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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第六章 僕の彼女
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第八十八話 せかいで 一番、甘い戦い

『もう、ただの幼馴染じゃないよ。……僕の、大切な彼女だもん』


昨夜、僕が仕掛けた不意打ち。

その時の、ショートして僕の胸に顔をうずめてきた優愛の姿を思い出すだけで、どうしようもなく、口元が緩んでしまう。

完全に、僕のペースだった。

そう、昨夜までは。


いつもと同じ時間に玄関のドアを開ける。

ガチャリ、と隣の家のドアも、全く同じタイミングで開いた。


「おはよう、溢喜」

「おはよ、優愛」


今日の彼女は、いつも通りだった。

いや、いつも以上に、にこやかで、完璧な笑顔を浮かべている。

僕の顔を見ても、少しも照れる素振りを見せない。


(……あれ?)


少しだけ、拍子抜けする僕。

僕らは、ごく自然に、手を繋いで歩き出した。


教室に入っても、優愛は完璧だった。

希望に「お二人さん、昨日もなんかあったんだろー?」とからかわれても、「さあ、どうでしょう?」と、余裕の笑みで受け流している。

その姿は、まるで昨夜の動揺など、微塵もなかったかのようだった。


(……俺だけが、意識してるのか?)


なんだか、それが少しだけ、悔しい。


昼休み。

四人で集まって弁当を広げていると、優愛が、僕のお弁当箱をじっと見つめてきた。

「なあに、溢喜。今日のお弁当、すごく美味しそうだね」

「え? ああ、まあ……」

僕の母さんが作った、いつもと同じ、普通の弁当だ。


「特に、その卵焼き。すごく綺麗」

そう言って、彼女は、僕がまだ手をつけていない卵焼きを、自分の箸で、ひょいとつまんだ。

そして、僕の目の前で、それを、あーん、と自分の口に運んでみせた。


「……ん、おいしい」


その、あまりにも自然で、あまりにも大胆な行動に、僕の思考は、完全に停止した。

周りで見ていた希望と美褒も、一瞬、固まっている。


「なっ……!」

僕が、何か言おうと口を開く前に、優愛は、僕の顔を見て、にこりと、悪戯っぽく微笑んだ。

その目は、はっきりと、こう語っていた。


『昨日の、お返しだよ』と。


「……っ!」

僕はもう、何も言えない。

顔が、熱い。

心臓が、うるさい。

希望が「お、おおおお前ら、ついにそんな仲に!」と大騒ぎし始め、美褒は「ふふっ、ゆーちゃん、やるねえ」と、楽しそうに笑っている。

完全に、やられた。


放課後。

帰り道も、僕の心臓は、まだドキドキと高鳴っていた。

隣を歩く優愛は、何も言わずに、僕の少し先を、楽しそうに歩いている。


「……優愛」

「ん?」

「……あれは、ずるい」

僕がそう言うと、彼女はくるりと振り返り、太陽みたいに笑った。


「そう? 溢喜が先に、ずるいことしたんでしょ?」

「……それは」

「お互い様、だね」


そう言って、彼女は僕の右手を、そっと、自分の両手で包み込むように握った。

「でも」と、彼女は続ける。


「溢喜のああいうところ、嫌いじゃないよ。……ううん、すごく、好き」


その、あまりにもストレートで、あまりにも破壊力のある言葉に、僕の心臓は、今日、何度目か分からない、最大級の音を立てて、弾けそうだった。

ああ、もう、ダメだ。

この戦い、僕に勝ち目は、ないらしい。


でも、それでいい。

この、世界で一番甘い戦いが、一日でも長く続くように。

僕は、繋がれた手の温かさを感じながら、心の中で、そう願っていた。

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