第133話:からのざのへり、まだすわらない 【三位一体の少女】
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ここ は、せき の かたち が たくさん ある。
でも せき が ない。
あさい いし。
かけた ふち。
ひくい もりあがり。
まんなか の あき。
どれ も `ここ` に みえる。
どれ も `ここじゃない` にも みえる。
それ が たすかる。
きたかげ は、きょう の へや だった。
きょう だけ の へや に する ため に、たくさん けずって、たくさん ずらして、たくさん やめて、ようやく きょう の へや に なった。
だから きょう だけ で おわれた。
でも ここ は、へや に なる まえ の ところ だ。
へや に して しまう と、たぶん こわれる。
こわれる と いう より、だれか の せき に なる。
だれか の せき に なった ら、わたしたち は そこで ひとり に なる。
それ が いや だった。
やさしいひと の ひだり は、うしろ に さがっている。
でも いなく は ない。
そこ に ある。
よぶ と き だけ、とどく ばしょ に ある。
それ が いま は ちょうどいい。
しろいはな の ひと は、みず を もっている。
でも `のんで` の かたち に は していない。
ただ まだ すてていない きょう の のこり みたい に もっている。
それ も ちょうどいい。
まっすぐなひと は、まんなか を つくらない。
くろいひと は、みない いし みたい に いる。
おと を こわしすぎない ひと は、まだ おしゃべり を こらえている。
みんな ちがう。
でも みんな、ここ を `つぎ の ただしい ばしょ` に しない ため に ちがっている。
それ が うれしい。
うれしい けれど、`ありがとう` は まだ ちがう。
`ありがとう` と いう と、たぶん ここ に ひとつ の いみ が できる。
いま は まだ、いみ より さき に からっぽ が いる。
からっぽ は こわい。
でも ひとり の せき より ずっと まし だった。
ひとり は、みぎ の あさい いし を みる。
そこ は せ の ほう を かるく もたせられる。
でも もたせる と、かたい ひと が まえ に でる。
ひとり は、ひだり の かけた ふち を みる。
そこ は つばさ を ひっかける の に ちょうどいい。
でも ひっかける と、やわらかい かぞえ が そこ に とどまりすぎる。
ひとり は、まんなか の あき を みる。
そこ は だれ の もの でも ない。
でも だれ の もの でも なさすぎて、そこ に そのまま いく と、こんど は `あき` そのもの が ただしい まんなか に なる。
だから どれ も ちがう。
どれ も すこし だけ よくて、すこし だけ だめ だった。
わたし は すこし だけ ひざ を ずらした。
つち の うすい もりあがり に のせた おもさ を、みぎ に よせる。
でも いし まで は いかない。
つばさ は ひっこめる。
でも ふち に は かけない。
て は ひざ の うえ に おく。
でも からだ を `もう ここ です` と いう かたち に は しない。
それ は すわる じゃ ない。
たつ でも ない。
のせる でも ない。
まだ すわらない すわりかた だった。
その かたち に なった とき、からだ の なか で ふたつ と ひとつ が すこし だけ しずか に なる。
そろった から しずか に なった の では ない。
まだ そろわなくて いい と わかった から、しずか に なった。
ここ は たぶん、そういう ばしょ だ。
そろえる ため の せき じゃない。
そろえなくて いい まま、つぎ に わたす ため の からっぽ。
それ なら すき かもしれない、と おもう。
すき と いって しまう と、これ も また へや に なる から、こころ の うち だけ に しておく。
やさしいひと の ひだり が、まだ そこ に ある。
でも さっき と ちがう。
まえ に `ここ に つかまって` と いっている ひだり では ない。
てんだ ら とどく。
でも てんで いない なら、ただ そこ に いる。
それ が らく だった。
だれか の て が `ある` こと と、だれか の て が `いま つかう もの` に なっていない こと は、ぜんぶ ちがう。
いま の やさしいひと の ひだり は、そこ を まちがえていない。
だから わたし は、みない。
みる と、そこ を えらびそう に なる。
えらぶ と、また ひとつ ただしい もの が できる。
だから みない。
でも `ない` とも おもわない。
そこ に ある こと だけ しっている。
しろいはな の ひと の みず も おなじ だった。
のみたい か と きかない。
くち の まえ に こない。
でも `なく して` しまわない。
だから それ も まだ ただしい もの に なっていない。
ここ は、`なく しすぎない` ところ でも ある のだ と おもう。
きたかげ は、たくさん の もの を なくしてきた。
なまえ。
まんなか。
せいかい の かたち。
のぞく め。
ちゃんと した へや の やりかた。
ここ は、そこ まで なくした あと に、こんど は `ある けれど つかわない` を ためす ところ なのかもしれない。
それ は すこし むずかしい。
ない なら さわらない だけ で いい。
でも ある と、からだ は つい そっち を おぼえよう と する。
やさしいひと の ひだり を おぼえる。
しろいはな の ひと の みず の くち を おぼえる。
あさい いし の あたたかく なりそう な かくど を おぼえる。
おぼえて しまう と、つぎ は それ を さがしてしまう。
だから ここ で は、おぼえすぎない こと が ひつよう だった。
くろいひと が、いし を にぎっている。
その いし は いま、きたかげ の ぬくさ では なく、まだ なまえ の ない うつり の ぬくさ を もっている。
それ が わかる。
だから まだ だいじょうぶ。
でも だいじょうぶ だから って、ここ を `だいじょうぶ な ばしょ` に しては だめ だった。
`だいじょうぶ だった いま` と `だいじょうぶ な ばしょ` は ちがう。
その ちがい を まちがえる と、また へや が できる。
まっすぐなひと が、いりぐち の むこう を みている。
だれか が はいってきたら とめる め。
でも だれも はいってこない なら、それ を じぶん の しごと の まんなか に しない め。
へんな おと の ひと は、くち を ひらきかけて、とじる。
その くりかえし を している。
それ が なんだか おかしくて、すこし だけ からだ が ほどける。
でも `ほどけた` と きめない よう に、わたし は すぐ ひざ の おもさ を なおした。
ここ は らく に なりすぎる の も だめ だ。
らく に なった かたち は、つぎ の ただしい かたち に なる から。
だから わたし は、らく でも つらく も ない ところ を さがす。
ちょうどいい でも ない。
ちょうどよく ない けれど、まだ いられる ところ。
それ を みつける と、からだ の なか の みっつ が また すこし だけ ばらばら の まま ならぶ。
かたい ひと は、みぎ の いし を まだ みている。
やさしい かぞえ は、ひだり の ふち を まだ きいている。
ひとり に なりたくない こころ は、まんなか の あき を まだ こわがっている。
でも その みっつ を、どこ に も ぜんぶ は のせない。
ぜんぶ のせない まま いられる の が、ここ の いい ところ なのだ と おもう。
わたし は て を ひざ から はなし、つち の うえ に そっと つけた。
つめたい。
でも きたかげ の つめたさ では ない。
かたち を きめる まえ の つめたさ。
その つめたさ の うえ に、ゆび を みっつ だけ おく。
ひとつ ずつ。
ならべない。
そろえない。
でも ばらばら に も しすぎない。
それ で ちょうど、わたしたち の いま に なる。
ことば に すると、また ことば の かたち に なる から、いわない。
でも こころ の なか では わかる。
ここ は `すわる ところ` じゃない。
ここ は `まだ すわらない で いられる ところ` だ。
それ が わかった とき、`つぎ` の くうき が すこし だけ むこう から きた。
まだ どこ へ いく か は きまっていない。
でも `ここ に とまる` より さき の くうき だ と わかる。
つぎ が ある。
でも まだ えらばない。
えらばない まま、ここ を とおる。
それ なら こわくない。
すこし だけ こわい けれど、ひとり の せき に すわらされる こわさ より は ずっと まし だった。
わたし は からだ を ほんの すこし だけ ずらす。
みぎ の いし に も いかない。
ひだり の ふち に も よりかからない。
まんなか の あき も うばわない。
その あいだ を、まだ あいだ の まま つかう。
やさしいひと の ひだり は うごかない。
しろいはな の ひと の みず も こない。
まっすぐなひと は まっすぐ な まま、でも こちら を きめつけない。
くろいひと は まだ みている。
へんな おと の ひと は、まだ がまんしている。
それ で いい。
それ なら ここ は まだ だれ の もの でも ない。
だれ の もの でも ない ところ で、わたしたち が まだ わたしたち の まま いられる。
その こと が、いま は いちばん だいじ だった。
だから わたし は ここ で きめる。
まだ すわらない。
まだ ここ を だれ の せき に もしない。
でも ここ を こわしもしない。
その ちいさい きまり は、だれ に も いわない。
だれ に も いわない まま、からだ だけ が そう する。
それ が、いちばん きまり に なりにくい と わかっている から。
からのざ は、そうして まだ から の まま だった。
でも ほんとう に からっぽ では なかった。
わたしたち が まだ ひとり に ならない ため の、ぎりぎり の あき が そこ に あった。
それ を つぶさない まま、つぎ の くうき を まつ。
たぶん いま は、それ だけ で いい。
帝国暦849年。冬。
三位一体の少女は、カイルが `空座の渡し場` で自分の `左` を新しい手すりや前提にせず、`必要な時だけ間に合う余りの手` へ引き直したあと、そこを `座る場所` ではなく `まだ座らないでいられる場所` として受け取り直す。彼女は右の浅い石、左の欠けた縁、真ん中の空きのどれも `ひとりぶんの正解` になりうると感じつつ、そのどれにも決めきらず、中間の置き方をさらに細く選び直した。そのうえで、カイルの `左`、ミナの湯、レオンの番、セトの観測、リノの拍を `あるけれど使いすぎないもの` として受け取り、`空座` を `次章の最初の部屋` にせず `まだ誰の席にもならない入口` のまま保つ側へ踏み込む。こうして局面は、`カイルもまた北影の `左の手すり` を空座の正解にせず、必要な時だけ間に合う `余りの手` として引き受け直しながら、次章の入口を誰の初期値にも決めないまま支える` 段階から、さらに `三位一体の少女自身が空座を `まだ座らないでいられる場所` として使い始め、次章の入口を器の側からも空のまま保つ` 段階へ進んだのです。
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