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王道嫌いの薬師は異界で神を嘲笑す  作者: N氏
【壱の章】薬師は異界を睥睨す
9/9

第捌話 舞台の裏側は滑稽と愚物の舞台である

久々、超久々、お久しぶりです

なのに短いです、理由はあとがきにて

 俺は周囲の妙な視線に疑問を抱きつつ、少年の向かいに腰を下ろす。

 少年はちょっと迷惑そうに料理を食べていたが、俺が席を引いた音に顔をあげる。


「遅かったですね」


 目を合わさずに告げられた言葉に、俺はあいまいに返事をする。

 そんなに遅かったかと俺は思ったが、そもそもの時間感覚が違うのかもしれない、そう思えば納得できる、余計な不信を植えつけるわけにはいかない。

 しかし、あいまいな返事が気に食わなかったのか、少年は再び木の机に視線を落とし、料理を食べ始めようとする。


「そんなことより少年、この料理の数は何だ」


 気まずい雰囲気に戻らないように、話を続けるために搾り出した俺の問いに、少年は多少誇らしげにこう言った。


「宿からのお礼だそうです」


「お礼?」


 一体なんだというのだろうか、お礼をされるような事をした覚えが無い。

 その事を少年に率直に告げると少年はこっちの目を見た。


「へへん、僕ががんばったのです!」


 頑張ったとは一体どういうことなのだろうか。

 俺はその事を少年に訊こうとした、が、それは思いもよらない所からの言葉で遮られる。


「そうよぉ! この子すごい大活躍なんだからぁ!」


 宿を出る前とは違い、若干間延びした声でそう言ってくるのは……。


「女将さん……」


「そうそう! ごろつき三人を追っ払ってくれたんだからねぇ!」


 いかにもご機嫌といった具合でさらに料理を並べていく女将さん。

 助けを求めるように視線を周囲へと向けるといずれも敬意やら尊敬やら畏怖やらの視線を向けられるばかり。

 ウェイトレスの女性らしき人はポーっと少年を見ているだけで、厨房の奥の旦那さんは苦笑を返すばかり。

 俺はひっそりと溜息を吐いた。

 少年が宿に貢献したことは確かだ、しかし、どういった対処法をしたのかが重要だ。

 幼い彼に俺の基準を求めるのは酷だと分かっていても、聞かずにはいられなかった。


「少年、今ここで包み隠さずどういう経緯でそうなったのか言ってもらってもいいか」


+=+


 全て聞き終えた俺は一体どんな顔をしているのだろうか。

 もちろん、俺の顔はフードで隠されているため少年には見られる事はない、だが、雰囲気というものは見えない表情も反映されるものだと思う。

 その証拠に、顔が見えていないはずなのに、嬉々として話し始めた少年の顔がどんどん曇っていき、今となっては罪状宣告を待つ犯罪者のように青ざめている。

 周囲も凍りつくように、時間と空間が止まったかのように物音一つしない。


「く、薬師さん……」


 いかにも恐る恐るといった感じで少年が口を開く。

 俺は無言、ただ、隠された顔の正面を少年に向けるのみ。

 話を聞いて思ったこと、それは一つ。


 粗末過ぎる、計画も何もかも。

 話の最中で、魔法を使ったという点では、周囲をはばかってか【無杖の魔法師】に関係する発言はなかった、それは褒めるべき点なのだろう。

 だが、なぜ自然に暴漢達のことを察知できたのか、そこは明らかにぼかされた。

 それに、【無杖の魔法師】を隠蔽するために武手を魔法の触媒としての杖に見立てる、これは明らかに手落ちだ、もし相手に魔法に精通した相手がいたらばれていたかもしれない。

 他にも、至らない点は多く見える。

 そんな感情を篭めて、一言。


「お前は猪か?」


「いのししですかっ!?」


 明らかに心外といわんばかりの顔を向けられて、つい口が歪む。


「猪突猛進、もっとじっくり考えろ、その頭は飾りか」


 静まり返った空気の中では俺の潜めた声でもよく響く。

 少年は分からないといった様な顔をしている、ちょっと怒気に触れただけで涙目になるような少年の年齢で深く考えるのを求めるのも酷だが、その説明は後回しだ。

 今、少年に向けられるのは、同情や憐憫の視線、俺に向けられるのは呆れ、そして『何を言っている』と言わんばかりの視線。

 そして、俺への視線の中に、明らかな敵愾心を抱いた視線が一つ。

 俺はそれの発生源へと顔を向ける。


「そこの女、何か言いたい事があるのなら言え」


 ウェイトレスの女はこちらをきつく睨んでいた。

 そして、俺からの指名に一瞬ひるんだようだがすぐさま怒りを篭め、爆発しそうな声で俺に言葉をたたきつけた。


「その子は頑張ったんですよ! まずはその勇気を褒めてあげるべきではありませんかっ!?」


 その発言に、周囲の視線は同意の意を示し、俺を視線で殺そうとしてくる。

 だが、勇気? 嗤える、意味の履き違え、その愉快さに喜悦の笑いがこぼれる。


「勇気? 勇気ねぇ? ククッ……」


「な、何がおかしいんですか!」


 俺の笑い声にウェイトレスの女、面倒だから給仕と呼ぼう、その女は一瞬ひるみ、先程より強い口調で俺を誹る。

 それすら愉快となって俺はつい饒舌となる。


「じゃあ問おうか、少年の行動は確かにすばらしかった、しかし、その結果ここにいる誰かが傷つく可能性は? もし暴漢が武器を持っていたら? もし強力な魔法の使い手なら? もし怪力だったら? もしかしたら貴族の私兵かもしれない、その権威を振りかざして来たら?」


 その発言に、周囲の視線は戸惑いを帯びる、少年の行動で自分が傷つくかもしれない、そう思ったのだろう。

 さらに、少年は俯いてしまった、間接的に不備を指摘されたのだ、当然だろう。

 むしろここで何も感じないなら切って捨てるべきだろう。

 いわゆる、同情心だけで一緒にいるわけではないのだ、あくまでも利用価値がある、そう考えたからだ。

 まあともかくだ、正直言うと俺はそこまで怒っていない、むしろ褒めてもいいと思っている。

 手落ちが多いし、手放しで褒めることはできないが、それでも撫でてやる事ぐらいはいいのではないかと。

 しいて怒っているといえば、少年が自身を危険に晒したこと、まあこれは俺自身の責任でもあるが……、だが、それをたたえて英雄扱いする周囲が気に食わない。

 正確に言うなら、他の可能性を示唆しただけで揺らぐような周囲に、だが。

 まあ、女将さんと旦那さんは妙に楽しそうな目でこっちを見ている分、二人は純粋な好意だったのであろう、宿を守ってくれた少年という人物に対しての。


「そ、それは……!」


 給仕は明らかに口ごもる、考えが浅い為そこまで思い当たらなかったのか、それとも反論を予想していなかったか。


「反論できないのか? 笑えるな……、ほら、宿を守った英雄サマを擁護しなくていいのかい?」


 俺の嘲るような冷たい声に給仕は悔しそうに歯噛みをする、しかしカッと俺をねめつけるとはっきりといった。


「それは勇気です! それに! あなたの発言は全て仮定に過ぎません!」


 その発言に周囲の視線に篭められる感情が変化する。

 それもそうだろう、給仕は一般大衆における『正義』を振りかざしている、食堂の利用者という『民衆』を救った少年という『英雄』を立てて、『英雄』を否定する『悪』である俺を弾劾するように煽動している。

 この場合、悪いのは誰だろうか。

 俺の思考は一瞬脇道にそれるが、すぐさま目の前の事態へと戻る。


「仮定? クッ、ククッ、ああ、確かにそうだな、仮定に過ぎないな」


「ならっ!」


 給仕の顔は一瞬活路を見出したかのように活気を帯びる。

 だが、俺はこの程度で終わらせない。


「じゃあ、もう一つ仮定を付け加えよう、俺が奴等の仲間である可能性をな」


 その言葉に周囲が完全に混乱する。

 少年は驚いたように伏せていた顔を上げ、給仕は面食らったような顔をし、周囲の視線も戸惑い、怒り、殺意、疑問がごちゃ混ぜになる。

 その反応に、俺はひそかに落胆した。

 救いと言えば旦那さんと女将さんがお互いに顔を見合わせて肩をすくめた事ぐらいだろうか。

 それは明らかにどうしようもない悪戯小僧に対してする『しょうがない』といった意味合いのものだった。

 ……、だが、生暖かい目をこっちに向けるのだけは勘弁してほしい、気恥ずかしい。

 あと、少年もどういう意図で俺がそう言ったのかまでは理解できていないようだが、俺に向ける瞳はあいも変わらず透き通っていてその奥には紛れもない信用や信頼と言った感情があった、まるで犬のようだ、それも忠犬。

 俺はその三人の反応にひそかに内心での評価を上げる。

 少年はまだまだだが、さすがに満点を求めるほど酷ではない。


「なっ、あなたはあいつらの仲間なのですか!?」


 給仕が言ってきた事を俺は鼻で笑い飛ばす。

 馬鹿かこいつは。


「俺の発言はただの仮定に過ぎない、そうじゃありませんでしたか?」


 ローブから見える唇の端を小馬鹿にするようにゆるりと持ち上げる、目に見えて給仕の顔が赤く染まる。

 それは羞恥か怒りか、どっちにしても自分の発言を逆手に取られたのは悔しいだろう。

 そして、俺は最後の一押しをする。


「別にお前が俺をその暴漢共の仲間だと思っていてもいい、だが、物的証拠もないのに仮定を断定することは愚物の極みと言えるな、馬鹿馬鹿しい、あと、お前に一切の責任がないとも言わせないぞ、片側だけの話を聞いて正しいただしくないを決めるのも愚物の極みだからな」


 俺はそういうともう言うことはないと言わんばかりに椅子に座る。

 まあ、俺の仮定も全て物的証拠がないとかつっこまれたら正直もうめんどくさくなって投げていただろう。

 周囲の視線はしばらくの間俺たち……正確には俺に注がれていたが、時間が経つにつれて気まずくなって部屋に引き上げるか、酒に興じるか、食事をとり直すかしだした。

 あの給仕の姿は見えない、退勤したか裏へ逃げたかはたまた視線を避けているか、わざわざ探す気にもなれない。

 さて、そんなことはどうでもいいとして、なにやら重大な事態となってしまった。

 少年の若干潤みながらも澄んだ浅葱色の瞳がこちらに向けられている。

 さっきまでささくれ立っていた心が少し穏やかになる、ささくれ立つ原因となったのはこいつなのだが。


「少年」


 俺がそう声をかけると、焦点が俺にあう。

 若干の怯えが含まれたその眼の奥底に小さく嘆息するが、やるべき事をちゃんとする。


「頑張ったな」


 そういってローブのフード越しにだが頭をポンポンと叩き、撫でる。

 少年は微かに目を見開く。

 若干居た堪れなくなって顔を背ける、当然撫でる手はそのままで。


「がんばったって……、僕は薬師さんの言ってたように危険を考えていませんでした……」


 しょぼくれる少年の瞳が今にも涙をこぼしそうに震える。

 赤くなった目は本当に辛そうだ、そういうところも可愛いと感じてしまう俺はやっぱりどこかおかしいに違いない。

 俺はフッと小さく息を吐く。


「いいんだよ、細かいことは気にするな」


「でも……」


「子供は素直に、まっすぐ進んでいるほうが良い、まあ、もう少し考えるべきだとは思うがな」


 そういいつつ撫で続けると少年は少しむくれる。

 ……、事実なのだが。


「でも、偉かったな、勇気ある行動というより蛮勇としか言いようのない行為だが」


「それ、ほめてますか?」


「当然だ」


 微妙な顔をする少年に、見えるのは口だけだろうが微笑みかける。

 少年は納得がいかないらしい、不満そうな顔を浮かべる。

 俺はわざとそれに気付かないフリをして、食事を取り始める。

 ……後に備えて武手と護手の使い方を学んでおく方がいいかもしれない。

 正直使いこなせる気はしない、現代的なカトラリーを召喚出来る以上使いこなす練習をしようとも思えないが、だがやらなければならないだろう、王侯貴族なんかと謁見や会食する機会はあったら逃亡一択だが、地域の有力者との顔合わせなんかがあったときは非常に、本当に不本意だが会食する時もあるだろう。

 そのとき地域の食器だからといって自前のカトラリーを使うのは相手の心象的によくないだろう。

 そういえば、【家庭道具召喚能力】で護手と武手を召喚することは可能だろうか?

 俺はひっそりとローブの中に手を隠し、護手を召喚するように念じてみた、が、手に何も現れる様子はない。

 あくまで現代世界での道具に限るのか、はたまた食器として一度も使っていないから認証されないのか、これは検証する必要がありそうだが今は食事に集中すべきだろう。


 ……そういえば、なぜ少年は森で鹿肉(ジェーンとジェクト)を出した時、現代食器の使い方を知っていたのだろうか。


「薬師さん? たべないんですか?」


 そんな俺の思考を乱すようにかけられた少年の声を少々恨む。

 そういえば何を考えていたのだろうか……、少年の声を聞いた途端、霧散するように消えてしまった。


「ああ、いまから食う」


 とりあえず、護手と武手の問題はおいといて食事に専念しよう。


 どうやらこの世界、いや国か町の特徴かもしれないが、どうやら濃い目の味付けのようだ。


+=+


「チッ、ったくよ、なんだよあのガキ……」


「そうっすよー、なまいきっすよねぇー」


 そんな宿屋の一幕から時間が経ち誰しもが寝静まる深夜、宿屋を追い出された暴漢たちは裏路地でたむろしていた。


「はらへったぁ……」


「ったく、何で俺たちがこんな目に……」


「酷いっすよねー」


 この三人組、近所では多少素行が悪いだけの仲良し三人組である。


「おなかすいたぁ」


 さっきから腹をさすっている気の弱そうな小さ目の男はゼイ。


「はぁ……、どうしたものか」


 やたらと苛々している血気盛んな男はリーダー的存在のライ。


「そうっすよ、もうお腹と背中が張り付きそうッス」


 やたらとなれなれしい軟派っぽい男はカイ。


 この三人組は働いていない……訳もなく、後ろ暗い職業についている……訳でもない。

 ごくごく普通の土木建築士である、態度はアレだが仕事をきっちりとこなすため評判はちょっといい。

 その仕事への誠実さから仕事を任せるのには向いている男達である。


「ったく、そもそもあの女が……」


 本当の事の顛末はこうだ。

 あの給仕の女性はコップに入った熱いお茶をライにかけてしまった。

 その熱さにライは声には出さなかったが酷く驚き、そのとき偶然にも陶器の皿を割ってしまったのだ。

 給仕は謝ったが、あまりにも熱かったため平常心を失っていたのと、その後の対応が甘かったため怒鳴りつけた結果……である。

 先に手を出したり怒鳴ったりした男三人組の方に責任はあるだろう、しかし給仕の方にも責任はあったのだ、むしろ原因とも言える。


「しょうがないっすよアニキ……」


「おなかすいた」


 未だに苛々しているライをなだめる残り二人、しかしの苛々は募るばかりであった。

 そんな三人に声をかける存在が一つ。


「力が欲しいか?」


 裏路地の奥からかけられた声、その声に三人の男は振り向いた。


「飢えることのない、力がほしいか?」


 それは、悪魔の誘惑であった……。

お久しぶりでお粗末さまでした


クラッシュ後忙しかったです、ごめんさい

あと予定していた話の展開と変えたのも原因です、大筋に変わりはないですが


まあ、もう予告はしない


誤字脱字の報告お待ちしております。

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