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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第三章 ふたりの特別な時間
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第二十五話 できたってことは、できるってこと

「お客様にお知らせします。館内はまもなく閉店時間となります。お買い物はお早めにお願いします」

アナウンスが終わると、館内の照明が少しだけ落ち着いた色に変わった。

夕方の空気が、モールの中にもじわじわと染み込んでくる。


「え、もうそんな時間?」

美褒が時計を見て驚いた。

「ほんとだ。あっという間だったね」

幸葵が笑いながら言う。


「ねえ、みんなで写真撮らない?」

流満が突然言い出した。

「いいね!せっかくだし、記念に残そうよ」

和満がスマホを構える。


僕たちはモールの中央にある、ちょっとした広場のベンチに集まった。

夕焼けがガラス越しに差し込んで、みんなの顔を柔らかく照らしている。

「はい、チーズ!」

シャッター音が鳴る。


その瞬間、僕はふと横を見た。

優愛が、少しだけ僕の方に寄っていた。

肩が触れるか触れないかの距離。

その近さに、僕の心臓がほんの少しだけ、余計に動いた気がした。


「もう一枚!今度は変顔で!」

幸葵の声に、みんなが笑いながらポーズを取る。

僕も、少しだけ口角を上げた。

……なんだかんだ言って、悪くない。

笑顔のまま心の中で小さく思った。

そのあと、美褒が撮った写真をグループチャットに共有し始めた。

みんながスマホを覗き込みながら、「これいいね」「流満、顔すごいことになってる!」と盛り上がる。


「そういえば、流満どこ?」

誰かがふと口にした。

「え?さっきまでいたよね?」

和満が周囲を見渡す。

「私たちが写真見てる間に、離れたとこに行っちゃったかも……」

幸葵が言う。

「え、またゲーセン?」

美褒が眉をひそめる。

「とりあえず探そう。閉店時間も近いし」

優愛が立ち上がる。

「じゃあ、手分けしよう。私は雑貨屋の方見てくる」

幸葵が言う。

「私はフードコート」

美褒が続く。

「じゃあ、溢喜と優愛はゲーセンの方お願い」

和満がさらっと言った。


ふ、二人で?

別に一人でも行けるのに……。

「行こ、溢喜」

優愛がそう言って、僕の腕を軽く引いた。

「え……あ……」

僕は何も言い返せずに、優愛の後ろをついていった。


モールの奥にあるゲームコーナーは、照明が少し落ちていて、昼間よりも静かだった。

人もまばらで、機械の音だけが響いている。

「……流満、どこ行ったんだろ」

僕が言うと、優愛が小さく笑った。

「きっと、ぬいぐるみか何かに夢中になってるんじゃない?」

「それならいいけど……」


UFOキャッチャーの並ぶ通路を抜けたところで、僕はふと口を開いた。

「……僕さ、最初こうやってみんなと遊ぶの、無理だと思ってたんだよね」

優愛は立ち止まり、僕の顔をちらりと見た。

「うん。分かるよ、その気持ち」

その言葉に、僕は少し驚いた。

行きの新幹線でも、モールの中でも、優愛はずっと楽しそうだったのに。


「でも、優愛はみんなの輪に入って、自然に話してたじゃん。僕は……ただ流されてただけっていうか……」

「じゃあ、溢喜は楽しくなかったの?」

僕は言葉に詰まった。

楽しくなかったわけじゃない。

でも、どこかで“自分は場違いなんじゃないか”って思ってた。


優愛は僕の前に立ち、少しだけ首をかしげた。

「溢喜、今日もかっこよかったよ。みんなが何かやりたいって言っても、文句も言わずに一緒に動いてくれて。それって、すごいことだよ」

「……それは、まあ……」

「それができたってことは、できるってことだよ。“ガチで”って言うの、やめてくれたし」


僕は目を伏せた。

知らない間にやめられたんだ。

それができたのは、たぶん……優愛がいたからだ。

「ありがと、優愛」

僕がそう言うと、優愛は、少しだけ笑った。

その笑顔は、今日一日で見たどの景色よりも、僕の心に残った。


そのとき、奥の方から「いたー!」という声が響いた。

流満が、ぬいぐるみを抱えて走ってくる。

「ごめんね〜!どうしても欲しくて、ちょっとだけ遊んでた!」

「もう、勝手にいなくならないでよ」

優愛が笑いながら言う。

もし僕が流満と全く同じことをしたら、きっとめちゃくちゃ叱られるだろう。

でも、流満は許される。

それが子どもってやつだ。

……少し、うらやましい。


「じゃあ、行こっか」

優愛はそう言って、流満と手をつないで歩き出す。

僕は二人の後ろ姿を見ながら、さっきの優愛の言葉を思い返していた。


「それができたってことは、できるってことだよ」


“ガチで”という言葉を手放した僕は、少しだけ前に進めた気がした。

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