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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第六章 僕の彼女
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第七十三話 君の隣、僕の隣

手を繋いで帰った、あの日の翌朝。

僕は、目覚ましが鳴るよりもずっと早く、目が覚めてしまった。

(……早く、会いたい)

子供みたいに、ただそれだけを考えて、時計の針が進むのを、じりじりと待っていた。

もう我慢できずに、いつもより少しだけ早く玄関のドアを開ける。


隣の家の前で、うろうろと不審者のように行き来する。

数分が、数時間のように感じられた、その時だった。


ガチャリ、と優愛の家のドアが開いた。


「おはよう、溢喜。……って、早くない?」

「お、はよう、優愛!」


僕の声が、自分でも驚くくらい、弾んでいた。

優愛は、そんな僕の様子を見て、「もしかして、待ってたの?」と、少しだけ呆れたように、でも、どうしようもなく嬉しそうに笑った。

「そ、そんなことないだろ!」

「ふーん。まあ、いいけど」


僕らは、昨日よりも、もっと自然に、隣に並んで歩き出した。


「……あのさ」

先に口を開いたのは、優愛だった。

「うん?」

「昨日の、帰り道……。ありがとね」

「え? ああ、別に……」


「ううん。すごく、嬉しかった」

そう言って、彼女は僕の顔をちらりと盗み見た。

その頬が、朝日に照らされて、ほんのり赤く染まっている。

その表情だけで、僕の心臓は、またどうしようもなく高鳴った。


教室に入っても、そのドキドキは収まらない。

授業中、ふと隣を見ると、優愛が真剣な顔で黒板を見つめている。

その長いまつげや、少しだけ開かれた唇。今まで何千回と見てきたはずの横顔が、今は全部、特別に見えた。


(……やばいな、俺。全然、集中できない)


そんな僕の葛藤を知ってか知らずか、不意に、優愛がこちらを向いた。

そして、教科書の影で、僕にしか見えないように、小さく、にこりと微笑んでみせた。

その、反則級の不意打ちに、僕の心臓は完全にノックアウトされた。


昼休み。

「で? 今日は、お手手繋いで登校してきたわけ?」

希望が、弁当の卵焼きを僕の皿に乗せながら、ニヤニヤと言う。

「……なんで知ってるんだよ」

「今朝、うちのクラスの女子が、駅前で見かけたって大騒ぎしてたぞ。『あの二人、ついに!』ってな」


どうやら、僕らの関係は、もうクラスメイト公認の事実になりつつあるらしい。

「まあ、別に、隠してるわけじゃないけど……」

僕がそう言うと、隣に座る優愛が、もぐもぐとサンドイッチを頬張りながら、僕の肩にこつん、と頭を預けてきた。


「え……!?」

「んー? なんか、言った?」


とぼけた顔で、僕を見上げる優愛。

その行動に、希望が「うおっ!大胆!」と声を上げ、美褒は「ふふっ、ゆーちゃん、可愛い」と微笑ましそうに見ている。


「な、なんでもないです……!」

僕はもう、心臓がもたない。

完全に、優愛のペースだ。

昨日、僕がちょっとだけ優位に立ったと思ったのは、どうやら気のせいだったらしい。


帰り道。

「じゃあ、帰ろっか、溢喜」

僕が声をかける前に、優愛の方から、当たり前のようにそう言ってきた。

「……おう」


僕らは、ごく自然に、手を繋いで歩き出す。

もう、昨日みたいに、どちらかがためらうこともない。


「なあ、優愛」

「ん?」

「俺、なんか、完全に負けてる気がする」

「え、何が?」

「いや……なんでもない」


僕がそう言って笑うと、優愛も「そっか」とだけ言って、楽しそうに笑った。

そして、繋いだ僕の手に、きゅっと、少しだけ力を込めてくれた。

その強さが、僕の全ての疑問への、答えのような気がした。


恋人になるって、こういうことなのか。

勝ち負けなんて、どうでもよくなるくらい、ただ、隣にいるだけで、幸せな気持ちになれる。

僕らの、恋人としての日々は、少しずつ、でも確かに、その形を変え始めていた。

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