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第1話『なぜだか百合作品としてバズった』


 趣味で描いていた漫画がいきなりネットでバズった。

 SNS全盛のこの時代。そういう事例は珍しくないと知ってはいたが、まさか自分の身に起こるとは想像もしていなかった。ほとんど宝くじに当たったような気分だ。


 つい先週までアカウントのフォロワー数は50人(うち大半は業者bot)ほどだったのに、たった一週間でもうフォロワーは1万人を越え、今も着実に増加を続けている。

 何より嬉しいのは、今まで壁打ちのように黙々と投稿していた作品に、数多くの暖かな感想が寄せられるようになったことだ。

 作品タイトルでエゴサをすれば、ネットのあちこちで感想が呟かれている。


『これは最高の百合』

『いつか来る二人の別れを想うと今から胸が締め付けられます。それまでたくさん百合百合して欲しい……』

『これもう絶対にお互い恋に落ちてるよね?』

『好き同士じゃん。復讐とかやめて素直に結婚して欲しい』

『無料でこんな上質な百合が読めていいんですか? 貢がせてください』


 本当に感無量だ。

 私が頑張って描いた作品を、こんなにたくさんの人たちが楽しんでくれるなんて。

 ただ、決して不満というわけではないのだが――


「うぅん……この作品って『百合』なのかな……?」


 私・大淀(おおよど)日果(ひか)はパソコンの前で首を傾げた。

 私は決して、そういうジャンルとして描いたつもりはないのだ。


―――――――――――――――――――


 私がSNSに投稿した漫画『とある少女が復讐を果たすまでの話』は、大戦によって荒廃した世界で生きる二人の少女の旅路を描いた作品である。


 料理が得意な少女ユキホと、腕っぷしが自慢の少女クーナ。

 そんな二人はともに支え合い、終末世界でも笑顔で毎日の食卓を囲んでいる――という穏やかな導入から物語は始まる。


 しかし話の早い段階で、ユキホの笑顔はすべて演技だったと明かされる。

 実はクーナは『腕っぷしが自慢』どころの生易しい存在ではなく、大戦期に兵器として生み出された強化人間『餓鬼(グァール)』の生き残りだった。

 ユキホは『餓鬼』によって唯一の肉親を殺されており、心の底ではクーナにも強い憎悪を抱いていたのだ。


 人並外れた膂力を持つ『餓鬼』は、高カロリー輸液や専用の合成食料がなければ長く生きられない。それでもユキホは独学と推測のもとに、可能な限りクーナを延命させ得る食事を作り続ける。

 それはクーナのことを大事に思っているからではなく――


 クーナにとって大切な存在となった後に自ら命を絶つことで、彼女に最大の絶望を味わわせるためだった。




 というのが、おおよその概要である。

 正直に言おう、私はこれをギャグ漫画のつもりで描いたのだ。

 復讐のやり方が回りくどすぎて、なぜか復讐相手の健康を考えた料理を必死に作ってしまうポンコツ少女の空回りっぷりを微笑ましく眺めてもらうつもりだった。

 当初の私が、『こんな感想が来たら嬉しいな~!』と想定していた内容がこちらだ。


『こいつ復讐とか向いてないな』

『根が真面目すぎる』

『復讐復讐言いながら栄養学の本を深夜まで読み込んでるの善性が隠せてない』

『見かねた復讐相手から毛布かけてもらってんの笑える』

『絶対自殺しないわこれ』


 ところが、思っていたのとまったく違うバズり方をした。

 読者の大半がこれを少女同士の悲恋の物語だと認識しているらしい。主人公のユキホが復讐を果たして自殺するか、あるいは生物兵器のクーナが限られた寿命を燃やし尽くして死ぬか。いずれにせよハッピーエンドは迎えられまいと。


 ギャグ漫画として書いたから、そんな悲しい結末はまったく考えていなかった。

 ご都合主義的に医療インフラが生きた都市に到達させてクーナの寿命問題も解消して、ポンコツなユキホが「これでもっと長期計画の復讐ができるぞ!」なんて喜ぶ結末にするつもりだった。


「たぶんこれ、そんな展開にしたら炎上する……?」


 自室のパソコンで感想エゴサをしながら私は冷や汗をかく。探しても探しても、この作品をギャグ漫画として捉えている人が見つからない。

 冷静になって読み返したら確かにギャグ作品としては絵柄も雰囲気も暗すぎたかもしれない。あと主人公の過去も重すぎたかもしれない。

 しかし、ここから作風を明るくしてギャグ方面を驀進しようものなら『なんか思ってたのと違う』『いきなり登場人物のIQが爆下がりした』『フォロー外した』なんて叩かれることは必至。


 プロの漫画家なら「いいやこれは絶対にギャグなんだ!」と信念を貫いて炎上の火中に飛び込めるのかもしれないが、私はアマチュアの高校生である。まだ作風へのポリシーなんて確立していないし、それより今は大勢に読んでもらいたいし褒めてもらいたいというのが本音だ。

 ならば選ぶ道は、当然一つしかない。


「よぉしっ、これは百合作品! 今この瞬間からそういうことにしようっ!」


 私は拳を握って決意した。

 私は百合というジャンルについて、まったく何も知らないのだが。

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― 新着の感想 ―
下手に百合を勉強して百合に寄せようとしたらなんか台無しになりそう……。 ゆーて当初のオチを使うと炎上するっていうのはそれはそうって感じで割とどん詰まり感がある……。
面白くなりそう、だけどどういった風に話が進むのかまだ全く見えずワクワク。
下手なことせず今までのノリで進めなされ...
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