第百九十七話 空と部屋と防衛線
そんな攻防を続けて数十分。
絶え間なく訪れるかと思った魔物達は、ようやく落ち着きを見せ始めていた。
「空! 見た感じ、団体は今ので最後!」
言ってくるのは胡桃である。
彼女は《イージス》で作った盾の向こうを見ながら、空へと続けてくる。
「残ってるのはせいぜい十匹前後だけど、最後までこれを続ける?」
「うん、最後までこの戦法を取った方が安全だか――」
「っていうと思ったけど、最後くらい戦わせなさいよね! どれくらい強くなったか、試してみたいし!」
「いや、でも……」
残ってる魔物はどれも弱いものばかり。
今の胡桃が負ける可能性など、万が一にもない。
けれど。
(胡桃にはトラウマがある。大丈夫になってきてるとはいえ、また突然トラウマが襲ってきても、まったくおかしくはないんだ)
と、空はここでとあることに気が付く。
それは。
「こういうこというのも悪いんだけどさ。胡桃、そういえば身体がまったく震えてないけど」
「え、そういえばそうね。前は怖かったのに、今は全然魔物を怖いと思わないわ」
と、本人も今気が付いたといった様子の胡桃。
空と胡桃が不思議に思っていると。
「それでしたら、勇者様の力のおかげかと思います」
言ってくるリーシャ。
彼女は空の手をきゅっと握ったまま続けてくる。
「勇者様の力は身体面だけでなく、精神面でも人を強くしてくれると言われています。クルミ様が何かを恐れていたなら、きっとそれを克服できるくらい、心が強くなったのかと」
「へぇ~そう、つまり」
と、胡桃は邪悪な笑みを浮かべる。
直後。
「あたしの強さを空に改めて見せるチャンスってわけね!」
言って、胡桃は勝手に《イージス》を解除してしまうのだった。