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第13話 約束の向こう 後編

―――超巨大摩天楼



その最上階の更に上

歪な三角形に模られた最上部の部屋


その中


壁一面に刻まれた逆五芒星

床に転がる血の色のルーン

天井の青白い炎は蝋燭ではなく

生きた鴉の翼だった。


中央の黒大理石の机には、開かれた古文書。

ページは何かの皮膚のような質感で

血のような文字が刻まれていた。


その悪魔的な空間を

ある者達が支配していた。


そんな中


漆黒のスーツを身に纏った、長身の男が一人

禍々しいソファーにどっしりと座り

骨董品のような受話器に口を当てながら

膝の上に白い長毛のペルシャを乗せていた。


ペルシャは喉を鳴らし

男の指を甘噛みしながら


なにしてるの~?


とばかりに前足で受話器をちょいちょいと叩く。

男はそれを愛おしそうに撫でながら


「ロウか。どうした?俺は今忙しいのだが?」


低い声で応じながら

今度は左肩に止まった三毛の耳をくすぐる。

三毛は満足げに目を細め

頭を男の耳に擦り付ける。


次の瞬間、天井の梁から黒猫がダイブ

男の頭に着地するも失敗。


「にゃあ~!」


と鳴いてバランスを取る。

男の顔から、計6本の血が滴る。


「…ほう、少女一人を、この俺が直々に? 理由は?」


男は眉一つ動かさず

顔に爪を立てる黒猫を片手で支えながら

もう一方の手で膝のペルシャの背を撫で続ける。


部屋の隅では、シャム猫が逆五芒星の中心で丸くなり

スコティッシュが古文書のページの上で昼寝。


血のルーンにじゃれつく子猫が


「みゃみゃみゃ!」


後ろ脚で蹴りまくる。

かとおもえば、天井で青白く燃える鴉の翼に狙いを定め

飛び跳ね、追い掛け回す。


「何?ヤミ様が?」


男の瞳が、僅かに見開く。

その瞬間、頭の黒猫が


「にゃぁ~」


あくびしながら、男の鼻先に肉球を押し付けた。

男は無表情のまま、黒猫の首筋を指でくすぐる。

黒猫は満足げに喉を鳴らし、男の頭を枕にして寝転がる。


「構わん。全てはヤミ様の為に」


受話器が青白い炎に包まれ消えると同時に、膝のペルシャが


「にゃあ~ん」


と甘えた声で鳴き、男の胸に飛び付く。

男は静かに立ち上がると

ねこたちを優しく床に降ろし

漆黒のコートを翻した。


そして、骨の扉に手を掛け、固まった。


その腕には黒猫がぶら下がり

足にはペルシャが纏わり付いていた。



「だが……全ては、ヤミ様の為………」



力を込め、扉が軋んだ音を立てた瞬間――


部屋の支配者達が一斉に飛び掛かり

無数の爪が

男の皮膚とコートを斬り裂いた。

その恐ろしい眼光は


《どこへ行く、ごみぃ》

《ウリ達にもっと構え、下僕ぅ》


とでも言っているかのようだった。


ポタポタと滴る音だけが、その悪魔的空間を支配した。


三毛が、大きなあくびをした。




第13話 約束の向こう 後編




―――世界が、静かに片付いていく。


摩天楼が、音もなく崩れていく。

爆発も、悲鳴もなく。

ただ

静かに。


気が付くと、大草原が広がっていた。

風がそよそよと暖かく

空は、やけに青い。


ふと


足元

そこには、ねこ達がいた。


キジトラ

見たことのない、変なねこ


無数のねこ


みんな、私を見上げている。

同じ姿勢で

ただ

じっと。


そんな中


足に柔らで、滑らかな感触


ふくよかで綺麗な毛並みの、茶虎だった。



膝をつき


手を伸ばし


触れた瞬間――


みゃぁ~


粒子になって舞い散った。


その光が


私を包み込み


確かな


温もりだけを、残して


舞い上がっていった。



待って



声を出したはずなのに

音にならなかった。



ふと


振り返るとそこには

いつもとは違う月影がいた。


傷がない

月のプレートもない

素の姿


(…ここまでだ)


え?


(…もう、戻れない)


その足元から

影が伸び


ねこ達を包み込み

一匹ずつ

闇の中へ溶かしていく。


やだ!


必死に

月影の身体に、腕を回した。


置いてかないで!!


けれど、腕の中は

空っぽだった。


(…大丈夫だ)


声だけが、降ってくる。


(…お前なら、必ず)


黒い影が


小さな足跡となり


離れるように


ひとつ、またひとつ


遠ざかるように…



「待って!」



今度は、声が出た。


けれど


足跡は、振り返らない。


ぺたぺたと


足跡を伸ばしていく。


「行かないでよ!」


突如現れた”闇の渦”へ


吸い込まれるかのように


伸びる足跡


必死に


追い駆け


腕を伸ばした。


「ねぇ、約束は!?全部、全部話してくれるって!」


それは


(…もう少しだ。俺は、もう少しで…お前を……)


どこかで聞いたような


泣き出しそうな


声だった――――――




「月影!!」


叫び声で、目が、覚めた。


頬が、濡れていた。










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