第百七十二話 空はリーシャに勘違いされてみる
「……よし」
と、空はリーシャへ手を延ばす。
その理由はただ一つ。
眠っているリーシャを、ベッドへ移動させるためだ。
そして、代わりに空が床で眠る。
今回のミッションを具体的に言うならばこうだ。
●段階1
リーシャは案外わがままで、床で眠ると言ってきかない。
ならば、とりあえずは一旦床で寝かせてしまう。
●段階2
リーシャが眠ったところで、空はベッドから起きる。
そして、彼女が床で熟睡しているところを確認。
●段階3
眠っている彼女を持ちあげ、ベッドに移動させる。
その後、空は床で眠る。
つまりそう、空が今からするのはこの段階3だ。
失敗することは許されない。
と、空はそんなことを考えながら、リーシャの身体を持ちあげる。
「……んぅ」
すると、リーシャは空の腕の中で身じろぎをする。
環境が変わったことで、体が無意識的に反応したに違いない。
けれど、この程度は想定の範囲内だ。
(リーシャが完全に起きなければ問題ない……ゆっくり、そっと)
空は一歩一歩を踏みしめるように、ベッドへの道を歩んでいく。
だがしかし、ここで問題は発生した。
ぷ~ん。
ぴと。
「っ!?」
空の鼻に刺客――小さな虫が止まったのだ。
小虫はなかなか離れようとせず、空の鼻を歩きまわる。
(む、無視だ……くすぐったいけど無視すれば――)
と、空がそこまで考えた時。
「は、はっくしょんっ!」
空は盛大にやらかしてしまうのだった。