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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第六章 僕の彼女
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第八十九話 体育着の君に、心を奪われて

『すごく、好き』


昨日の帰り道に、不意打ちで僕に告げられた、優愛からのストレートな言葉。

その破壊力は凄まじく、一夜明けても、僕の心臓を甘く締め付け続けていた。


「おはよう、溢喜」

「おはよ、優愛」


朝、玄関先で顔を合わせた瞬間、昨日の記憶が蘇り、二人して少しだけ、はにかんでしまう。

もう、どちらかが主導権を握るような戦いじゃない。

僕らは、ただ、互いの存在を意識して、幸せな気持ちを分け合っているだけなんだ。


その日の四時間目は、体育の授業だった。

男子はグラウンドでサッカー、女子は体育館でバレーボール。

準備体操をしながら、僕はちらりと、体育館の方に視線をやった。


ガラス窓の向こうで、髪をポニーテールに結い、いつもより少しだけ短いハーフパンツ姿の優愛が、仲間たちとパス練習をしているのが見える。

今まで、何百回と見てきたはずの、体育着姿。

それなのに、今日に限って、ボールを追って軽やかに跳ねるその姿や、汗で首筋に張り付いた後れ毛が、やけに目に付いた。


(……やばい。全然、集中できない)


「おい溢喜! ボール見てねえと危ねえぞ!」

希望の声で、はっと我に返る。

いつの間にか、僕の足元に、サッカーボールが転がってきていた。


授業が終わり、汗だくで教室に戻る。

自分の席でタオルで顔を拭いていると、「お疲れ様」という涼やかな声と共に、冷たいスポーツドリンクのペットボトルが、僕の目の前に差し出された。


「優愛……」

「今日の溢喜、すごかったね。サッカー」

「え、見てたのか?」

「うん。体育館から、ちょっとだけ」


そう言って、彼女は少しだけはにかんだ。

その表情に、僕の心臓が、また大きく跳ねる。

僕が彼女を見ていたように、彼女もまた、僕のことを見ていてくれた。

その事実が、たまらなく嬉しかった。


放課後。

二人きりの帰り道。

僕らは、今日の体育の授業の話で盛り上がっていた。


「でも、本当にすごかったよ。最後のシュート、惜しかったね」

「まあな。あれが入ってれば、ヒーローだったんだけど」

僕がそう言って笑うと、優愛も「ふふっ」と楽しそうに笑った。


その時、ふと、優愛が何かを思い出したように、スマホを取り出した。

「そういえば、週末に、おじいちゃん(優誓)からメッセージが来てたんだ」

「うん」

「光道家のことで、少し新しい話があって」


その言葉に、僕は少しだけ、身構えた。

もう、あの重い過去の話は終わったはずだ。


「跡継ぎのこと、覚えてる?」

「ああ。もう、一人に決めるんじゃなくて、みんなで支え合うって……」

「うん。でも、だからこそ、なんだって」


優愛は、一度スマホの画面から顔を上げ、僕の顔を真っ直ぐに見つめて、言った。

「『これからの光道家を担うのは、若い世代のお前たちだ。だから、そのための勉強会を、定期的に開こうと思う』って。会社の経営のこととか、光道家の歴史のこととかを、ちゃんと学ぶための」


勉強会……。

僕の頭に、あの重厚な書斎の扉と、優誓おじいちゃんの最後の問いかけが蘇る。

『お前が、光道の名を背負って何をしたいのかをな』


「希望者だけで、自由参加らしいんだけど……」

優愛が、少しだけ、不安そうに僕の顔を見る。

彼女は、きっと参加するだろう。


でも、僕の中で、答えはもう決まっていた。

僕は、もう、ただ彼女に守られて、隣にいるだけの男じゃない。


「やるよ。僕も、参加する」


僕の、迷いのない返事に、優愛は驚いたように目を丸くした。

そして、次の瞬間、心の底から安心したように、花が咲くように、ふわりと笑った。


「……そっか。よかった」


その笑顔を守るために、僕は彼女の隣に立つと決めたんだ。

恋人として、そして、最高のパートナーとして。

そのためなら、どんな難しい勉強だって、乗り越えてみせる。


僕らの、恋人としての日々。

そして、光道家の一員としての日々が、また一つ、新しいステージへと、確かに動き出そうとしていた。

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