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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第六章 僕の彼女
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第九十話 未来への、最初の授業

「やるよ。僕も、参加する」


僕の、迷いのない返事。

それを聞いた優愛は、一瞬、驚いたように目を丸くした。

そして、次の瞬間、心の底から安心したように、花が咲くように、ふわりと笑った。


「……そっか。よかった」


その笑顔を守るために、僕は彼女の隣に立つと決めたんだ。

恋人として、そして、最高のパートナーとして。

そのためなら、どんな難しい勉強だって、乗り越えてみせる。


その週末。

第一回目の「光道家・次世代勉強会」が開かれることになった。

場所は、光道本邸。

あの日、僕と優愛が忍び込んだ、あの書斎だった。


「うわ……。明るいところで見ると、また全然違うな」

重厚なマホガニーの机に、天井まで届く本棚。

以前感じた、近寄りがたいような空気はなく、今はただ、歴史の重みと、未来への期待感が、その部屋を満たしているようだった。


部屋には、僕と優愛の他に、美褒、幸葵、そして大学生の和満さんたちの姿もあった。

みんな、少しだけ緊張した面持ちで、用意された席についている。


やがて、書斎の扉が開き、光道四兄弟が入ってきた。

今日の彼らは、社長ではなく、「先生」の顔をしていた。


「ようこそ、光道家の未来たちよ!」

優誓おじいちゃんが、いつも通り豪快に口火を切る。

「今日から、我々が築き上げてきたものの全てを、君たちに伝えていく。心して聞くように!」


最初の授業は、光道家の歴史についてだった。

ひいおじいちゃんが、たった一代で会社を築き上げた苦労話。

四兄弟が、いがみ合いながらも、それぞれの会社を大きくしていった武勇伝。

その話は、僕が知っているどの歴史の授業よりも、ずっと面白くて、エキサイティングだった。


でも、授業が進むにつれて、僕の額には、じわりと汗が滲み始めた。

会社の経営戦略、財務諸表の見方……。

専門用語が飛び交い始めると、もう、僕の頭は完全にパンク寸前だった。


(……やばい。何言ってるか、全然わかんない)


焦る僕の隣で、優愛は、真剣な顔でノートを取り、時々、鋭い質問を投げかけている。

すごいな、優愛は。

それに引き換え、僕は……。

また、劣等感で胸が苦しくなりかけた、その時だった。


机の下で、僕の膝が、こつん、と優しく突かれた。

見ると、隣に座る優愛が、僕の方を見て、にこりと、悪戯っぽく微笑んでいる。

そして、彼女は、僕にしか見えないように、自分のノートの端を、指差した。

そこには、彼女の綺麗な文字で、さっきから僕が理解できずにいた単語の意味が、分かりやすく書き出されていた。


『大丈夫だよ、パートナー』


その、声にならないメッセージ。

それだけで、僕の心の中のモヤモヤが、すっと晴れていくのを感じた。

そうだ。僕は、一人じゃない。


授業の最後。

それまで黙って話を聞いていた、物静かな爽快おじいちゃんが、僕たち全員に、一つの質問を投げかけた。

「最後に、一つだけ。光道の人間として、最も大切にすべきものは、何だと思う?」


幸葵が「お客様からの信頼です」と答え、和満さんが「常に革新を続けるチャレンジ精神だと思います」と答える。

どれも、素晴らしい答えだ。


やがて、順番が、僕に回ってきた。

僕は、一度、深く息を吸った。

そして、隣に座る優愛の顔を、ちらりと盗み見る。

彼女は、僕を信じるように、強く、頷き返してくれた。


「……僕は、まだ、難しいことは分かりません。でも……」


僕は、四人のおじいちゃんたちの顔を、一人一人、順番に見て、言った。


「一番大切なのは、一緒に働く人、関わる人、そして、家族……みんなが、心から笑っていられることだと思います」


その瞬間、書斎の空気が、変わった。

四兄弟は、誰一人、何も言わない。

ただ、その目に、ほんの少しだけ、温かい光が宿ったのを、僕は見逃さなかった。


勉強会が終わった、帰り道。

「……今日の溢喜、すごく、かっこよかったよ」

優愛が、心の底から嬉しそうな声で、そう言ってくれた。


僕の答えが、正しかったのかは、分からない。

でも、僕が、僕自身の言葉で、伝えたいことを伝えられた。

そして、それを、優愛が喜んでくれた。

今は、それだけで、十分だった。


光道家の未来を担うための、長い長い道のり。

その、未来へと続く、最初の授業は、僕らの心に、確かな光を灯してくれた。

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