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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第六章 僕の彼女
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第七十二話 繋いだ手の、新しい意味

親友たちからの温かい祝福を受けた、あの日の午後。

僕と優愛の間の空気は、朝のぎこちないものから、少しだけ、くすぐったいような、でも確かなものに変わっていた。


「じゃあ、帰ろっか」

放課後、僕がそう声をかけると、優愛は「うん」と、はにかみながら頷いた。

今朝、僕が改めて「一緒に帰らないか?」なんて聞いたせいで、この当たり前だったはずの行為が、今はもう、特別な約束みたいになっていた。


二人きりの帰り道。

昨日よりも、ほんの少しだけ、僕らの歩く距離は近い。

時々、腕が触れ合うたびに、お互いの肩がびくりと揺れる。


(……手、繋ぐべきか?)


僕の頭の中は、そのことでいっぱいだった。

でも、どうやって?

なんて言って?

もし、僕の手が汗ばんでたらどうしよう。

そんなことを考えているうちに、タイミングが分からなくなってしまう。


僕が一人で葛藤していると、ふと、隣を歩いていた優愛が、何でもないことのように、僕の小指に、そっと自分の小指を絡めてきた。


「……え」

「……だめ?」


上目遣いで、不安そうに僕を見る優愛。

その表情に、僕の心臓が、大きく、そして温かく脈打った。


「だめなわけ、ないだろ」


僕は、意を決して、彼女の小さな手を、僕の手でそっと包み込むように、握った。

優愛の手は、少しだけひんやりとしていて、でも、信じられないくらい、柔らかかった。

彼女も、嬉しそうに、きゅっと僕の手を握り返してくれる。


「……なんか、変な感じ」

優愛が、繋いだ手をぷらぷらと揺らしながら、楽しそうに笑う。

「何が?」

「今まで、何度も繋いだこと、あったのにね。人混みの中とか、危ない時とか」

「……ああ」

「でも、今のは、全然、違う」


その言葉に、僕も頷く。

今までとは、全く違う。

これは、ただの「幼馴染」の手じゃない。

僕が、世界で一番、大切にしたい女の子の手だ。


僕らは、そのまま何も話さずに、ゆっくりと歩いた。

ただ、繋いだ手から伝わってくる温かさだけで、僕らの心は満たされていた。

いつもより、ずっと短く感じられた帰り道。


家の近くの角を曲がり、僕らの家の前に着く。

どちらからともなく、名残惜しそうに、そっと手を離した。


「……じゃあ、また明日」

「うん。また明日」


自分の家に入っていく彼女の背中を見送る。

一人になった途端、さっきまでの温もりが消えた右手が、なんだか少しだけ、寂しかった。


部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。

天井を見上げながら、僕は繋いでいた右手を、ぎゅっと握りしめた。

まだ、彼女の柔らかさと温かさが、残っている。


恋人になるって、こういうことなのか。

一つ一つの当たり前が、全部、特別に変わっていく。

それは、僕が想像していたよりも、ずっと難しくて、照れくさくて、そして、何倍も、何十倍も、幸せなことだった。

僕は、明日の朝、また彼女と会えるのが待ち遠しくて、幸せなため息をついた。

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