第百六十九話 空とリーシャは宿屋にて
時はあれから数時間後、夜。
場所は宿屋の一室。
「ダメです! どうしてそうなことを言うんですか!」
と、言ってくるのはリーシャである。
彼女は「む~」っと、頬を膨らませながら空へと言ってくる。
「勇者様と聖女は一緒にいるものなんです! それにもう、部屋だって取ってしまいました! 今更です!」
「いやそうだけどさ……確かに僕も、今日は傍に居て守るっていたけどさ……」
まさかリーシャが宿屋で、部屋を一つしか取らないとは思わなった。
要するに同室だ――ベッドも一つしかないおまけつきだ。
(しかも僕がお金を払ったわけじゃないから、あんまり強く言えないのが痛い)
寝る時だけ日本に帰るという手もあるにはある。
けれど、さすがに今日の今日で彼女を一人にするのは、空の良心が許さない。
と、空がそんな事を考えていると。
「ところで勇者様、身体の調子はどうでしょうか?」
言ってくるリーシャ。
彼女は空の隣に腰掛け、空をぺたぺた触りながら続けてくる。
「勇者様は召喚されたばかりです。わたしとのラインは繋がっているはずですか、なにか気分が悪いといったようなことはありませんか?」
「うん、特になさそう。ところでラインって何かな?」
「はい、ラインは召喚魔法の術者と召喚獣との間にできる、特殊な繋がりのことです」
「あぁ、僕の力が強化されるのもそのラインのおかげ……ってことかな?」
「さすがは勇者さまです、その通りです!」
と、またもお祈りモードのリーシャ。
彼女はそのまま空へと続けてくる。
「あと、伝承の通りならば……わたしはいつもで、勇者様を召喚できるようになったはずです」
「つまり距離や時間は関係なく、リーシャが呼びたいタイミングで、僕を呼べる?」
「は、はい……その、不快でしたでしょうか?」
「いや、そんなことないよ」
むしろ好都合だ。
それならば、空は時を見て日本に戻ることが出来る。
有事の際は、リーシャの方から召喚してもらえばいいいだけなのだから。
さて、召喚についてはだいたい理解した。
となれば、聞くべきことは一つ。
「リーシャはどうして、あんな状況に陥っていたの?」