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泥濘のレクイエム ―英雄の残火と、継ぎ接ぎの神魔―  作者: 堀吉 蔵人
第2部

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第57話:破殻の特異点、灰と黄金の落とし子 【リノ】

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「えっ?」


アタシは、泥沼の端っこで卵を抱きしめたまま、間の抜けた声を漏らした。

さっきまで、ヴェルりんたち大人四人がかりで、あの気味の悪い包帯男ファウストをボコボコにしていたはずだった。

なのに突然、泥の底に沈んでいた男の背中の『鉄の棺桶』が、太陽を凝縮したような毒々しい赤黒い光を放ち始めたのだ。


「ッ!? 全員、直ちにその場から離脱しろ!!」


普段は冷え切っているヴェルりんの声が、あり得ないほど焦燥に満ちて裏返った。

レオンのおじさんが大剣を盾にし、ガルドのおじさんが気絶した女のセリアに覆い被さり、セト君が何重もの魔法障壁を展開する。

しかし、そんな防御が紙切れに思えるほどの、圧倒的で、致死量を超えたマナの膨張。


『ア、アァァァァァァッ!! 棺桶ガァァァァッ!!』


狂人の断末魔と共に。

忘却の荒野の泥沼ごと、すべてを消し飛ばす【赤黒い大爆発】が弾け飛んだ。


「ひっ……!」


熱波と衝撃が、アタシと、隣で腰を抜かしているカイルという男の子に襲いかかる。

カイルの右腕にある『灰色の聖剣』が、持ち主の死の危機に反応してギィィィンッと不気味な鳴き声を上げ、灰色の防壁を作ろうと暴走を始めた。


でも、それよりも速かった。

アタシの腕の中で、ずっと脈打っていた『マーブル模様の卵』が。


「あちっ、あちちちっ!!」


卵が、まるで焼けた鉄のように発熱した。

そして、アタシが思わず卵を泥の上に落としそうになった瞬間。


ピキッ……!!


爆発の轟音をかき消すような、ひどく澄んだガラスが割れる音が、アタシの耳の奥で響いた。


バキバキバキバキッ!!!


「う、嘘でしょ……こんな時に!?」


アタシの目の前で、赤黒い爆炎が迫り来る絶望のタイムリミットの中、卵の表面に無数の亀裂が走った。


ドォォォォォォォンッ!!!


ファウストの棺桶から放たれた大爆発が、ついにアタシたちを飲み込んだ。

アタシは目をギュッと瞑り、ただ両腕で頭を庇った。

……ごめん、アレン。アンタの忘れ物、孵せなかった。


だけど。

数秒経っても、アタシの体は吹き飛ばず、熱さも痛みも感じなかった。


「あれ?」


恐る恐る目を開けたアタシの視界を埋め尽くしていたのは、赤黒い爆炎ではなかった。

純白の光、漆黒の泥、そして原初の黄金の炎。

その三つの色が混ざり合った、この世で一番美しくて、禍々しい『三色のドーム』が、アタシとカイル、そしてヴェルりんたち全員をすっぽりと包み込み、あの特大の自爆から完全に守り抜いていたのだ。


「な、なんだこれ……! 爆発が、止まってる……!?」


カイルが、自分の右腕の灰色の剣を押さえながら震え声を出した。


「卵が」


アタシは、自分の足元を見た。

卵は、完全に砕け散っていた。

そして、その割れた殻の中心、三色の光が渦巻く爆心地に、小さな影が一つ、フワリと宙に浮いていた。


「アレン?」


アタシは、呆然と呟いた。

でも、違った。そこにいたのは、アレンではなかった。


光が収まり、灰色の荒野に静寂が戻る。

ファウストの自爆が巻き起こした赤黒い炎は、その小さな影が放つ圧倒的なマナの前に、まるで息を吹きかけられたロウソクのようにジュワッと消滅していた。


「ふわぁぁ」


割れた卵の殻の上にフワフワと浮いていたのは、十歳くらいにしか見えない、小さな【人間の女の子】だった。


アレンと同じ、色素の薄い銀色の髪。

右目は、エリスさんのように慈愛に満ちた透き通る黄金色。

左目は、魔王シオン様のように底なしの絶望を湛えた、深い漆黒。

そして彼女の背中には、片方だけの『黒い泥の翼』が、マントのように生えていた。


「なんだ、あの子。嘘でしょ」


レオンのおじさんが、大剣を取り落としそうになっていた。

ガルドのおじさんも、セト君も、そしてあの悪魔の参謀であるヴェルりんでさえ、目を限界まで見開いて完全に硬直している。


三人の魂とマナが結合した特異点。

それがこの世界に受肉して、導き出した一つの答え。

それは、アレンでも、エリスさんでも、シオン様でもない。三人の要素をすべて繋ぎ合わせて生まれた、全く新しい『落とし子』だった。


「んー?」


その銀髪の少女が、空中でクルリと寝返りを打つように振り返り、アタシを見た。

そして、あの純白の聖女エリスさんのような、優しくて神聖な微笑みを浮かべて、こう言ったのだ。


『――おはよう、リノさん。迎えに来てくれて、ありがとう』


「エ、エリスさん……!?」


アタシが感動で涙ぐみそうになった、次の瞬間。


少女は突然、アレンと全く同じ不機嫌そうな顔つきに変わり、舌打ち(チッ)をして、頭をガシガシと掻き毟った。


『――って、なんで俺の剣がそこのドブネズミ(カイル)にくっついてんだよ! 俺の武器だぞ、返せコラ!!』


「は?」


アタシの涙は一瞬で引っ込んだ。

カイルは「ヒィッ!?」と悲鳴を上げて後ずさっている。


そして少女は、今度はシオン様のように妖艶に(子供の姿なのに!


)ふわりと微笑み、カイルの持つ灰色の剣に向かって両手を広げた。


『――あぁ、アレンの剣……私の、アレン……殺して、奪い返さなきゃ……ふふっ』


エリスの慈愛。アレンの口の悪さ。シオンのヤンデレ。

三つの人格が、一つの小さな体の中で秒単位で切り替わりながら、カオス極まりない産声を上げたのだ。


アタシは口を半開きにしたまま、完全にフリーズした。


アタシは、無言で地面に落ちていた石ころを拾い上げると、その銀髪の少女の額に向かって、全力で投げつけた。


ゴンッ!!


『痛ってぇな!? 何すんだよリノ!!』

「やかましいわよこの多重人格の馬鹿野郎!! どんだけアタシたちに迷惑かければ気が済むのよ!!」


帝国暦849年。

忘却の荒野の爆心地にて。

神の光も魔王の泥もぶち壊す、最高に厄介で最強の『三位一体の少女』が、ついにこの世界に爆誕した。

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