第百七十五話 空と勇者の仲間達
時は起床事件から数十分後。
場所は宿屋裏の空き地。
さて、空が試しておきたかったこと。
結論からいうと、その一つは大成功だった。
「クー、すごい! 空間転移が使えるんだ!」
と、言ってくるのはシャーリィである。
リーシャはそんな彼女を、ぽかんとした様子で見ながら、空へと言ってくる。
「あ、あの……これはどういうことでしょうか? あの方はいったい……」
「えっと、説明すると長くなるんだけど――」
と、空は今何が起きているのかを、リーシャへと言う。
それをまとめると、こんな感じである。
空が日本という異世界で暮らしていること。
空には《道具箱》という、異世界を行き来するゲートを作る異能があること。
そして。
その《道具箱》にとある変化が起きたということだ。
変化の内容はこんな感じだ。
●一度に複数のゲートを作り出せるようになった。
●一度訪れた場所ならば、どこでもゲートをつなげられるようになった。
後者は要するに某ネコロボットの『どこからドア』の、縛りがある版みたいなものだ。
(これまでレベル上げてきたのもそうだけど、リーシャから召喚されてブーストかかったのが、異能が変化した要因だろうな……というか)
変化というよりは進化だ。
異能は身体の一部。
使用者が強くなれば、異能も強くなるのは当然のことと言える。
けれど、これは大分便利になったものだ。
(異世界の特定の場所から、異世界の別の場所へ瞬時に行けるようになったわけだけど……どう考えても便利すぎるよね)
もちろん、それは日本においても言える。
空は東京から京都まで、半ば瞬間移動できるようになったのだから。
「あの勇者様……それで、あの方は?」
と、言ってくるのはリーシャである。
ここで、空はシャーリィの紹介をすっかり忘れていた事に気が付く。
けれど、彼が彼女の紹介をする前に――。
「シャーリィはシャーリィだ! クーの奴隷だ!」
と、シャーリィはリーシャへ言う。
すると、そんなリーシャは驚いた表情で、彼女へと言うのだった。
「そ、そんな! 勇者様が……奴隷を買うなんて……ち、違います! ありえません!」
「ありえなくない! シャーリィはクーの奴隷だ! クー専用の狐なんだ!」
「や、やめてください! 勇者様を汚さないで!」
「ちょっと待った!」
と、空は二人の間に割って入る。
シャーリィをこの場所に連れてきたのは、事態をややこしくするためではない。
「僕はこの後、日本でちょっと用事を済ませてくるから、それまでシャーリィにリーシャの護衛を頼みたいんだけど、大丈夫かな?」
「大丈夫だ! シャーリィにお任せだ!」
「ま、待って下さい、勇者様! シャーリィ様のお話がまだ!」
と、シャーリィとリーシャはそれぞれ言ってくる。
けれど、空は「詳しくはあとで」と、二人を残しゲートをくぐるのだった。