第百七十一話 空とリーシャは宿屋にて③
リーシャに仲間の話をされてから数十分後。
現在、空はとあるミッションに挑んでいた。
(リーシャ、ちゃんと寝てるよね?)
と、空はなるべく物音をたてず、床で眠っているリーシャを見る。
彼女がこうして、床で眠っている理由は簡単だ。
『いえ、わたしは床で寝ます。勇者様と同じベッドなんて……恐れ多くて死んでしまいます! 最初から床で寝るつもりで、ベッド一つの安いお部屋にしたんです!』
以上、眠る直前になって言ってきたリーシャの言葉だ。
空としては、むしろ自分が床で寝ようとしていた感もあった。
そのため、この言葉は本当に驚いた。
驚いたと言えばもう一つ。
「床なんて寝にくいだろうに、すごい寝つきの早さだな……」
リーシャはやはり、相当疲れていたに違いない。
目の前で従者たちが殺され、自らも追われ。
助かりはしたが、残ったのは従者たちの惨たらしい死体。
(やっぱり、どう考えても床で寝るべきなのは、リーシャじゃないよね)
と、なればやはりミッションを遂行するしかない。
故に、今の空に必要なのは確認である。
「リーシャ、起きてる? おーい、リーシャ?」
つんつん。
つんつんつん。
「リーシャ、大変だ!」
ゆさゆさ。
ゆさゆさゆさ。
「……よし」
これだけやっても、リーシャは眠ったままだ。
こうなればもう、あとは空の覚悟だけ。
空は何度か深呼吸したのち、眠っているリーシャへと手を延ばすのだった。