第三十五話 赤い靄の彼方へ
その日の夕方。
俺はビルの屋上のヘリポートに立ち、風に吹かれていた。
「実業家・霧島誠一。……すっかり板につきましたね」
背後から声がした。小日向颯だった。
「お前たちのファンドも、順調に化け物を生み出しているようだな」
「ええ。一ノ瀬陽をはじめ、いくつか保護した才能が、世界を書き換える準備を始めています」
小日向は隣に並び、夕焼けに染まる帝都を見下ろした。
「神崎は消えましたが、この国にはまだ腐ったシステムや怪物が無数に潜んでいます。霧島さん、あなたはこれからどうするつもりですか?」
「決まっている」
俺はタバコに火をつけ、深く吸い込んだ。
「神崎の残した死肉(利権)に群がるハイエナどもを、今度は俺が喰い殺してやる。嘘も、力で塗り固めれば真実になる。俺がこの街の新しいルールを作る」
小日向が薄く微笑んだ。
「……いずれ、僕たちとビジネスの盤面で衝突する日が来るかもしれませんね」
「その時は、容赦しないぞ」
「お互い様です。……では、また次の『確定した未来』で」
小日向はそう言い残し、静かに去っていった。
一人残された俺は、フェンスに寄りかかり、街の灯りが一つ、また一つと点っていくのを眺めた。
あの日、絶望して飛び降りた青年の肉体。そこに宿った、詐欺師の魂。
復讐は終わったが、虚無感はない。俺の両目には、今も他人の「赤い靄」がはっきりと見えている。
「さて……次は、どの巨大な嘘を喰ってやろうか」
俺は高級スーツの襟を正し、風に向かって歩き出した。
これは終わりではない。底辺から這い上がり、一兆円の怪物を解体した男の、本当の「成り上がり」の始まりに過ぎない。
陰謀と復讐の果てに、霧島誠一は新しい盤面の支配者として、赤い靄の彼方へと足を踏み入れていった。
こちらで、霧島のお話はひと段落です!
また次の章でお会いできることを!




