかのことを考えれる余裕があってな!」
ムロンは黙々と襲ってくるゲリラを始末していた。一方パンジーはアドレナリンが止まらず、少々ハイになっていた。
「あぁ!怖いけど楽しいよ!「神様」!この時間をもっと続けさせてくれ!」
「わけわからん事言ってんじゃねぇよ!さすが元犯罪者だな!」
クトルは運転室でテロ犯の持ち物を見つけて物色していた。それは好奇心によるものだった。
(ん?これ、さっきの磁石の人の持ち物。え...)
「おい!クトルどこだ。もうここからずらかるぞ!」
クトルは今見たことを忘れることにした。しかし、心に残り続けた。
数時間後、全員無事に合流することができた。
「よし!今回も全員無事だ!」
色々あれど結果オーライである。また一つ成長をすることができた。




