表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泥濘(でいねい)のレクイエム ―英雄の残火と、つぎはぎの神魔―  作者: 堀吉 蔵人
第2部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
91/103

第91話:わられた灰、いちばん先の目 【三位一体の少女】

毎日20時更新中です。ブックマーク・感想いただけると励みになります!

つぎのいっぱくで、つめたいものがはいってきた。


どくん。


そのおとにあわせて、うしろのあついみぎへ、ちいさくて、かたい、つめたいものがぶつかる。

いし。

でも、ただのいしじゃない。

みて、はかって、まっていたひとのいし。


あついみぎが、そこで、はじめていやがる。


いたい。

いたい、じゃたりない。

わたしのうしろにずっとあった、ながいねつのひもみたいなものが、そこでぐっとねじられて、むりやりそとへむけられる。

むねへこようとしていたものが、そこでひとつ、わられる。


つめたい。

あつい。

つめたい。

あつい。


そのふたつが、ひじのあたりで、けんかみたいにぶつかって、ひかりじゃないはなびらみたいなものを、そとへばらばらこぼしていく。


わたしは、くろいつちへおもみをあずけたまま、ちいさくからだをこわばらせる。

ねむったままではいられない。

でも、すぐにもおきあがりたくない。


やさしいひとは、まず、かなしいかおをする。

「まだ、さんにんで」とおもう。

くろいひとは、いちばんさきに、しろいそとをさがす。

はんぶんそとへさがったひと。

なまえをがまんしているひと。

あのしろまで、とどかないのがかなしい。


そして、まっすぐなひとが、いちばんつよく、そのいたみをうける。


にげない。

それがこのひとのわるいところだって、わたしはもうしっている。

にげられないじゃない。

にげない。

こわくても、いたくても、じぶんがちかいならじぶんがもつって、そういうふうにたってしまう。


それが、やさしいひとにはつらい。

くろいひとには、しゃくだ。

わたしにも、かなしい。


だって、それは、ひとりになるちかみちだから。


いしがもういちど、あついみぎをたたく。

こんどはきれいなひびきじゃない。

にぶい。

ひとのほねのなかにある、おと。


どくん。


わたしのなかの、まっすぐなひとが、ぐらりとまえへでる。

やさしいひとが、そのうしろのふくをつかむみたいに、かぞえる。

いち。

に。

まだ。


くろいひとは、しろいそとへむかって、よぶのをがまんする。

よびたい。

でも、いまよんだら、それだけでくろいほうへおもくなる。

だから、よばない。

そのかわり、くろいかなしいのを、まっすぐなひとのせなかへおしつける。


ひとりでいくな。

かってに、きれいにたつな。

ちゃんと、こちらのかなしいももっていけ。


そういう、おもい。


やさしいひとは、もっとへんなことをする。

「いたいのをひとつにしないで」とおもう。

いたみを、わける。

うしろのひとのひだりのたなに、すこし。

はんぶんだけのかたいかたに、すこし。

くろいつちのやわらかいところへ、すこし。

そうやって、まっすぐなひとが、たったひとりのいたみだけでたたないようにしようとする。


そのやりかたが、わたしにはわかる。

やさしいひとは、そうやってしかまもれない。

くろいひとは、そういうやさしさを、ときどきずるいとおもう。

でも、いまはそのずるさがないと、ほんとうにひとりになってしまう。


だから、だれもそれをとめない。


つめたいいしが、まだある。

そとで、あのせのひくいひとが、てをふるわせているのがわかる。

こわいのだ。

こわいのに、やる。

にげたくても、にげない。

あのひとも、まっすぐじゃないくせに、こういうときだけにげそこなう。


そのことが、すこしだけ、おかしい。

すこしだけ、たすかる。


うしろのひとのひだりは、まだたなだ。

でも、さっきよりちいさくなる。

かたいかたは、ほんとうに、はんぶんだけになっていく。

しろいそとは、もっとほそくなる。

みんな、わざと、すこしずつ、わたしのまわりからじぶんをひいている。


それは、すてるためじゃない。

いちばんさきに、だれかひとりがたつとき、そのひとのまわりをあけるためだ。


そのあきかたが、かなしい。


やさしいひとは、そこでないてしまいそうになる。

くろいひとは、おこる。

なんで、たつのがこのひとなんだって、おこる。

なんで、いちばんさいしょのいたみを、いつもこのひとがもつんだって、おこる。


そのおこりが、わたしのなかでつよくなる。

つよくなるけど、ほんとうにいやなのは、べつのことだって、くろいひともわかってる。


いやなのは、まっすぐなひとがたつことじゃない。

まっすぐなひとだけになってしまうことだ。


そこだけは、やさしいひとも、くろいひとも、おなじだった。


だから、わたしたちは、えらばないまま、きめる。


へんなことばだ。

でも、ほんとうにそうだった。


「あなたがさき」

とは、だれもいわない。

「わたしがのこる」

とも、だれもいわない。


ただ、いま、いちばんあついところにちかいひとが、そのあつさを、そとへつれていく。

そのかわり、のこるふたりは、ちゃんとのこる。

かなしいも、やわらかいかぞえも、うしろへおとさない。

いっしょに、うしろへいれておく。


それが、いまのわたしたちにできる、いちばんひとりじゃないきめかただった。


もしここで、まっすぐなひとだけがきれいにたったら、たぶんそとはすぐにそれをなまえにする。

えいゆう。

ただしいひと。

まえへでるひと。

そういう、ひとつだけのことばにしてしまう。


やさしいひとは、そのなまえをしっている。

えいゆうってよばれるたびに、まっすぐなひとはじぶんのからだより、おもたいものをせなかにのせられる。

せかいとか、ひかりとか、みんなとか。

そんなの、ひとりぶんのせなかにはのりきらないのに、それでもたってしまう。


くろいひとがいやがるのは、そこだ。

なまえは、いつもぬすむ。

せんたくも、まちがいも、にげみちも、ぬすんで、きれいなかんばんだけをくっつける。

せいじょでも、まおうでも、おなじ。

ひとつのなまえにされたしゅんかん、のこりは「ちがうもの」としておいていかれる。


だから、いまは、どのなまえでもよばせない。

えいゆうにも、せいじょにも、まおうにも、まださせない。

それが、さんにんでのこるための、いちばんみにくくて、いちばんたいせつながまんだった。


やさしいひとは、それをいやがる。

そのひとは、そんなことばにされるたびに、じぶんでじぶんをへらしてしまうって、もうしっているから。

くろいひとも、それをいやがる。

そんなきれいななまえで、またしろいそとへとおくいかれるのが、いやだから。


だから、わたしたちは、たたせるけど、ひとつのなまえにはしない。

まえへだすけど、うしろをきらない。

そのへんなわがままを、いまだけはほんとうにしないといけなかった。


どくん。


いしが、さいごにひとつ、つよくあたる。


こんどは、あついみぎが、ほんとうにそとへはじける。

ひじのところで、にぶいねつのひもがひとつきれて、むねへこようとしていたものが、そこでまがる。

そとへ、そとへ、くろいつちのうえへ、しろいぬののほうへ、にげる。


そのしゅんかん、わたしのなかのまっすぐなひとが、まえへでる。


まぶしい、じゃない。

くらい。

くらいのに、たつ。


やさしいひとは、うしろからかぞえつづける。

くろいひとは、しろいそとをおもいながら、でもなまえをいわない。

わたしは、そのあいだの、ほそいみずのうえみたいなところで、ぜんぶをもったまま、ひとつだけめをひらく。


きんのほうが、さきだった。


まぶたが、おもい。

からだがちいさい。

ねむりのしたに、まだふたりぶんのかなしいとやさしいが、ちゃんといる。

でも、いま、まえでいたみをうけるのは、このひとだ。


だから、さいしょにひらくのは、きんのほう。


しろいそとが、いきをのむ。

はんぶんのかたいかたが、これいじょうこないところまでひく。

うしろのひとのひだりが、まださいごのたなとしてのこる。

せのひくいいしのひとが、そこでやっと、いしをにぎりつぶすみたいにてをとめる。


みえる。

きんのめでみると、そとはさっきよりつめたい。

しろいぬの。

しろいかげ。

しろいそと。

どれも、いまのわたしをひとつのなまえでよびたがるくうきが、まだのこってる。


せのひくいいしのひとは、もしわたしがちゃんとひとりになったら、きっとじぶんをせめる。

じぶんがきったからこうなったって、おもう。

そんなことは、ちがうのに。


はんぶんのかたいかたは、もしまっすぐなひとだけがたったら、たぶんすぐにささえなおそうとする。

やさしいわけじゃない。

そういうからだだからだ。

でも、ささえすぎたら、こんどはそのやさしさでひとりにしてしまう。


しろいそとのひとは、もしここでなまえをよんだら、たぶんないてしまう。

ないたら、くろいほうがふりむく。

ふりむいたら、またそちらへおもくなる。


しろいぬののむこうの、こわいひとたちもおなじだ。

ひとりだけがめをひらけば、それをきろくにしたがる。

だれがかえったのか。

なにがのこったのか。

そういう、つめたくて、かたいことばで、すぐにおさめたがる。


それをさせたくない。

まだ、そんなふうにきまってしまってはだめだ。


でも、うしろにはまだ、やさしいかぞえがある。

くろいかなしいもある。

だから、みえても、すぐにはよりかからない。

きんのめだけでみるのに、きんだけにならない。


それが、ぎりぎりたすかる。


わたしは、いやだとおもいながら、でも、ちゃんとわかる。

これは、ひとりになったんじゃない。

ひとりが、さきにいたみをうけるかたちになっただけだ。


そのちがいを、そとへつたえないと、またみんな、こわさでよけいなことをする。


のどがいたい。

でも、ことばをつくらないといけない。


やさしいひとが、まるくする。

くろいひとが、においをけす。

まっすぐなひとが、たつ。


それでやっと、こえになる。


「……なを」


ちいさい。

でも、そとはちゃんときいている。


「かさねるな」


こえにしたしゅんかん、くろいほうがずきりといたむ。

しろいそとをよびたかったからだ。

でも、よばない。

まだ、よばない。

いまはそのほうが、ひとりじゃない。


きんのめのまま、わたしはもうひとつだけ、いきをする。

さんにんぶんのねむりを、ぜんぶほどいたわけじゃない。

ただ、いちばんさきのいたみだけを、ひとつまえへだした。


それでも、そとはきっとまちがえる。

だれかひとりがめをひらいたら、それを「きまった」とおもいたがる。

ひとは、はやくあんしんしたがるから。

だれがかえってきたのか、だれをよべばいいのか、そこだけをきめたがる。


でも、まだ、そこじゃない。

まだ、きめさせない。

それをいうための、さいしょのこえだった。


つぎは、そのまえへでたひとが、そとでどこまで `ひとりきりにならずにいられるか` のはなしだ。


それを、わたしは、まだうしろにふたりをかかえたまま、こわがっていた。


帝国暦849年。冬。

セトの観測石が灰色の `右` を `ひじ` の線で外へ散らしたことで、三位一体の少女の内側では、灰に最も近い `まっすぐなひと` が最初の起き役として前へ押し出されました。しかしそれは完全な単独化ではなく、エリス側の `やさしいかぞえ` とシオン側の `呼ばないかなしみ` を内側へ残したまま、最初の痛みだけを引き受ける不完全な覚醒です。

そのため最初に開いたのは `金の目` でしたが、彼女は起き上がるより先に `名を重ねるな` と外へ告げ、局面はついに `誰が最初に立ったか` だけでなく、`その一人をどうひとりきりにしないか` という次の段階へ入ったのです。

お読みいただきありがとうございました。感想・ブックマークお待ちしています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ